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T-Mobile US「Un-carrier 9.0」は法人市場向け「シンプルでわかりやすい料金」の提供

Live with less; keep your life simple

2015.05.14

Updated by Hitoshi Sato on May 14, 2015, 07:06 am JST

2015年3月、アメリカの通信事業者T-Mobile USが「Un-carrier 9.0」を発表した。「アンキャリア」の名前のごとく、従来の通信事業者からの脱却を目指した施策・サービスの提供で、2013年3月から開始された施策で、ついに9弾目となる。

今回の「Un-carrier 9.0」は、法人(ビジネス)市場の開拓である。T-Mobile USは各通信事業者が提供している「法人向け料金プラン」が複雑でわかりにくいため「シンプルでわかりやすい」料金プランを提供するというもの。

非常にシンプルで、1,000回線までは1回線につき月15ドルで、1,001回線以上は1回線につき月10ドルで通話は「かけ放題」でデータ通信が1Gまで利用できる。データ通信は2Gずつ10ドルで追加できる。月30ドルで「パケット定額」も利用可能である。

シンプルな料金体系をウリにしているから、例えば「10年以上利用しているから割引」のような割引プランや複雑な料金プランを用意していない。

T-Mobile USが2015年4月28日に発表した2015年Q1の決算は売上高が前年同期比13.1%増の78億ドル、純損失が6,300万ドルだった。加入者数は5,680万となり、ソフトバンク傘下のSprintを抜いて3位になるのは確実である。また2015年Q1も180万件の新規加入者を獲得しており、8期連続で100万件増を達成した。解約率も1.3%と、前年同期の1.47%を下回り過去最低を更新している。

ここまでT-Mobile USは多額のマーケティング費用を投入して新規顧客獲得や既存顧客の囲い込みを行ってきた。そのため売上高と加入者数は伸びているものの、赤字である。T-Mobile USは今回さらにターゲットをアメリカの法人市場に向けてきた。他の通信事業者も追随し、これからもアメリカの通信事業者間の競争は激化することは確実である。

▼「Un-carrier 9.0」でのビジネス向け料金プラン

20150514a-sato-1(T-Mobile US)

 

【参考動画】「Un-carrier 9.0」の発表会

 

▼ニューヨークのタイムズスクウェアで一番目立つところにT-Mobile USの広告はある。
20150514a-sato-2

以下に過去にT-Mobile USが提供してきた「Un-carrier プラン」を纏めておく。

「Un-carrier」(2013 年3月提供開始)
アメリカでは2年契約を結んだ他社の顧客がT-Mobile USへ乗り換えようとすると、多額の解約料を請求される。そこで、T-Mobile USは顧客に代わって、この解約料を全額負担するという施策である。つまり、このプランでは契約期間の縛りがないため、顧客は「T-Mobile USのサービスが気に入らなければ、いつでも他社へ乗り換えできる」ということから安心してT-Mobile USで契約ができる。

「Un-carrier 2.0」(2013 年7月提供開始)
月額10ドル(追加料金)で、2年間のうち3回までスマートフォンの買い替えができる「JUMP!」プランの提供。

「Un-carrier 3.0」(2013 年10月提供開始)
100カ国以上で追加料金なしでローミングできる「無制限グローバル・データ通信」の提供。

「Un-carrier 4.0」(2014 年1月提供開始)
T-Mobile USへ乗り換えた他社の顧客が使用中の携帯端末を下取りに出すと、最大で300ドル(他社での契約期間の経過月数により減額)、合計で最大650ドルのキャッシュバック受けることができる。

「Un-carrier 5.0」(2014 年6月提供開始) 「Test Drive
アメリカでの大人気の「iPhone 5s」を7日間無料貸出。「Test Drive」というサービス名で、T-Mobile USのネットワーク力を試してもらう。端末保証のためにクレジットカード情報を入力する必要があるが、送料などは無料。返却は、宅配便などは受け付けず、最寄りのT-Mobileショップに持っていく必要がある。但し、返却時にディスプレイの破損などの問題があった場合は100ドルの補償料が必要。

「Un-carrier 6.0」(2014 年6月提供開始) 「Music Freedom
既存のT-Mobile USの顧客を対象に、Pandora、iTunes Radio、Beats Music、Rhapsody、Spotify、Xbox Music、Milk Musicなどアメリカの主要音楽ストリーミングサービスの利用パケット費用を無料とする。T-Mobile USの顧客にデータ通信費用を気にせず音楽を楽しんでもらい、同社に繋ぎ止めることが目的。

「Un-carrier 7.0」(2014 年9月提供開始) 「Wi-Fi Calling」「Wi-Fi Texting
T-Mobile USの通信ネットワーク(3GやLTE)でなくとも、Wi-Fi(無線LAN)に接続されたところでは、無料で音声通話(Calling)およびショートメッセージ(Texting)が利用できる。

「Un-carrier 8.0」(2015年1月提供開始) 「Data Stash」(パケットくりこし)
未使用のパケット(データ通信)を翌月まで繰り越せる。

「Un-carrier 9.0」(2015年3月提供開始) 「Un-carrier for Business
法人市場向けに「シンプルでわかりやすい」料金プランの提供。

 

【参照情報】

After Revolutionizing Wireless for Consumers, T-Mobile Un-leashes Un-carrier for Business
T-Mobile US Reports First Quarter 2015 Results

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。