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TSMCの熊本工場稼働から見える日本の強み

TSMC tells the strength of Japanese economy

2024.02.29

Updated by Mayumi Tanimoto on February 29, 2024, 12:00 pm JST

半導体大手のTSMCが熊本で大規模な工場の稼働を始めたことが話題になっていますが、TSMCによる決定は、実は日本人が気付いていない日本のテクノロジーにおける強みを証明しています。

常に中国からの脅威にさらされている台湾にとって、TSMCは大変重要な企業であり、台湾経済における大きな山のような存在です。

国の命運を左右するため、TSMCの方針は大変保守的で堅実であることを良しとします。これは創業者のモリス・チャン博士が、アメリカで長年、テキサスインスツルメンツで勤務し、同社が消費者向けビジネスなどに手を出して上手くいかなかったことや、自身が幼少期に中国での戦乱を経験していることの影響が大きいでしょう。

チャン博士はアメリカでの講演でTSMCの歴史を語った際に、半導体産業で重要なことを指摘しています。

テキサスの工場と日本の工場を比較した際に、従業員の離職率のあまりの違いに驚いたというのです。テキサスでは従業員の離職率が景気が良い時には25%にもなったため、製造やオペレーションを担当する作業員やテクニシャンの教育が追い付かず大変な苦労したといいます。

ところが日本の場合は、景気の良し悪しに関わらず離職率は2%に満たず、 非常に安定しており製造や オペレーションを担当する現場の人々の質が高いのだと指摘していました。

これはやはりアメリカと日本の働く人々の文化の違いがあります。アメリカの場合は高い報酬を求めて どんどん職場を変わっていきますが、 日本の人々は職場に対して所属意識や忠誠心があり、高い報酬よりも職場に所属することや労働を通して自己実現することが重要なのです。

これは文化の違いです。

さらにチャン博士は、テクノロジー業界においては企画や研究をする人々だけではなく、実際に現場で作業を行う製造ラインの人々や オペレーターの人材としての質が大変重要だと指摘します。このような人々は、実務をこなすことができるだけの高い教育を受けていることが重要です。そしてその大半は、安定していて質の高い良い生活を望む普通の人々です。

質の高い製品を生み出すには、このような人々が大勢必要なのです。AIやソフトウエアが重要でも、マシンを動かす半導体やハードウエア、インフラ、電力がなければどうにもなりません。

日本は公教育のレベルが高いので、こういった現場の人々の数と層が厚いのです。私が書籍や記事で指摘してきたように、現在ほとんどの先進国では教育レベルの格差が大きくなっており、公教育の質は日本ほど良くはありません。

教育資源はごく一部の上位層の大学や研究所に割り振られ、学校の多くは私立となって高額な教育費がかかるようになっています。もはや、中流以下の家庭は、子供に良い教育を施すことができません。

その結果、人材のレベルは国全体でどんどん下がるようになり、製造業のように数多くの人が安定した仕事をこなすことができる産業を起こそうと思っても働ける人がいないのです。

ところが日本の場合は、良い意味で古き良き社会を保っているので、高い報酬よりも安定性や帰属性を求める働く人が大勢おり、公教育のレベルが高いので読み書きがきちっとでき、労働意欲もある人々が大勢いるのです。

このような先進国は、実は現在では日本だけです。その一方で、日本の企業というのは、こういった素晴らしい日本の人材を派遣社員や契約社員として使い捨てにしてきました。こういった背景の中、過疎化が進む地方に工場を建設し、仕事熱心な日本の人々を多く雇ったのが台湾の企業だったわけです。

海外の人の方が日本の本質的な強みを理解しているのです。日本人はもっと自分たちの強みを客観的に理解するべきです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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