(3)Capacity -コア・ネットワークから料金体系まで、全てが「利用効率」を志向する
2011.03.01
Updated by Michi Kaifu on March 1, 2011, 15:30 pm JST
2011.03.01
Updated by Michi Kaifu on March 1, 2011, 15:30 pm JST
▼「Capacity」最初から再生
──次にネットワークの容量について少し話したいと思います。昨年に続いて今年もカンファレンスでは大きな話題になっています。
iPhoneやスマーフォンのおかげでシリコンバレーや東京では明らかなネットワークの容量不足の問題が起きています。多くのベンダーがこの問題を解決するソリューションを提供しはじめています。私はこれがシリコンバレーや東京以外に、どのくらい世界の他の地域でも起きているかに興味があります。ヨーロッパではどうですか?
Oliver:ヨーロッパでも同じだといえます。ピーク時には3G接続は非常に難しいです、オフピーク時はロンドン、パリやベルリン、バルセロナでさえ、大都会では大丈夫ですが、ピーク時は完全に容量オーバーな状況だと言えます。
今回インテルが発表した中国向けのコンセプトモデルのソリューションが非常に興味深いです、ピーク時、オフピーク時の全キャパシティをサーバーに集約し、そこから全ベースステーションに再配分します。驚くほどのソリューションです、このようなモデルはネットワークの混雑を解消する可能性を持っています。
アルカテルが出展した4G向けのアンテナもすばらしいです。今回の展示会でもたくさんのデータ通信、音声通信をより効率化するソリューションが出展されています。これを見てもわかるようにネットワークはより賢くなっているといえます。
Olivier:それと今までのインフラに対して行われてきた資産投資が旨くいってない事に人々が気づき始めています。通信キャリア達はローミングやネットワークに存在する穴を埋めるために、いかにより共同で新しい賢いインフラ向け投資を行うかを考えなければいけないと考えます。このような努力は始まっていますが、フルキャパシティを得るまでは時間はかかると思います。
さらに、今後期待されている4Gのネットワークが登場します、Verizonは現在4Gのソリューションを宣伝しています。ですから、業界全体でいろいろと積極的に活動しています、しかしコンシューマーはこれらの努力が行われていることを感じていません。
これに関して私は政府の責任が大きく、もっと通信キャリアに対してインフラの投資を積極的に行う行政指導が必要だと思います。投資を行って初めて、ARPUに対しての投資効果などの話ができます。
データ通信は以前に比べて6倍に拡大しているわけですから、(インフラ投資について)キャリアは投資効果がないとは言えないと思います。実際にネットワークにトラフィックは生まれているのですから、問題はいかに新しいビジネスモデルやネットワークの効率化、また新しい形の提携を見つけるでしょう。でも、それらを可能にするソリューションは存在します。
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▼「Capacity」3:27から再生
──私も、日本やアメリカのユーザーに比べて、ARPUの安いヨーロッパの方が投資効果に関してはシビアだとおもいます。
Olivier:でもヨーロッパのキャリアには大きな商機があります、テレビ向けの周波数帯域900MHzを手にいれたのですから、この帯域を使って既存のネットワークを強化できるはずです。この新しい帯域をつかえば2Gネットワークと同じぐらい安い、1ユーザーあたり20ユーロ程度の投資でネットワークの強化ができるわけです。これに対して3Gは1ユーザーあたり60ユーロの投資が必要です。
この新しい周波数帯域があることで、費用対効果が高すぎるという言い訳は通じなくなります。しかも、既にあるソリューションを使えば良いわけですから、実装も容易なはずです。だから今回は言い訳がありません。
Derek:そうですね。その意見を否定するつもりはありませんが、アメリカの状況は違うと思います。
(アメリカの)コンシューマーはよく、「AT&Tはインフラの投資が不十分だと」文句を言います。現在もっとも通信が不安定なのがAT&Tだから、そう言われるわけです。でも、僕はその意見に反対します、AT&Tはとても大きな投資を行っていると思います。
確かにユーザーのARPUが違うという点はあるかもしれません、でも膨大な金額で周波数帯域をオークションで買い、そのネットワークにLTEネットワークを実装したり、HSDPAをHSPA+にアップグレードするなど、膨大なコストがかかっています。競争は激しくなっているので、このような投資は必要なもので、彼らは行ってきているわけです。
WiMAXの脅威も現実化しています。日本でも同じだと思います。WiMAXの登場によってWiMAX非対応のキャリアは既存のLTEネットワークのアップグレードを余儀なくされています。こうしたことから、私はネットワークに対して膨大な投資が(キャリアによって)行われていると思います。
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▼「Capacity」5:25から再生
Derek:それでも、私はネットワークの容量不足の問題は解決されているとは思いません。ですから、この問題はこのカンファレンスではトップトレンドだとおもいますし、最も注目されている問題だと思います。
データ通信量は急激な右肩上がりですが、それに伴う収益増加は緩やかです。ですから、データ通信量が急増する環境下で投資コストも上がる中、いかに利益を生むかが問題になっていると思います。気をつけなければ行けないのはデータ通信量のカーブにそって同じように投資コストのカーブが急激に上がる事をさけなければいけないということです。
