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エリクソンの記者会見:目玉はアカマイとの戦略提携

2011.02.15

Updated by Tatsuya Kurosaka on February 15, 2011, 16:50 pm JST

MWC開幕冒頭の月曜朝、エリクソンのプレス及びアナリスト向けカンファレンスが開催された。アナリストも対象となっていることから、昨年度の業績等も振り返りながら、今後の事業ビジョンとアカマイとの戦略提携について、ハンス・ヴェストベリCEOから言及があった。

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【経営ビジョン】
ネットワーク化された社会の実現(Shaping the Networkded Society)に向けて、「モビリティ、ブロードバンド、クラウド」がキーワードとなる。

背景は単純だ。モビリティについてはすべての人類がネットワークつながる状態になり、ブロードバンドはモビリティを得て(つまりモバイル・ブロードバンドとなって)世界を覆う。それを支えるデータの格納先は、モバイル・ブロードバンドが接続されたクラウドである。これらが向こう10-20年の大きなトレンドとなることは、もはや疑う余地がない。

重要なのは、それぞれが社会にとってのインパクトを大きく有しているということである。たとえばブロードバンドユーザが10%増えるとGDPが1%押し上がる、という分析結果がある。仮にそうだとすると、ブロードバンドをより多くの人々に行き渡らせるモバイル技術は、この経済効果に拍車をかけることになるだろう。

またクラウドは、M2M(機械-機械)通信のイネーブラでもある。センサーで検知される情報も含め、すべてがモバイル・ブロードバンドを介して、クラウドに収容されていく。またそうして集められた情報は、クラウド内で処理され、再びモバイル・ブロードバンドを介して社会に還元されていく。

モバイル・ブロードバンド人口は、2016年には全世界で50億人に達する、という見通しもある。これは大げさな数字ではなく、すでに10億人がモバイル・ブロードバンドを獲得しているという見方を踏まえれば、これも無理な話ではない。

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【コンセプトを実現する最新の技術】
今回展示したAIR(Antenna Integrated Radio)とSSR(Smart Service Router)は非常に重要な技術として位置づけている。

AIRは新たにデザインされたアンテナに関する技術だが、これにより通信効率や電力消費が向上し、3G/4Gのいずれにおいても有効である。またSSRはシリコンバレーの研究開発拠点で開発したものだが、高いスケーラビリティとインテリジェンスを持つ新世代のスマートルータであり、映像配信やクラウド・コンピューティング全般に有効だろう。

【通信規格について】
当面はHSPA技術が商流の中核を成すと考えている。技術的にも、先日HSPAで168Mbpsを記録するなど革新が続いており、まだHSPAは有効な技術である。

ただLTEに関しても、予想よりも早く市場が立ち上がったという印象だ。特に米国の動きがやはり活発であり、計算上はすでに1.5億人の契約者が存在することになる。LTEの分野でも技術面でリーダーシップを担っていきたい。

【事業戦略】
エリクソンの事業としては「サービス」が重要だと考えている。それはたとえば通信事業者のネットワークを統合管理することだ。すでにエリクソンは当該分野で45,000人余のプロフェッショナル、7.5億人の管理対象加入者を擁しており、昨年は54のマネージドサービスに関する契約を結んだ。この分野は今後も大きく伸ばしていきたい。

【アカマイとの提携】
今回、アカマイとの戦略提携を行った。理由は単純で、モバイル・ブロードバンドの台頭に伴い、コンテンツを必要なタイミングで送り出すニーズが高まっているからだ。従来、固定通信網で必要とされてきた技術が、移動体通信網でも必要になった、ということである。

コンテンツの分散配信における第一人者であるアカマイと、モバイル・ブロードバンドの第一人者であるエリクソンが提携することは、この分野でのリーダーシップを担う上で重要な提携である。クラウド・コンピューティングでの応用も含めて、何が可能になるのかを見極め、顧客と一緒にそれを実現していきたい。

