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アップル、株主配当と株式買い戻しを発表 - ティム・クック路線、より鮮明に(編集担当メモ)

2012.03.21

Updated by WirelessWire News編集部 on March 21, 2012, 11:35 am JST

アップルが米国時間19日、株主への配当実施ならび株式買い戻しの計画を発表した。加速度的に増加する同社の現金・流動性資金(余剰資金)に対し、投資家の間では利益還元を求める期待が高まっていたが、故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)元CEOの下では事実上タブーに近かった株主向けの施策をついに打ち出したことで、ティム・クック(Time Cook)CEOの独自路線がより鮮明になった。

アップルの現金ならびに流動性の高い証券類の金額が積み上がっていることについては、当媒体でも1年ほど前から折に触れて紹介してきているが、この余剰資金の金額は2010年第4四半期末の約600億ドルから2011年第4四半期末には約976億ドルと、昨年1年間だけで約380億ドルも増加していた。


[Asymco]

さらにこの金額が明らかにされた1月の決算発表のなかで、クックCEOが配当実施の可能性などを示唆していたことから、それ以来この施策実現に対する期待が投資家の間で高まっていた。

こうした影響もあり、同社の株価はこの決算発表からの約2ヶ月間で40%近く上昇、さらに昨年10月の「iPhone 4S」発表時からは約6割も値上がりしたという(AP記事)。

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[Google Finance]

発表された施策の内容についてはすでに各所で報じられている通りだが、まず配当については1株につき2ドル65セントを四半期ごとに支払うというもの。年間10ドル60セントという金額は現在の株価(20日の終値は605ドル96セント)を元に計算すると年率1.8%前後となり、マイクロソフト(Microsoft)の約2.4〜2.5%より若干少なく、ヒューレット・パッカード(HP)の約2%とならぶ水準になるという(Digitブログの記事では、大手各社の配当率について、AT&Tが5.61%、ベライゾンが5.09%、マイクロソフトが2.42%、HPが2.01%、シスコシステムズが1.6%、IBMが1.51%などとなっている)。

また、アップルの発行済み株式数は現時点で9億3237万株であることから、同社の配当にかかる費用は年間約99億ドル (932,370,000株 x 10.6ドル = 9,883,122,000ドル)に達する計算になる。

なお、過去最高記録を更新した2011年10-12月期の利益額は131億ドル。また、2011年会計年度(2010年10月〜2011年9月)の利益は310億ドルで、2012年度についてはこの額が倍以上の700億ドル〜850ドル以上の規模に達するとするアナリストらの予想も出されているという。

いっぽう、株式買い戻し(自社株買い)については向こう3年間に100億ドルをメドに実施していく計画。同社ではこれらの施策を通じて、余剰資金の半分弱にあたる450億ドルを株主に返していく予定、それでも500億ドル以上が残る計算で、これに今後の利益がさらに加わることを考えると、同社が世界有数の潤沢な資金をもつ企業であることには変わりはない。なお、現金ならびに流動性資金の額については、マイクロソフトが約520億ドル、シスコシステムズが約470億ドル、グーグルが約450億ドル、クアルコムが230億ドル、インテルが120億ドル、アマゾンが96億ドルなどとなっている(いずれも2011年末。Trefisが集計した各社決算データ)。

アップルの今回の発表を受けて、同社をカバーする証券アナリストらは軒並み予想株価を上方修正。Apple 2.0ブログ(Fortune)が採り上げているもののなかでは最高は一株800ドル、最低でも630ドルとなっている。

資金調達の心配もなく、株価の維持に腐心する必要もないアップルが、なぜ株主対策の実施に踏み切ったかについては、これだけ巨額の資金を「寝かしてある」ことを理由に、同社経営陣らが株主から訴えられるリスクが高まっているとの指摘がAP記事には見られる。実際、クックCEOも2月下旬にあったゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)主催のカンファレンスのなかで「必要ないほど多額の資金がある」旨の発言を行っていたことなどから、過熱気味の投資家からの期待をいったん「ガス抜き」すべきとの判断が働いたかと推測できる。

なお、株式配当と自社株買いの原資については、アップルが米国内で保有する資金ならびに将来の利益をあてるとしており、昨年末時点で640億ドルとされる海外滞留利益には手をつけないことをピーター・オッペンハイマー(Peter Oppenheimer)CFOが明言。さらに同CFOはこの発表の電話会議のなかで、「米国の法人税制が理由で、国外に寝かしたままの資金を、今後もし国内に持ち込めるような状況ができれば、さらに株主への配当金額を増やせる」と示唆。このため、一昨年あたりからテクノロジー業界やエネルギー業界などの大手各社が実施を求めている国外余剰金の持ち込みに関する税制優遇措置についての議論にも、アップルの動きが少なくない影響を及ぼす可能性もあると考えられる。

【参照情報】
Apple Pads Investor Wallets - WSJ
As Cash Move Shows, Apple CEO Goes His Own Way - WSJ
With dividend, Tim Cook thinks differently about Apple - GigaOM
Apple to pay dividend, start stock buybacks - AP(Yahoo)Digit
How Apple's Dividend Yield Stacks Up Against Others - Digits (WSJ)
The Street scrambles to adjust its Apple expectations - Apple 2.0(Fortune)
iPhone販売台数は3704万台に - アップル、2011年10-12月期決算
図解「iPhone 成長の伸びしろ」(最新版) - Asymco
グラフでみる「アップル - 世界最大のベンチャー企業」- Asymco
【図・グラフ】アップルの手持ち資金でできる「買い物」は・・・

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