だからより効率的な投資を可能にするスマートインフラソリューションが多く出展されているのだと思います。例えばスマートアンテナがありましたが、ネットワークのありとあらゆる部分がよりスマートになっています。ネットワーク全体の設計はさまざまな技術が入り交じった設計に変わりつつあり、マクロセルとピコセル、リピーター、フェムトセルなどの連動による拡大や、より効率的なアンテナの登場によってマルチプレックスの可能性などが話題になっています。
私が手伝っている会社のQuintelはスマートアンテナテクノロジーを提供する事でセクターの数を2倍にすることを可能にするソリューションを提供しています。コア・ネットワークをより効率化することに力が注がれています。電話の中にエージェント機能を搭載する事で電話が発生する無駄なデータ通信を軽減する試みも登場しています。
端末もそうですが、多くのアプリケーションはネットワークの事を考えずに設計されています。これらの多くは無限な帯域と定額な通信プランが永遠に続くと思われていた時代に設計されていたかもしれません。でも、無限な帯域は存在しません。
開発者の多くはネットワークの負荷に対して無頓着です。たとえば、ガレージでアプリを開発している二人の開発者が、自分たちのアプリでリーダーボード機能(ゲームなどで、上位プレイヤーの名前とスコアを表示する機能)が必要と考え組み込んだとしたら、もしかすると2秒おきにリーダーボードを確認しに行くかもしれません。でも、これは本来必要ないはず(のトラフィック)です。
今までネットワークに対して開発者がかける負荷に対して開発者の責任は問われませんでした。でも、もしかしたら将来、ネットワークに対してどれだけ効率的で負荷の軽減を行ったがアプリケーション開発者のレーティングに反映されるようになるかもしれません。エコシステム全体が、より帯域や周波数帯の使用を効率化することを意識しているように思います。もしかしたらこれが、ネットワークの容量不足を解決する策かもしれません。
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▼「Capacity」7:15から再生
でも、本当の問題はリーダーボードをチェックするというような小さな通信ではなく、ビデオです。スマートフォンはユーザーにとってとても楽しいものです。他の電話端末に比べてよく使われます。それに伴い例えば天気予報アプリを使っていて、「あ、天気予報衛星のビデオがある。クリックしてみよう」ということで10秒ぐらいのクリップを見たりするわけですが、これはテキストベースの天気予報より遥かにデータ量が多いというわけです。このような現状がデータ通信の爆発的な拡大の要因になっていると思います。MWC2011に来ているソリューションベンダー全員が一丸となっても解決できるどうかはわかりません。
ですから、今回話題になっているティアベース(段階制)のサービスやキャップなど、使った帯域に対して従量課金されるようになり、ユーザーは使っているデータ通信量を意識しないといけなくなると思います。これに対して、ユーザーからの反発はとても大きくなるでしょう。定額プランから5ギガ通信プランや2ギガ通信プランに移る事に多くのユーザーは不満を持つと思います。でも、これが今後の方向性になると思います。
──私もそう思います。今朝行ったキーノートで、日本の孫正義氏は、彼が見つけた解決策を発表していました、基本的に、データ通信のARPUを上げるという策です。マーケットシェアを上げ、ARPUを上げるのです。現在彼らのARPUの65%はデータです。日本では彼らは格安のキャリアというポジショニングをしようとしていますが、データ通信料は意外に高いです。AT&Tも同じような意図で上限を設けようとしています。価格はいつも需要と供給のバランスによって決められるわけです。
Derek:そうだね、それは公平な意見だと思います。ガソリンを見ても同じだとおもうよ、(Olivier氏に対して)あなたはヨーロッパ人だから燃費の良い、環境に優しい車を運転していて私が大きなトラックを運転していたら、ガソリンスタンドで払う金額は違ってきますよね?
私は、もともと経済学者的なトレーニングを受けていますから、限られたリソースに対して使った量に合わせて課金される事は当然だと思います。でも、ユーザーからの反発はあるでしょう、今までは使いたい放題だったわけですから。
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(編集部注:ビデオはここで途切れているが、ラップアップでは、最後にMWCに対する感想を聞いている)
Olivier:MWCは、すっかり大手企業によるプロフェッショナルなイベントになったと感じています。以前は、もっとのんびりしていて、アマチュアぽくて、年に一度、欧州業界の内輪の人間がワイン片手に集まってまったりする場でした。しかし、今はそんな雰囲気は全くなくなり、規模も大きくなり、ペースも早くなりました。新興国や中小企業などの「スモール・ガイ」の場所はどんどん小さくなっています。
Derek:この会場に来ている人たちは、一日中靴の底をすり減らして歩きまわり、夜は遅くまで商談ディナー、睡眠時間4時間で起きてまた朝にはブレックファスト・ミーティング。すべてビジネスです。アメリカ勢や中国の企業などがどんどん場所を拡大し、もうこれ以上拡張の余地はないほどです。
──欧州はバカンスの時期になると電話が通じなくなるという話を欧州在住の友人から聞きましたが、この展示会では、そういう欧州流でなく、スマートフォンと一緒にアメリカ流のワーカホリック文化を持ち込んでしまったようですね。ありがとうございました。
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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