WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

子供 AI イメージ

AIネイティブの子供たち

2017.10.31

Updated by Ryo Shimizu on October 31, 2017, 15:05 pm JST

Facebookで某漫画家さんが「うちの6歳の娘が、Google Homeを使って引き算の宿題をしている!」と嘆いておられて、むしろ筆者は「すごい! これぞAIネイティブ」と思ったのでした。

さすがに今時、電子辞書ではありがたみがないから紙の辞書を使え、なんていう時代錯誤なことをいう人はいないでしょうが、筆者が小学生の頃は宿題に電卓を使うなどもってのほか、というのが常識でした。今でもそうかもしれません。しかし、引き算の簡単な概念さえ理解してしまえば、電卓を使わずに暗算できるようになるよりも、電卓を人よりも上手く速く使えるようになるほうが、その後の人生は楽になるはずです。

筆者はすでに引き算とか面倒臭いので毎回電卓を起動してしまいます。たとえば「スティーブ・ジョブズは40歳の時になにをしていたか」を計算するのに、1955+40=1995みたいな計算をするのはまだいいのですが、「宮崎駿が紅の豚を作ったのは何歳の時だったか」を計算するのに、1992-1941=51を計算するのは非常に面倒臭く感じるのです。それが桁上がりなどしていたらなおさらです。

こういう「誰それが○○をしたのは何歳か」ということは会話の端々に上ります。その度に計算をするのは無駄というものです。もしこれを一発で答えるAIがあれば、会話の潤滑油として大いに活躍するでしょう。

2桁同士の掛け算に至っては絶望的です。もう僕は、10以下の整数倍以外の掛け算はしないことに決めています。やったとしてもその逆数までです。どう考えても自分の頭で暗算して、検算するよりも電卓を起動して、計算するほうが早いしストレスが少ないわけです。

これを退化とみるか適応と見るかは考えの分かれるところですが、今時、服も着ないで布団もなしに生活したら風邪をひいて死ぬことは間違いないですから、服や下着と同じようにAIを受け入れることを前提と考えれば、筆者はこれを進化と捉えます。

スクリーンショット 2017-10-31 15.06.45

先日、新潟県長岡市で最初の中高生向け人工知能プログラミング講座が始まりました。

長岡市がこのために購入した5台の深層学習用PCを3人一組で共有しながら、自分たちが持ってきた画像データを使ってAIを訓練したり、実際にPythonとChainerを使って人工知能のプログラミングをしたりする講座で、驚くべきことに(いや、むしろ今更驚くべきことではないかもしれませんが)、全員が二日間の日程で人工知能のプログラミングができるようになって帰って行きました。

参加者からは「もっと人工知能作りたい」という声も聞こえてくるほどで、まずは最初の段階はクリアしたかなと思います。

なぜ人工知能がこれほどまでに人を惹きつけるのか。筆者が非常に手応えを感じたのは、いまや深層学習の研究者にとっては練習問題にすらならない、カリフォルニア大学バークレー校の「Caffeのデモ」を体験させたときでした。

そのとき、確かに子供達は目を輝かせたのです。

このデモの何が面白いか。画像を見せると、それを人工知能が解釈して「これは○○ではないか」と当てるのです。

「英語で出てくるから、何言ってるかわからねー!」という子には、Google翻訳の使い方を教えました。すると彼らは俄然面白くなってくるらしく、次々と持ち寄った画像をAIに見せ、AIが混乱するのを夢中になって楽しみました。

なかには「すげえ!」という結果もあれば、「ぜんぜんダメだけど笑える」という結果もあり、それが子供達をさらに夢中にさせました。

筆者が思う、教育に一番大切な要素とは、驚きと面白さです。面白いからこそ夢中になれる。夢中になるからこそ、壁を乗り越えることができる。

その意味で、人工知能が絵を独自に解釈することは、すでに彼らにとっても十分「おもしろいこと」なのです。

このデモはあまり大人には刺さりません。大人からすると、猫の写真をネコと判定するのは当たり前のことだし、実際には人間なら誰でもできることなのです。

これが「大人の考え方」なのは、結局、大人になるとつまらないことや自分がやりたくないことは極力「外注を使う」ことで解決してしまいます。

大量の写真の中からネコの写真だけ欲しければ、アルバイトかなんかに頼んでそれで済ませてしまいます。

しかし、子供達に外注はいません。だから、ネコを見せてネコだと判別できる機械は、彼らにとってまさしく見たこともない機械であり、これを使いこなすことで、それまで自分たちにはできなかったことができるようになるかもしれない、という本能的な期待感が広がり、彼らを夢中にさせていったのではないかと思います。

全く同じようなパターンで、筆者も深層学習にハマりました。それまでは深層学習というか、機械学習というのは、仕事で扱ってはいたものの、小難しく、応用法を考えるのが難しいものでした。

ところがCaffeのようなツールが現れて、手軽にいろんな画像の推論をやらせてみると上手く行ったときの驚きと、しくじったときの回答の妙な納得感に夢中になったのです。

これを一度体験しておくと、ソースコードの入力という苦痛に思える作業も、彼らは真剣に取り組みます。はっきりとした完成像がイメージできているため、その仕組みを知るという行動が苦にならないのです。

プログラミング教室という体裁だったので、一応プログラミングもやりましたが、本格的な人工知能を作るところはGUIでやりました。そのほうが確実で速いからです。

そもそも人工知能を作る時、プログラミングをするというのはよほどの専門家でもなければやりません。基本的には典型的なアルゴリズムがあれば、あとはデータを入力するだけで、どちらかというとこのデータを作ったり整形したりする作業が大変なのです。

3人一組で、それぞれ1人ずつ数百枚の特定ジャンルの画像を持ってきてもらい、「畳み込みニューラルネットワーク」を学習させると、それぞれのチームでさまざまな偏りが出ていることがわかりました。

実際に彼らは全く同じプログラムで学習データの違いのみによってAIの性能が異なることを実体験し、AIに対する誤解やアレルギーを感じることなく最後まで1人の脱落もなく講座を終えることができました。

なにより驚いたのは、子供達は極めて自主的に集まってきたという点です。各学校に案内を出すと、すぐに募集枠が埋まってしまったそうです。子供はAIという新しいおもちゃに触れたがってる、というのも大きな発見でした。

残念なのは、この深層学習用のマシンはそれなりに高価なもので、子供のおもちゃにするには高すぎるという点です。

筆者が子供の頃は、ちょうど個人用マイコン(またはパソコン)が売り出された頃で、安いもので10万円程度でした。この低価格がなければ普及していなかったものと思われます。

Raspberry Piでも、遅いのを我慢すればある程度のところまでは学習できるので、次回はRaspberry Piを使った実習も取り入れていこうかなと考えています。

AIネイティブで育つ子供達には、未来がどんなふうに見えているのでしょうね。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

RELATED TAG