TeleGraphic
ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇で新たな知覚を得る
研究開発のネタをアート/デザインの現場から探る(No.6)
2024.11.25
Updated by Masayo Yaso on November 25, 2024, 11:54 am JST
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2024.11.25
Updated by Masayo Yaso on November 25, 2024, 11:54 am JST
まったく何も見えない暗闇を経験したことはありますか?私は先日、東京・竹芝にあるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」で体験してきました。こちらのミュージアムでは、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、視覚障害者の方のアテンドのもと“純度100%の暗闇”の中を冒険するプログラムが開催されています。本プログラムは、1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏によって発案されて以来、世界47カ国以上の900万人を超える人々に、そのうち日本では24万人以上に体験されています。
私が参加したのは、ダイアログ・イン・ザ・ダークの秋限定プログラム「秋のまっくら大運動会」。日本では四季に応じてプログラムを変えているそうで、今秋は「運動会」がテーマでした。
会場に向かう前に、暗闇で光ってしまう可能性がある携帯電話や時計やアクセサリーなどをコインロッカーに預け、動きやすい服装で臨みます。プログラムは1チーム最大8名。今回のチームメンバーは、私と同行カメラマン、そして他5名の一般参加者の方々の計7名でした。会場入り口にて、視覚障害を持つアテンドのナオキさん(ニックネーム)に白杖の使い方など各種レクチャーを受け、プログラム開始です。
当初「暗闇といっても目が慣れたらぼんやり何か見えるのでは」という甘い考えを持っていました。が、そんなことは全くなし。比喩ではなく、本当に自分が目をつぶっているのか開けているのかわからなくなる、真の暗闇。視覚以外の感覚を総動員させて、暗闇と対峙します。そのような中、本プログラムでは「運動会」の多様な種目にチャレンジします。
不慣れな暗闇に不安が首をもたげてきたとき、頼りになるのが、まずチームメンバーの声。事細かに状況を声に出して伝えなくては種目のクリアは困難なので、初対面でも恥ずかしがることなく(それどころではない)、密にコミュニケーションを取ります。そして何よりアテンドのナオキさんの絶対的な安心感。私たちが暗闇でおろおろしている中、微笑みながら見守っている様子が声で伝わります(もちろん見えてはいないので勝手な想像です)。プログラム終了後、ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」を運営されている一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ 運営統括事務局 シニアマネージャー 佐川 久美子 氏に「アテンドの方々は参加者が少し迷っている様子が足音や白杖の使い方でわかるそう」と伺いました。視覚障害者の方たちは、暗闇のプロフェッショナルなのです。
さて、お休みしている視覚に代わって、次第に冴えてくる聴覚・触覚をはじめとする四感を働かせながら種目をクリアしていると、気が付いたらあっという間に90分経ってプログラム終了となりました。体感は30分程度。暗闇によって集中力が増していたのか、それとも時間感覚が変わっていたのか。不思議な気持ちで90分ぶりに暗闇から光のもとに出たのでした。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク終了後、ナオキさんやチームメンバーの方々と少々雑談しました。ナオキさんから、音声による通知もなく暗闇で私たちを時間通りに案内できた秘密や、匂いによる大手コンビニエンスストアの判別方法を教えてもらい、いかに自分が視覚一辺倒で日々を過ごしているのかを痛感。自分の周りから発せられるあらゆる情報は、五感すべてで受けているはずなのに、視覚センサーが反応したものばかり知覚しているのです。視覚障害者の方の感覚の鋭さに触れて、感心しきりでした。
なお帰宅道中、匂いを嗅ぎながら某コンビニエンスストアに立ち寄り、「これか!ナオキさんが言っていたことは」と、新たな世界の捉え方を知った私でした。
私が体験したダイアログ・イン・ザ・ダークは、小学1年生以上で90分歩けるならば、誰でも参加可能で、親子や友達、恋人、もちろん1人でも、様々な方が体験されているとのこと。
その他、企業研修用としてワークショップ形式のプログラムも用意されています。こちらは一般参加可能なプログラムとは全く別の内容となり、企業の抱える課題に応じてカスタマイズされ、参加者の行動変容に繋がるようになっています。例えば、新人研修や内定者研修、昇格時研修などに利用されており、毎年新人研修に使っているようなリピーター企業も多いそうです。
先の佐川氏は、「暗闇は協力関係を強制的につくる空間になっているので、日頃コミュニケーションが少ないチームであったとしても、必ず発信と受信が行われる」と言います。また「リーダー層の方だと“自分はメンバーにチームの目標を伝え、指示を完璧に出しているつもりだったけれど、相手の受け取り方が違うのではないか、もしかして自分の意図が伝わっていないのではないか、という風に暗闇の中で気づいた”という感想がある」そうです。
エンジニア/リサーチャの方でしたら、普段接する所属部署のメンバー同士でもよいですが、例えば新規プロジェクトメンバーなど、あまり関わったことのない人たちと参加する方が、得るものが多いかもしれません。相手を知らないからこそ、暗闇の中での気づきが一層深くなり、チーム・ビルディングにも役立つように、私は思います。
ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」では、ダイアログ・イン・ザ・ダークの他にも、聴覚障害者の方のアテンドによる「ダイアログ・イン・サイレンス」や、高齢者の方のアテンドによる「ダイアログ・ウイズ・タイム」というプログラムも提供しています。期間限定開催の場合がありますので、必ず公式サイトで詳細を確認ください。
今回の記事は、あえて写真を載せません。文字で説明することさえ野暮な気がしてきました。ぜひ、ダイアログ・イン・ザ・ダークで<視覚以外を使って>世界を感じてきてください。
住所:東京都港区海岸一丁目10番45号 アトレ竹芝シアター棟 1F
詳細は公式サイトをご確認ください。
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情報技術開発株式会社 経営企画部・マネージャー
早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。2024年4月より「シュレディンガーの水曜日」編集長を兼務。