「パーソナルクラウド」とは、コンシューマにおけるGmailなどを代表とする個人向けクラウドサービス全般を意味する。IT業界では、コンシューマで利用が始まったものがエンタープライズにも利用される傾向があり、今となっては企業利用が当たり前と思われているクラウドサービスも、当初はコンシューマサービスから始まっていた。当時はパーソナルクラウドとは呼ばれていなかったが、企業利用が加速するにつれ、個人で利用可能な様々なクラウドアプリケーションを、企業利用とは区分してパーソナルクラウドと呼ぶようになった経緯がある。
クラウドの普及期とほぼ呼応して同時期に起こり始めたソーシャルメディアなどのサービス利用によって個人が所有するデータや外部の友人と共有するデータも爆発的に増加し、管理が困難となることが課題となってきた。更にスマートフォンやタブレットなど、複数のデバイスから、様々なWebサービスを連携して利用したいというニーズも高まっていた。つまり、個人にとってのデジタルライフはこのようなマルチデバイスとマルチサービスに分散しており、これを追跡、管理することが次第に難しくなりはじめている。そこで自分が蓄積、投稿、共有したことをすべて一元的に表示、管理できるような環境、サービスの出現が望まれるようになってきた。
代表的なものではGoogle Docs、オンラインのメモ帳・クリッピングサービスEvernote、オンラインストレージサービスDropbox、Sugar Sync、Windows環境と親和性の高いWindows Live Skydrive、Appleが提供するiCloudなどがある。これらは単独でもデスクトップPCとスマートフォンの間でファイルを連携すると行ったマルチデバイス連携や豊富な機能を持っている。特にEvernoteなどは他のWebサービスと連携したエコシステムを形成し始めている事が特徴的である。そのほかにもSNSであるTwitter、Facebook、写真共有サービスFlickr、Instagram、Tumblr、Picasaなどと連携してそれらに投稿したデータを統合的に管理するJolicloudといったアグリゲーション主体の統合サービスも出始めた。更にハードウェアで手元のネットワークに繋いでおけば外部からのアクセスも可能な自営のパーソナルクラウドを実現するPogoplugなどの製品も出始めた事でパーソナルクラウド領域の今後に期待が掛かることとなっている。
ここでパーソナルクラウドが着目され始めたきっかけとして押さえておきたいのは、これまでの潮流となっているオープン、パブリックな潮流が加速するにつれ、その逆に、一人一人が自分の大切なものをクローズドにプライベートに管理・共有したいというニーズも現れ始めており、そのニーズにパーソナルクラウドがはまって普及の兆しが見え始めていると言っても過言ではないことだ。全てを他人と共有するわけではないものの、個人では複数のデバイスで連携して閉じた環境の中で利便性を享受したいといった所だろうか。
iCloudがメジャーな企業であるAppleから提供され、特殊な設定をすることなく複数デバイス間で音楽やメール、アプリケーションが連携でき始めたことで、デバイス間で連携して利便性を享受する世界観がようやく一般の裾野の広いコンシューマに理解され始めたとも言える。Facebookが「タイムライン」をリリースしたことでライフログに対する実現イメージも高まってきている。
ようやく本格的な普及期に入ってきたと言われるクラウド業界にとって、パーソナルクラウドという領域は、これまでの認識のようにダイナミックにスケールしながら活用するエンタープライズクラウドだけではなく、個々人が安心・安全に中長期的に、ずっと外部記憶として使い続けられるようなスタティックにスケールするクラウドなのだ。新たなサービスを開発・提供する際にはこれまでとは異なる発想の転換が求められるだろう。
文・八子 知礼(デロイトトーマツコンサルティング 執行役員パートナー)
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