今年の第1四半期には、HTC、RIM、ノキアの3社がいずれも業績不振のニュースで投資家を驚かせた。その効果のほどは各社の株価にはっきりと現れている。たとえばRIMとノキアではそれぞれ、株価が簿価の水準まで下落、またHTCの場合も過去12ヶ月間で最安値をつけ、ピーク時から70%も低下していた。
これらのメーカー各社では業績が事前の予測に届かなかったが、そうした状況はソニー(旧ソニーエリクソン)やモトローラでもほぼ変わらない。両社はもう何年も利益をあげておらず、またLG電子の場合も2009年以来損益分岐点の周辺でいったりきたり、という状態が続いている。
これら各社の状況を考え合わせると、次のような業界全体の姿が浮かんでくる。それは、市場全体が拡大を続ける中で、大半のメーカーが手にする利益の分け前は不足気味、というもの。業界が活況を呈していることを示すデータはいくつもある。たとえば携帯端末全体の出荷台数は7%増、またスマートフォンについては47%も増加している。また売上全体は20%伸び、利益の伸び率は52%に達している。ふた桁の成長を記録する業界がほとんどないなかで、この数字は例外と思えるほど強気な数字といえる。
そこで浮かんでくるのは、次のような疑問ーー仮に世界の携帯電話機業界がブームに沸いているとすれば、けれども参加者(メーカー各社)の大半は赤字になってるとすれば、いったいどんなことが起こっているのかということだが、この疑問に対しては、新たな市場に関する破壊的イノベーション(disruption)とローエンドでの破壊的イノベーションという2つの回答が思い浮かぶ。
前者については、これまで携帯電話を「音声通話用端末」として使っていた大量のユーザーが、スマートフォンのような「携帯型コンピュータ」へと乗り換えている流れを指す。そして後者は、あまり要求度の高くない携帯電話ユーザーがメーカーブランドの端末から、ノーブランドのコモディティ化した端末に移行している流れといえる。
新市場拡大による破壊的イノベーション
前者の流れについては次のグラフがその様子をよく物語っているーーアップルとサムスンの2社で利益が増えるいっぽう、他の端末メーカーではどこも利益が減少している。
今年第1四半期には、スマートフォン市場の営業利益全体の73%をアップルが、また26%をサムスンが手にし、HTCはわずかに1%、その他は赤字となっている(携帯端末関連事業の業績を公表しているメーカーが対象)。
この「利益シェア」を示したグラフには誤解を招きそうな部分もある。つまり、利益額の増減が示されていないからだ。そこで、実際に利益増減を加味した数字をグラフにすると、次のようになる(市場全体で営業利益額が大幅に増加していることがわかるだろう。2010年第1四半期の営業利益合計額は53億ドル、それに対し、今年第1四半期のそれは144億ドルとなっている。
こうしてみると、「アップルが他社から利益を奪っている」という見方が間違いであることに気付くはずだ。実際には、アップルが多額の新たな利益を創り出したとみるほうが正しい。そして、その利益の源泉が携帯通信事業者である点はいうまでもない。この利益の大半は、携帯通信事業者がiPhone 4Sに支払ったプレミアムといえる。
ただし、通信事業者に同情する前に、次の点を考えてみよう。つまり、通信事業者からアップルに利益が流れていることは間違いないにせよ、iPhoneの取り扱いを決めた携帯通信事業者が何百社もあり、彼らが結託して導入を決めたとは考えられないということをである。実際のところ、携帯通信事業者側では喜んで(iPhoneの)プレミアムをアップルに渡している。なぜなら、iPhoneを取り扱えれば、競争上の優位性を手にできたり、顧客流出を食い止められるからだ。そうでなければ、250社もの携帯通信事業者がiPhoneを取り扱うわけがない(ただし、まだ取り扱っていない通信キャリアが250社もある点は重要である)。
この提供価値について考えてみると、結局「携帯型コンピュータとして電話端末」を供給できているメーカーに携帯通信業界が見返りを与えているという結論にたどり着く。そうした製品をユーザーに提供できれば、通信事業者としてはデータ通信サービスからあがる膨大な額のキャッシュフローを確保できるからだ。いっぽう、そうしたソリューションを提供できない端末メーカーでは、すくなくとも市場のハイエンドでは、事業が内部崩壊の危機に瀕している。
ローエンドでの破壊的イノベーション
ハイエンドでの流れと平行して、ローエンドではノーブランド端末の普及拡大という変化の流れも生じている。こちらでは安くて「十分使い物になる」製品を提供する新しい企業の参入・シェア拡大が目立っている。それに対し、ノキアは出荷台数や粗利を維持しようと試みているが、ますます難しくなっている。
次に示すグラフはそうした流れをまとめたものだ。
いわゆる「フィーチャーフォン」の市場はあまり拡大していないが、それでも1四半期あたり2億5000万台もの市場規模がある点には注意したい。グラフ中で"Other"に分類される新規参入社は無数にあり、その結果、音声やSMSのほか、音楽再生機能やゲーム機能までついた「十分使い物になる」製品が30ドル以下で販売される例もある。
ハイエンドのスマートフォン市場で苦戦するメーカーにとって、フィーチャーフォンの市場(での売上)がクッションの役目を果たしていたこともあったが、コモディティ化の影響でそうした効果も弱まっている。アップルとサムスン以外の各社が置かれた深刻な状況は、この2つの変化が合わさって生み出されたものといえる。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋 / 原文公開日:2012年5月3日)
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