WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

東日本大震災でソーシャルメディアのあり方はどう変わっていくのか 「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring」リポート

2011.04.25

Updated by Yuko Nonoshita on April 25, 2011, 18:30 pm JST

「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring」が、4月16日、主催の株式会社デジタルガレージの本社ビル(東京・恵比寿)で開催された。例年においては、「ソーシャル」や「位置情報」といった旬のキーワードに関連する人達を国内外から招き、パネルセッションやグループディスカッションが行われるのだが、今回は急遽、3月11日に発生した東日本大震災において、貴重な情報伝達手段として使われたTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを中心テーマにすることとなり、「生活基盤としてのソーシャルメディアの未来」と題し、活用事例の紹介や浮上した課題、さらに今後の復興や同様の緊急時にどのように活用していくのかという議論が行われた。

▼デジタルガレージ社長の林 郁氏は開催のあいさつで、「東日本大震災によって緊急時におけるネットワークの重要性が改めて認識された」とし、経済産業省と連携でtwitterのアカウントを自治体に迅速に発行するサービスをスタートするなどの動きがあったことを紹介した。
201104251830-1.jpg

===

震災当日、Twitterは「本当に」役に立ったのか?

最初に行われた基調講演では、Twitter社のであるAbdur Chowdhury氏が、緊急時におけるTwitterの利用状況について紹介。2008年7月に米・ロスアンゼルスで発生した地震の際は、地震からわずか5秒で最初のツイートがあり、その後、ローカルニュースで発信されたのが4分後であったこと、主要通信社はさらに9分かかったことを紹介。また、ハイチ地震や東日本大震災において、ダイレクトメッセージのトラフィックが時間と共にどのように拡がり増えていったかを可視化した貴重な動画データも紹介された。

▼Twitter社のチーフサイエンティストであるアブドル・チャウダリー(Abdur Chowdhury)氏の基調講演では、緊急時のネットワークの使われ方が具体的なデータと共に紹介された。
201104251830-3.jpg

201104251830-4.jpg

===

続いて3つのパネルディスカッションが行われたが、その一つ「ソーシャルメディアとマスメディア」のパネルセッションでは、国内外の新聞記者やTwitter関係者から、震災当日の情報の混乱ぶりや本当にソーシャルメディアが役立ったのかについて意見が交わされた。Twitterカンパニーの佐々木 智也氏は、「ネットワークは役立ったが主に使われたのは東京で、被災状況がひどい所ほど役に立たなかった」とコメント。それは既存メディアも同じで、日本経済新聞の小柳建彦記者は「現地は通信はおろか電気もない状態。PDF版を作成してプリントアウトしたものを現地に持っていってもらうしかなかった」と当時の状況を紹介した。

ネットワークが使えるようになると情報の伝達は早くなったが、デマや転送による時差が問題となった。特に日本人はTwitterでハッシュタグより引用RTを使うことが多く、知りたい情報に辿り着きにくかったという。そこで、公式RTの推奨が拡がったが、こうした状況に対して、ソーシャルメディアを使うルールづくりが必要であり、デマをフィルタリングするようなアイデアも考えるべきとの提案がなされた。

進行を務めるデジタルガレージの伊藤 穰一氏からは「マスコミはニュースは強いがフォローアップができない。一方でソーシャルメディアは揮発性が高すぎて残らない。両者をうまく連携する仕組みが必要になるのでは」といった意見も出された。たとえば、緊急時には有料情報を公開する、あるいはTV番組をオンラインに転送することを許可する仕組みを設けるなどもその一つ。そうしたアイデアを実行に結びつけていこうと、参加者に向けての呼びかけも行われた。

▼イベント全体の進行役を勤めたデジタルガレージ取締役の伊藤 穰一氏は、震災時に海外にいたため、大手メディアの誤情報や誤訳に驚き、短時間で情報サポートのためのグループを立ち上げたこと、またその際にソーシャルメディアが役立ったことを紹介した。
201104251830-2.jpg

