(1)Android -キャリアとベンダーのエコシステムに入り込むグーグルの目的
2011.02.25
Updated by Michi Kaifu on February 25, 2011, 18:31 pm JST
2011.02.25
Updated by Michi Kaifu on February 25, 2011, 18:31 pm JST
▼「Android」最初から再生
──今私たちは、MWCのAndroidパビリオンの前にいます、とても、とても大きなパビリオンですが、今年初めてこの規模での展示が行われています。Androidについて、感想や意見を聞かせて下さい。まずは、ヨーロッパの現状からお願いします。
Olivier:Androidは昨年とても飛躍的な拡大をしました。スマートフォンをマスマーケットに投入し、医療、ゲーム、位置情報サービス(LBS)、タブレットなど、マーケットの全セグメントで活躍し、ありとあらゆる場面において力強い拡大をしています。
ソリューションとしてもコストが安いので、現在ヨーロッパのAndroidのシェアは飛躍的に拡大しています。それにくらべ、アップルは市場のローエンドにとってはコストが高く、市場全体の勢力図が変化しており、未来はグーグルの方に向いていると思います。
MWCでも、グーグルの存在は大きいのに、アップルは不在です。今年初めて、グーグルはMWCという場所で、モバイルの今後における自社の考えや存在の大きさを見せつけています。
──でも、ヨーロッパではAndroidよりiPhoneの方が先に市場展開をしていましたよね?また、アメリカの市場ではAndroidがiPhoneのシェアを抜いたと言われていますが、状況はヨーロッパでもおなじですか?
Olivier:そうですね。昨年の夏を境にAndroidがiPhoneを抜いており、シェア拡大のスピードはiPhoneの二倍に達しています。(Androidの)市場を引っ張るリーダーとしての存在が強くなり、現在最も戦略的に重要な技術やマーケットプレイスとしての位置付けになっています。アプリケーションストアの主軸はアップルからAndroidに移りつつあります。
また、アップルのユーザーとAndroidのユーザーでは、ストアに使う金額が大きく違います。たとえば、アップルのユーザーは年間80ユーロ程度を使っているのに対して、Androidのユーザーは15ユーロから20ユーロです、ですからプラットフォームとしてみたときもユーザーの属性に大きな違いがあると言えます。
──ユーザー属性の違いというのは、アプリケーションストアのユーザーのことですか?
Olivier:そうです。
──私自身はアメリカの現状はよくわかっていますが、アメリカの現状も教えてもらえますか?
Derek:いくつかありますが、Androidのパビリオンを見て面白いと思ったのは、日本人にとっても面白いと思いますが、Androidの寿司船がありました。寿司レストランのようにAndroid端末がぷかぷか浮いていて、今まで開発されたすべてのAndroid端末が会場の周りを回って壁にある穴に消えて行きます。
これをみれば、いかにAndroid端末の数が多いか一目でわかると思います。アップルと比べても、売れている端末の数の多さやベンダーの数やベンダー間の競争の激化などに繋がっていると思います。売れている端末の数はそれほど重要ではなく、重要なのはベンダーの多さ。ソニーエリクソン、HTCなど数多くのベンダーがいて、さらにベンダー間の提携などによっていろんな国に対してソリューションを提供することができ、一気に市場拡大を実現するスピードが生まれている事がAndroidにとって重要だと思います。
なので、今年のブースはとても良いと思います。展示されている機器には複数のベンダーによって共同で開発された3D機能を搭載したゲーム機、業務生産性アプリを搭載したモデル、コンシューマー向け機器、地図機能や位置情報サービスが充実したモデル、など多岐にわたった機器を展示する事によって、Androidは使って便利で楽しいというメッセージをうまく伝えています。とても雰囲気の良いブースでした。
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▼「Android」4:00から再生
Derek:ちょっと違った切り口でAndroidについて意見させてもらうとすれば、MWCの歴史を振り返ってみて2006年以前は、ノキアやエリクソンなどヨーロッパやフランスのベンダーが主力勢でした。また、ベンダーの多くは自社開発のOSを展開しながらも機種間の違いに大きな違いはなかったと言えます。毎年、人気の機種が1つあって、その人気の理由の大きな要因は、メモリーが多く入っているとか、カメラの画素数が高くなったとか、音楽再生機能が優れているなどのハード面が前の年のモデルや競合のモデルより優れているだけというものが多かったように思います。
2006年はこういったトレンドの最後の年といえます、とても良く覚えていますが、ノキアのN95はその年の「ロックスター」でした。展示会場内の多くのアプリケーションベンダーがこのN95上で自分たちの製品を展示していました、なぜならその年最も優れていたプラットフォームがN95でした。これが、ノキア帝国の終焉だったと私は思っています。
2007年にはすべてのエクゼクティブがiPhoneを自慢していました、もうノキアではなくiPhoneが最も優れているプラットフォームになっていたのです。製品のデモもiPhoneで行われていました。2007、2008、2009年も、iPhoneがこの展示会を支配していました。アップル自身は会場に来る事なくiPhoneに対応しているベンダーの数の多さによってこのカンファレンスの王座にいたのです。
昨年、これは少し変わりましたAndroid関連の話題が少し出てきて、いくつかの機器が展示されていました。今年は、一気にギアを全開にしたように、アップルはこのカンファレンスの王座をAndroidに引き渡したと思います。決してAndroidのブースだけではなく、どのブースでも自分たちの製品のAndroid対応を展示しています。
これは、過去に見た世代交代がまた行われたということで、ノキアなどの時代からアップルの時代になり、そして今年はAndroidが主役と言えると思います。
──そうですね、それは大きなトレンドの変革といえますよね。
▼「Android」6:03から再生
──今年の会場でグーグルを見ていて感じたのは、キャリアに対して敵対的と見られがちなアップルと比べて、グーグルは自分たちをキャリアの仲間として国際的にポジションを印象付けようとしているということです。マイクロソフトも同じような戦略を展開していますが成功しているとは言えないと思いますね。RIM・BlackBerryはこの辺が成功しているといえますが。Androidのスマートフォン市場でのキャリア戦略と、対するキャリア側の反応についてはどう思いますか?
