SNS(ソーシャルネットワークサービス)をプラットフォームとして提供される「ソーシャルゲーム」が急成長を遂げている。ウェブブラウザやケータイ、スマートフォンなどで手軽に遊ぶことのできるカジュアルなミニゲームは以前からあったが、SNSが持つソーシャル機能と連動して、他のユーザーとの競争、対戦、共同作業といったコミュニケーション要素を盛り込むことで、ユーザーに対して強い訴求性を獲得した。また、多くのソーシャルゲームは、いわゆる「フリーミアム戦略」をとっており、ゲーム自体は無料で遊ぶことができるが、ゲームの進行を早めたり、多ユーザーとの競争を有利できたりするアイテムを有料で販売しており、これによる課金が売上の大半を占めるようになった。
ソーシャルゲーム先鞭を付けたのはFacebook上で提供された「Citybille」を初めとするPCユーザーを主対象としたゲーム。Citybilleの提供元「米Zynga」はこの成功によって2012年12月にはIPOを果たした。国内ではモバゲー(株式会社ディー・エヌ・エー)、グリー(グリー株式会社)、mixi(ミクシィ株式会社)という、SNSの大手が2009年頃から参入し、特にモバゲーとグリーは日本の携帯電話の課金プラットフォームを活用することでゲーム内での課金のハードルを下げ、売上を大きく伸ばすことに成功した。海外のソーシャルゲームがFacebookなどでPCユーザーを対象にしたものが多い一方で、日本のソーシャルゲームはモバイルユーザーを主対象としたことで、ユーザーベースに比して高い利益率を実現している。
2011年は国内での高収益を背景に、日本企業の海外進出の動きが活発化した。ディー・エヌ・エーは2010年に買収した米ngmocoのソーシャルゲームエンジン「ngCore」を、ゲーム開発者に対して公開。グリーもソーシャルゲームプラットフォームを提供する米OpenFeintを買収したり、課金プラットフォームの「米PayPal」と提携したりと、海外展開に向けた足固めを行っている。
世界的にもソーシャルゲームの主要ターゲットはスマートフォンを筆頭とするモバイルユーザーとなりつつあり、そこで先行する日本企業の躍進が期待されるが、海外での知名度の低さからユーザーと開発者集めでの苦戦もささやかれている。ZyngaもIPOによって得た資金を背景に、モバイルへ注力すると見られており、激しい競争が見込まれている。IT系ベンチャー企業の動向に詳しい「TechCrunch Japan」の西田隆一編集長も「2012年はある程度、勝負が見えて来る年になるが、世界的にもプレイヤーやトレンドの過渡期のため、グローバルな戦いにおいてどんな結果になるか見えにくい」と語る。
急激な業界拡大の一方で、社会的な問題点も表面化している。TVCMなどの宣伝において「無料で遊べる」という点を大きくアピールしながら、実際のゲーム内では課金なしではゲームをクリアできないといった苦情も出ている。行きすぎた「フリーミアム戦略」に対しては、消費者庁が景品表示法上、問題となる場合があると指摘する自体となっている。
また、SNSにおいて以前から問題となっていた、未成年が性犯罪に巻き込まれる事件も後を絶たない。健全な「非出会い系」で被害にあう事例が増えたことから、警察庁がグリーなどの事業者名を公表するまでになっている。多くの未成年ユーザーを抱える傾向にあるソーシャルゲーム・SNS事業者は、これらの問題に対応しなければ、将来的には政府による規制が行われ業界の成長に大きな足枷となる可能性もある。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらインプレスにてimpress Watch編集記者と月刊誌「インターネットマガジン」編集者を経て、社内シンクタンクの研究員を務めたのち2007年に独立。フリーランスのライター、編集者、ウェブディレクターとして活動。IT系ウェブメディアから総合誌、フリーペーパーなどで執筆。