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デザイン細胞開発プラットフォームで「CAR-T細胞療法」を最適化する/奥田智彦(日立製作所研究開発グループ Next Research デザイン細胞プロジェクト)

デザイン細胞開発プラットフォームで「CAR-T細胞療法」を最適化する/奥田智彦(日立製作所研究開発グループ Next Research デザイン細胞プロジェクト)

Optimizing CAR-T cell therapy with a Designed Cell Development Platform

September 3, 2026

森山和道 k_moriyama

広島大学理学部卒。TV局勤務を経て1997年からサイエンスライターとして活動開始。科学技術全般のほか、製造、物流、医療、農業、食品、アパレルなど多分野で使われているロボットやAI関連の取材・執筆がメイン。WirelessWire & Schrodinger's では主に日立製作所・研究開発グループの「最先端技術の源流」を担当。

がん治療で用いられる「CAR-T細胞療法」は、患者自身の免疫力の要であるT細胞(=T細胞受容体というタンパク質分子を介してさまざまな異物を認識して攻撃する免疫細胞)に、改変が施されたキメラ抗原受容体(CAR:Chimeric Antigen Receptor)の遺伝子を導入することで、がん細胞への攻撃力を高める革新的な治療法である。がん細胞を高い特異性で認識する抗体と、がん細胞への攻撃活性が強いT細胞の利点を併せ持つのが強みだ。しかしながら、リードタイムが長い、費用が高額、固形がんへの効果が限定的、といった課題が存在する。日立ではこうした治療の効果を高めるために、遺伝子を改変して特別な機能を付加した細胞を「デザイン細胞」と称して研究開発に取り組んでいる。研究開発グループ Next Research デザイン細胞プロジェクトの奥田智彦らは、生成AIとタンパク質言語モデルを組み合わせ、最適な遺伝子配列をコンピュータ上で予測する画期的なプラットフォームを開発した。この技術により、従来は年間数十種類だった細胞の評価が10万種類規模へと飛躍的に向上し、実験コストと開発期間の劇的な短縮が可能になる。デジタルとバイオを融合させたこのアプローチは、安全で強力な次世代の免疫療法を患者へ迅速に届けるための鍵として期待されている。機械学習を活用して次世代のCAR-T細胞療法を効率的に設計・最適化するための技術手法について話を伺った。

(本記事は、日立製作所・研究開発グループ「最先端技術の源流」の抄録です。図解付きの全文はこちらから)

執筆:森山 和道(サイエンスライター)

がん免疫療法「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法」

2012年、ペンシルベニア大学のカール・ジューン教授らが中心となって、急性リンパ性白血病(ALL)を患う当時6歳のエミリー・ホワイトヘッドさんへの治療が実施された。彼女は重い副作用を乗り越えてがんを克服。ジューン教授らはその後、ノバルティスと共同でCAR-T細胞治療薬「キムリア(Kymriah)」を開発し、2017年に米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた。これが、がん免疫療法の節目となった。その後もCAR-T細胞療法は、持続性やターゲティング、制御など研究開発が進められ強化し続けており、免疫療法、遺伝子療法、細胞療法を統合した個別化医療として、特に血液がん治療に劇的な進歩をもたらしている。

具体的な治療のプロセスはこうだ。まず患者の血液からT細胞を分離して採取したあと、レンチウイルスベクターなどを用いてCAR遺伝子を導入する。こうして作られたCAR-T細胞を大量に培養し、点滴により患者の体内に戻す。そして体内でがん細胞を直接標的化し、破壊する。日本国内でも2019年以降、主に再発・難治性の血液がんを対象に複数の製品が保険適用され、従来の治療に抵抗性を示す難治性疾患への新たな選択肢となっている。しかし、胃がんや肺がんなどの固形がんへの適応拡大、サイトカイン放出症候群などの副作用の制御、細胞の改変・増殖に数週間から1か月以上を要する製造期間の短縮、そして高度な設備を持つ認定医療機関が都市部に集中していることによる地域格差や高額な医療費といった課題が依然として存在する。

