© Shigeru Takeda, Courtesy of Schrodingers.jp
Is it possible to unravel materials science through the humanities?
August 28, 2026
竹田 茂 shigeru_takeda
日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire News、TeleGraphic、localknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。
質量と体積を持ち、空間を占めているすべてのものが物質(Substance)だとしたら(フェルミ粒子じゃないものはどうなんだ、という面倒な話はとりあえず割愛)、その物質を何らかの目的や製品を作るための素材として活用できる状態にしたものが材料(Material)と考えられます。つまり材料とは、用途や機能に焦点を当てた言葉なので、そこにはなぜそのような用途がありうるのか、なぜそんな機能が必要なのか、という人の想いが注入されていると考えることはさほど不自然ではないでしょう。そうすると、さまざまな材料の名称はその「人の想い」にパラフレーズできることになると同時に、その想いを駆動させたのはおそらく(哲学や美学などの)何らかの人文学的アプローチだったのではないか、と想像することが可能です。材料開発を駆動させる中核になるエンジンは実は人文学(humanities)だった、という仮説が浮上してくるわけです。この「想い」はAIが最も苦手とするところですから、ここに私たちとしては活路を見出すことができるのかもしれません。
用途や機能には何らかの“価値”を実現するミッションがあると考えると、材料の名称は、そのまま何らかの価値を表現しているはずです。例えば紙(という材料)は「信頼」を可視化するために使われます。ホワイトボードにマーカーで書いた文字は消去することが前提になっていますが、万年筆での紙への署名(signature)は、覚悟とその覚悟に対する信頼そのものを表現することが可能です。いずれにしてもテキストに信頼性を付与したい場合、(材料として)紙を使えばいい、ということになるので、紙=信頼ということになります。デジタル化された書籍(電子書籍)に信頼を見出すのは困難でしょう。
私たちの生活は多くの材料で支えられているので「もしもこれがなかったら世の中、かなり違ったものになっていたかも」と思わせる代表的なものを独断と偏見で挙げてみると、おそらく下記の材料になると思います。材料名(英語もしくは元素名)とその価値という順序で記載してみました。当然注目して欲しいのは2番目に記載した「その価値」の名称です。構造、堅牢、想像、計算、透明、寛容、信頼、安心、拡張、伝導、円滑、密着、芸術、先端複合、という言葉を抽出することができました。
1)鉄(Fe)=構造:地球はそもそも鉄でできている(重量比約34.6%)と言っても過言ではありません。様々な物理的な構造を支える最も重要な金属です。
2)コンクリート(Concrete)=堅牢: 世界で最も大量に使用される人工構造材料。
3)プラスチック(Polymers)=想像: あらゆる道具に変身可能で極めて清潔。
4)シリコン(Si)=計算:情報通信社会の基盤そのもの。
5)ガラス(Glass)=透明: 見通しの良さは光ファイバーにまで及んでいます。
6) 木材(Wood)=寛容: 低い熱伝導率を武器に、建築資材や家具などを通じて、生活に温もりと持続可能性を提供。
7)紙(Paper)=信頼:書籍や記録媒体、包装・物流インフラとしても欠かせない繊維素材。
8)繊維(Fibers)=安心: 衣類や寝具を通じて体を守る。
9)アルミニウム(Aluminum)=拡張:飲料缶から航空機まで幅広く活躍する軽くて強い金属。
10)銅(Copper)=伝導: 電力を送る神経として機能。
11)アスファルト(Asphalt)=円滑: 道路の舗装材として物流のネットワークを滑らかにつなぐ。
12)ゴム(Rubber)=密着: モビリティと機械を弾性で支える基盤素材。
13)陶磁器(Ceramics)=芸術::耐熱性、絶縁性などの実用性と芸術性を併せ持つ魅力。
14)炭素繊維(Carbon Fiber)=先端複合: 鉄よりも強くアルミよりも軽い。
いかがでしょう。それぞれの材料の専門家の方からは「ちょっと違うんだよな」と言われそうですが、まあ素人はこんな捉え方をしているのだ、とご容赦ください。材料には「判断材料」とか「脚本のネタ」などのように様々な情報やメディアの元データ、資料あるいは根拠を指す場合がありますが、これらは物質に起因するものではないので、今回の議論からはとりあえず外しておきます(これはこれで面白いんですけどね)。加えて、水や塩などの食品関連、つまり人の体の中に取り込む材料についてはまた別の機会に、ということにしたいと思います。
なお、ここには挙げませんでしたが、「ゲル」も次世代を大きく変える可能性がある材料かも、ということで「複素ゲル ── 具象と抽象のあいだで、ゲルを捉えなおす/酒井 崇匡(東京大学大学院工学系研究科 教授)/シュレディンガーの水曜日」を実施します。「ゲル(Gel)とゾル(Sol)ののゲルですね。「何で今頃?」と思ったのですが、酒井先生との事前打ち合わせがあまりにもエキサイティングだったので、多分面白いセミナーになると思います。無料ですのでぜひみなさんご参加ください。