Olivier:グーグルの戦略は、できるだけ多くの情報やアクセスをインターネットに向ける事に注力していると思います。固定的な接続だけではなくモバイルなどでも同じだと思います。また、今後は固定的な接続よりもモバイルがインターネット接続の主力になると思ったグーグルは、2〜3年前にモバイルに力を入れる戦略を選びました。この判断が成功したと思います。
グーグルは大きな市場を作ることでベンダーに対しても魅力的なプラットフォームを展開しました。これはキャリアにとっても有益な状況だと言えます。グーグルはキャリアとベンダーのエコシステムを壊すことなく、すでにあった価値や関係を尊重してキャリアに更なる帯域の拡大やブロードバンドの拡大などを促すことに成功しました。
これが、キャリアがグーグルを競合よりは味方やパートナーとして考えている要因だと思います。グーグルにとってもより多くのユーザーによるアクセスをインターネットに向ける戦略の方向性にこの関係が旨くかみ合っていると言えます。
(基調講演で)シュミット氏が昨日言っていたように、今後はこの上にインテリジェンスをのせる事が次のステップになると思います。これは未来がどうなるかというはっきりとしたビジョンであり、未来のエコシステムの中にグーグルも含まれるようになるわけです。
Derek:私もそうだと思います。特にグーグルが現在あるキャリアやベンダーの価値を破壊していないという点は同意します。
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▼「Android」8:20から再生
Derek:ただ、新しい価値が生まれた時、グーグルはその価値を手に入れようとしていると思います。この新しい価値が彼らにとって新しい収入源になり、そしてこの行為はキャリアにとっては脅威だと思います。
さっきアップルはキャリアの脅威として見られていると言っていましたが、私はグーグルも同じように第二の脅威になりうると思います。グーグルがやっている事はとてもすばらしいと思いますが、キャリアから見た場合は両方とも脅威だと思います。
アップルとパートナーを組むということは、アップルがユーザー動向や広告収入をすべて掌握していて、キャリアは完全に蚊帳の外で接続を提供するだけの関係です。グーグルとの提携においては(現在は)蚊帳の外ではないが、未来生まれる価値や広告収入のすべては彼らが手に入れることになるわけです。
キャリアからすればグーグルは「最も脅威であるアップル」に次ぐ脅威だと言えるでしょう。だから、日本のキャリアも積極的に参加しているWACなどのような動きがあるわけです。キャリアが最も望んでいる状況は、キャリアが全部コントロールする状況です。アップルとの提携が最も望まれていない状況で、グーグルとの提携がそれに次ぐ必要悪の状況です。
ただ、さっきおっしゃったように、BlackBerryはとてもキャリアの方を向いていると思います、彼らは最初からスマートフォンの展開をキャリアとともにやってきています。彼らのソリューションは圧縮率を高める事でネットワークの負荷を軽減したり、サービスの主導権をキャリアに持たせることで、キャリアにとって有益な物が多いわけです。
Olivier:そうですね、でもプラットフォームをみるとマイクロソフト、BADA、WAP、Android、iPhone(アップル)など、現在はプラットフォーム戦争状態と言えると思います。確かにグーグルも新しく生まれる価値を手に入れる事を目的としてこの戦いに参戦はしていますが、WAPなどに対しても協力したりすることで新しいオープンな競争を行っていると思います。
ただ誰が絶対的な勝者になるかは未定だと思います、現在じゃグーグルがリーダーですが時とともに勢力図は変わる可能性を持っていて、グーグルが今後ベンダーなどとどう動くかによって情勢は変わる可能性があると思います。そういう観点からも、MWCの動向は注目だと思います。
Derek:そうですね、面白いのは、今はキャリアが今後どのようなコントロールを手に入れる事ができるかを話していますが、端末を作っている製造ベンダーのコントロールがどうなるかも考える必要があると思います。さっき言っていたパビリオンの寿司船に乗った端末を見ながら思ったのは、「これは鰻、これも鰻、これも鰻、これも鰻」...
──(笑いながら)鰻好きですよね?
Derek:...言いたいのは、端末間の差別化はどうするんだという点です。確かにちょっと違う素材やプラスチックを使ったり、ユーザーインタフェースの微妙な違いはありますが、時間と共にハードウェアが進化していく他には、大きな違いはありません。
Android端末の多くは似通っています。キャリアは統一決済やアプリケーションストアなどサービス面を充実することで差別化できますが、ハードウェアベンダーはもっと差別化が難しくなると思います。
Olivier:そうですね、私はまだゲームがはじまったばかりだと思います。ただし、大きなプレイヤーが参加していると思いますし、彼らは競争の激しいゲーム展開をすると思います。
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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