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【質疑応答(一部抜粋)】
Q:データトラフィック拡大は商機となりえるのか?
A:通信事業者にとってはすでに重要な商機である。これを実現する上ではネットワークの最新化が不可欠だ。この基礎を固めて、さらなる商機を獲得することが、通信事業者のビジネスとして重要となっている。

Q:アカマイとの提携で従来とは異なるセールスチャネルが生まれるのか?
A:すでにそうした話を始めており、この半年で通信事業者とは集中的に検討を進めていく。すでにコンテンツホルダーはこうしたサービスを利用する準備ができており、通信事業者にとってもコスト低減となるはずで、新たなビジネスモデルとなろう。

Q:売上に占めるLTEの割合は?
A:2011年もHSPAがその中心を担うはずである。ただし北米の動きが活発であることも踏まえ、全世界では2012-2013年頃に大きな割合を占めることになると予想している。またTD-LTEの商機も注目している。

Q:モバイル・ブロードバンドの台頭は欧州でも起きるか?
A:米国で起きているようなことが起きるかは、事情が違うので一概には言えない。少なくとも欧州は国ごとに通信事業者が異なる以上、個別の背景事情が存在する。ただ全体で、500万基程度の基地局の需要があると見積もっている。

Q:アカマイとの提携で、すでにプリオーダーは入っているか?
A:反応はポジティブであり、年末には出荷したいと考えている。

Q:エリクソングループにおけるSTエリクソンの位置づけは?
A:非常に重要なポジションである。ギガビットレベルのチップセットを作るというミッションを担っている。STエリクソン自体が3社の統合によってできた会社であり、これまではそのレガシーを背負っていた面もあるが、今年はそれも統合した商品を発表できると思う。

Q:経営指標として何を重視しているか?
A:CAPEXも重要だが、通信事業者は常にOPEXを評価する。運用コストの低減につながる製品やソリューションの開発を重視している。

Q:ノキア・シーメンス・ネットワークによるモトローラ買収で影響はあるか?
A:詳細については言及できないが、一般論としては米国と日本の市場では重要なインパクトを持っている。

Q:LTEの各国の周波数行政についてどう考えているか?
A:より標準化が進むべきであろう。たとえば800MHz帯は世界的に幅広く使われているが、ここでのLTE利用の統一が進むことが、通信事業者のみならずエンドユーザの希望でもあるはずだ。規模の経済という考え方がここでは有効であり、GSMやHSPAで起きたことをLTEでも実現すべきだろう。

Q:日本でのTD-LTE推進のプランはあるか?
A:プランはある。すでに実証実験も行っているし、日本に限らず、アジアや、さらに世界中で、積極的に取り組みたい。

【筆者の所感】
まず、アカマイとの提携については、「巨人同士の幸せな結婚」のように見えた。モバイル・ブロードバンドの台頭を受けた自然な動きとはいえ、当然のことを当然のように実現するというのは、そう簡単にできることではない。特に、先に報告した「ノキアとマイクロソフト」の前途多難さに比べると、安定感がうかがえる。

またその経営判断の前提であるビジョンも、「モバイルが世界をつなげていく」と説明されてみれば当たり前の話なのだが、それをエリクソンが粛々と実現していくとなれば、日本勢はもとより海外の競合も、なかなか太刀打ちできないのではないだろうか。

もちろん彼らにも競合に先行を許している部分はある。たとえば通信事業者のネットワークの統合管理などは、ノキア・シーメンス・ネットワークの方が先行している。またLTEの見通しについても楽観的な言及をしていたが、実際には米国市場も含め、まだまだ予断を許さない状況であろう。

ただ、そうした課題を克服できそうな勢いを感じたのは、エリクソンCEOのハンス・ヴェストベリ氏の若々しさに起因するところが大きいだろう。エリクソンという企業自体は言わずと知れた通信業界の巨人だが、45歳の同氏が示した事業ビジョンを見るにつけ、創業100年以上を誇る企業とは思えないアグレッシブさを感じさせた。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。