===

▼パネルセッション「ソーシャルメディアとマスメディア」では、既存メディアの記者やTwitterの関係者らが、有用な情報を伝えるためにどのような活動をし、そこで生じた課題をどのようなに解決していくかについて、それぞれの経験を元に意見が交わされた。
201104251830-5.jpg

▼パネルセッション「スピードとアジャイルソフトウェア開発」では、EvernoteのCEOであるフィル・リーピン(Phil Libin)氏をはじめ元Googleソフトウェアエンジニアら技術者が参加し、ソーシャルネットワークの登場で必要なスキルを持つ人を集めやすくなり、緊急時に必要なシステムを少人数で短期間に作れる土台はすでにできている、といったコメントが飛び出した。
201104251830-6.jpg

===

ライトニングトークでは災害関連プロジェクトを紹介

イベント後半は、災害時に実施された活動の紹介やプロジェクト参加の呼びかけなどを行うライトニングトークが行われた。Twitterサービス・ツイナビで編集長を務めるヤマモトユウスケ氏は、災害時以降のサービス利用状況について紹介。情報インフラとして活躍した一方で、伝えるべき人へ伝えるべき時に最も効率的に届ける方法が必要という課題も浮き彫りになり、すでにまとめ始めている災害時のルールなどが紹介された。

様々なメディアとデバイスを利用した情報発信活動を行っている「SAVE JAPAN! PROJECT」は、災害当日にPCサイト、その24時間後にはモバイル向けサイトを構築。ニーズも被災地に向けより非被災地であることがわかるとすぐに方向修正し、状況に応じた素早い対応の必要性を訴えた。また運用経験から、ソーシャルメディアは感情的なものほど伝播しやすく持続性がないなどの特徴を分析。被災支援や復興には継続性が最も必要であり、実際の活動に結びつけることが大切と呼びかけた。

▼ライトニングトークでは緊急時においてソーシャルメディアの役立った点や問題点がいくつか紹介された。
201104251830-7.jpg

201104251830-8.jpg

201104251830-10.jpg

===

他にも、主に英語での情報を扱うFacebookページ「Japan Quake Survival Strategies」や、フルタイムの翻訳グループ「Relay SNS」など、いずれも地震直後にアクションを起こし、ネットワークで活動を継続させている例を紹介。計画停電をチェックできるモバイルアプリを開発した例でも「Apple社に申請した翌日に公開された」など、災害時にはスピードの早さが大事になることが訴えられた。

被災地からの情報発信については、ペンシルの二宮章氏が岩手県の被災地を撮影したパノラマ撮影を公開する「japan.pano-journalism」を紹介。現在は静止画だが、動画版も海外ではマスメディアからも注目されており、関連技術を取り扱う「LiveMotionVR.com」サイトを公開する予定であると発表した。

続くアンカンファレンスでは、パネルディスカッションやライトニングトークで紹介された活動の中のいくつかをテーマに、参加者が具体的な話し合いを行った。内容は、ガイガーカウンタの作り方や、それをつかった測定数値をネットワーク上で公開するRDTN.orgの活動の進め方(別記事で紹介)、被災地のパノラマ写真撮影の方法を紹介したり、コミュニティ運営の実態の紹介など。それぞれが時間が短いため、その場で何か結論を出すというものではなかったが、今回の参加をきっかけに支援の輪が拡がり、新たな活動が生まれることが期待されるものであった。

▼避難先で被災地を応援する「prayforjapan.jp」を約3時間で立ち上げたという慶応大学学生の鶴田 浩之氏。メッセージは12カ国語に翻訳され、それらをまとめた本も今月出版されるという。
201104251830-9.jpg

▼会場内をいくつかに分けて行われたアンカンファレンスでは、それぞれのテーマについて参加者が実際に意見を交わしあっていた。
201104251830-11.jpg

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。