日立では、これらの課題を乗り越えるため「デジタル×バイオ」の融合研究を加速させている。日立はもともと高品質な細胞を安定して大量に供給するため、熟練者のノウハウを再現した自動培養装置の開発をリードしており、iPS細胞自動培養装置の実用化などを実現してきた背景がある。細胞の採取から製造、輸送、投与に至る複雑なプロセスをデータでつなぎ、安全性を担保する統合管理プラットフォームも持っている。さらに、膨大なデータから薬剤の効果を左右する因子をAIが高速探索し、数式として提示するバイオマーカー探索プラットフォーム「B3 Analytics」を製薬会社に提供している。細胞培養加工施設のトータルエンジニアリング技術も保有しており、CAR-T細胞療法への取り組みもこの延長線上にある。

デザイン細胞開発プラットフォームとDBTLサイクルによる高速開発

日立の研究開発グループが開発したデザイン細胞開発プラットフォームは、AIとオートメーション技術を用いて、最適なCAR-T細胞を効率的に探索する。生成AIを用いた遺伝子配列の自動生成とハイスループットな細胞評価を組み合わせることにより、従来の1,000倍以上に相当する年10万種類規模の細胞設計・評価が可能となり、次世代の安全で効果的なCAR-T細胞開発が現実のものとなりつつある。「デザイン細胞開発プラットフォーム」では以下のDBTL(Design-Build-Test-Learn)サイクルを複数回実行することで、薬効の最大化を図る。

Design(設計): 細胞に付加したい機能に対応した、もととなる遺伝子配列と、それに対して変異を入れるなどして配列にバリエーションを持たせた遺伝子断片群を準備する。
Build(構築): これらを用いて異なる遺伝子をそれぞれ一つずつ持ったデザイン細胞の候補となる細胞群を作成する。細胞への遺伝子導入はロボットを使うことでハイスループットで自動化されている。
Test(評価): それぞれの細胞が当初想定したとおりの機能を持っているかどうか、その機能の強さはどの程度かといったことをハイスループットスクリーニング(大量自動評価)でテストする。セルソーターなどの自動機器を活用することで、CAR-T細胞の場合はがん細胞に対する攻撃の強さを、一度に14,000種類の細胞に対して自動評価することができる。このように「プールスクリーニング(単一細胞レベルの解析)」と「アレイスクリーニング(自動化された機能解析)」を組み合わせ、年10万種類規模の評価を実施する。
Learn(学習): 高い機能を示す細胞を抽出し、そのような細胞がどのような配列の遺伝子断片を持っているかを確認する。どのような配列を持つ遺伝子が高い機能を示すのか、といった遺伝子配列と活性データの相関関係に関する独自のデータに基づいた大量のデータが得られる。これに論文などオープンなデータベースの情報も組み合わせて、機械学習を用いて最適な遺伝子配列を生成するAIを構築する。この遺伝子配列生成AIを用いることで、1億通りの組み合わせに及ぶ新たなCAR遺伝子配列を効率的にデザインする。

こうしたDBTLサイクルを回すことで、人の手で行えば10年はかかる結果が数か月で導き出せるほど高効率に、目標とするデザイン細胞を作出できるだけでなく、より高機能かつ安全な細胞を作り出すことができる。さらに、これまでに日立が研究・開発してきたiPS細胞自動培養技術などのノウハウをデザイン細胞の製造に活かすことによって、より高速で安価なデザイン細胞を届けることができるようになるという。

CAR-T細胞療法は血液がんに対して高い治療効果が示されているものの、がんの多くを占める固形がんに対しては副作用や有効性などの課題を抱えている。これに対して日立では山口大学 大学院医学系研究科 免疫学講座 教授の玉田耕治氏らの研究チームと共同で、難治性の固形がんに対して高い治療効果を発揮しうる次世代CAR-T細胞を独自に創生し、その実用化に向けた研究開発を進めている

(本記事は、日立製作所・研究開発グループ「最先端技術の源流」の抄録です。図解付きの全文はこちらから)

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