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科学とデザインの邂逅により芽生えつつある「未来のかけら」を観察してみよう
研究開発のネタをアート/デザインの現場から探る

2024.05.13

Updated by Masayo Yaso on May 13, 2024, 17:51 pm JST

アート/デザイン領域は、ご縁がないと極めてハードルが高く感じられるもののよう。私は初対面の方に「趣味はアート鑑賞です」と言って、「ご高尚ですね」と壁のあるコメントを返されるという、苦い経験が幾度とあります。

そんな取っつきにくい(らしい)アート/デザインですが、事業開発をはじめ、エンジニア/リサーチャがアイデアを生み出す際の刺激になり得るものです。そこで、「アイデア創出の道具」としてのアート/デザインを、実際の作品に触れながら、あらゆる角度でお伝えしていきます。

21_21 DESIGN SIGHT企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」
今回、アート/デザインに触れるために訪れたのは、東京・六本木、東京ミッドタウンの一角にある、21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)。一枚の鉄板を折り曲げたような屋根の建物から、展覧会をはじめとしたデザインに関する情報発信を行っています。

実は私、ここのイベント情報を頻繁にチェックして通っています。一風変わったテーマで、自分の視点を変えさせてくれる展覧会がよく開かれており、大変刺激になるのです。(2021年に開催された「ルール?展」も面白かった!)

さて、この21_21 DESIGN SIGHTにて、2024年3月29日(金)から8月12日(月)まで開催されているのが「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」。日産自動車のカーデザイナーを経験され、2023年には東京大学特別教授となった、デザインエンジニアの山中俊治氏がディレクターを務めている展覧会です。

山中氏はディレクターズ・メッセージにて、「本展は、今まさに起こっている科学とデザインの邂逅により芽生えつつある『未来のかけら』を探るもの」と述べています。それはエンジニア/リサーチャにとっても刺激となる「未来のかけら」になるのでは?ということで、本展の展示作品のうち、一部をご紹介します。

コンセプトから考える: A-POC ABLE ISSEY MIYAKE + Nature Architects

この白い服は、服の折り目を自動で設計する技術と、熱を加えると布が縮小する技術により、一枚のパーツからほとんど縫製をせずにできています。「こいつ何を言っているんだ」と思う方は、ぜひ会場の解説映像を見てください。ISSEY MIYAKEといえば「一枚の布」をコンセプトとした服作りで知られていますが、そのコンセプトに準じて技術研究までしてしまうのか、と感心しきりです。

未来を思考する: 山中研究室+稲見自在化身体プロジェクト「自在肢」
研究者約100名による人間の身体機能の拡張をテーマにした研究プロジェクト、稲見自在化身体プロジェクトの一つに「自在肢」があります。人間に3本目、4本目の腕をつけられないか、という試みで、その見た目はさながら奈良・興福寺の阿修羅像(冒頭の写真)。現段階では本物の腕のように振る舞うことは技術的難度が高いため、踊ることを目的とし、各腕に操縦者が必要です。しかし、将来的には着用者の意思に合わせ、まさに「自在」に動かせるようになるかもしれません。

一方、その未来が実現した場合、その腕は果たして自分の腕なのか?という問題も内包しています。進化する技術は、哲学や倫理の問題と隣り合わせですね。ちなみに会場では、「自在肢」を着けたダンサーが踊る様子を映像で見られます。また、「自在肢」の世界観を映画にした、遠藤麻衣子監督による短編映画「自在」の本展特別編集版も上映しています。

見て触って右脳を刺激
と、ここまでは左脳的に作品を見てきました。が、「何だかこれは面白い!」と右脳が喜ぶ仕掛けだって、展覧会の随所に散りばめられています。

nomena + 郡司芽久

自分の手で触って組み立てられる、動物の骨格模型の展示です。実際にやってみると、まるでパズルのように骨と骨がスッとおさまり、なんともいえない心地よさがあります。このように骨格構造を視覚だけでなく触覚で理解することが、ロボットなど別のものを創り出すときのアイデアに繋がるのかもしれません。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)+ 山中俊治

「骨格構造から美しいロボットをつくる」というコンセプトに基づきデザインされたロボットが展示されているのですが、ロボット自体はもとより、その展示方法がユニーク。会場中央の白いテーブルにいくつか穴が空いた白紙が数枚置かれており、それにプロジェクションマッピングにより、ロボットの映像が投影されます。そして鑑賞者が紙の穴を触ると、映像が切り替わるという仕組みです。プロジェクションマッピングで壁やテーブルに映像を投影し、インタラクティブに映像を切り替える手法は最近増えてきましたが、紙が置かれているパターンは初体験。紙というアナログな媒体を触るだけで、バーチャルへの没入感が上がる気がしました。この感覚は、ぜひ会場で体感いただきたいものです。

東京大学 DLX Design Lab + 東京大学 池内与志穂研究室

体外で培養された脳の神経細胞と遠隔で「会話」するインスタレーションの映像展示があるのですが、さらにその培養された神経細胞をどのように活用できるかアイデアを出し、プロトタイプをつくったところまで展示されています。付箋でアイデアを出して煮詰めて試行錯誤の中、プロトタイプに至る経緯が大きなテーブルに並べられているので、考えた人たちの脳の中を覗き見した気分になれます。

結局、「百聞は一見に如かず」
どうにも文章だけでは、本展の良さや面白さを伝え切れていないようです。ということで、実際に行ってみることをお勧めします。展覧会の良さは、あらゆる感覚を使って感じられるところ。五感までいかずとも、四感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚)と、さらに脳細胞は刺激を受けること間違いありません。

■企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」

会期:2024年3月29日(金)- 8月12日(月・休)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン
ミッドタウン・ガーデン
休館日:火曜日
開館時間:10:00 - 19:00(入場は18:30まで)

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八十雅世(やそ・まさよ)

情報技術開発株式会社 経営企画部・マネージャー
早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。2024年4月より「シュレディンガーの水曜日」編集長を兼務。

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