──通信事業者も、これからは技術志向というか、とにかくスペックを上げていくのではなく、ある種のエクスペリエンスデザインをしていくという考え方にシフトしていく必要があるのかなという気もします。
林 : そういう視点で見ると、ドコモもauもちょっとキャラが薄い。ソフトバンクはキャラがはっきりしているんですが、やっぱりIT企業なんです。
孫社長のプレゼン資料でいつも出てくるんですが、ソフトバンクがそもそもなぜ電話事業に乗り出したかといったら、携帯電話はパソコンに比べて圧倒的に接触時間が長いから。パソコンはたかだか一日に2、3時間しかさわらないものですが、携帯電話は一日24時間、朝目覚まし時計から夜寝るときまでずっとつきあっているデバイスです。だから、これからITをやるなら、ここに入れるしかないと。だから、あれだけ借金してボーダフォンを買って、それでもIT技術を広めていきたいという、そこがソフトバンクの根っこにあります。
今、いろんな人が「ソフトバンクはTwitterを買収した方がいいんじゃないの」といったことを言うんですが、私は、Twitterは特定の通信キャリアが買収したらそれだけでTwitterの広がりが縮んでしまうから、それはないだろう、と言っていました。ところがある人が、「ソフトバンクがTwitterを買収したら、ソフトバンクの携帯電話事業の下ではなくて上につけるだろう」と言ったのを聞いて、なるほどと感心したんです。
Twitterが上というのはどういうことかというと、Twitterは人々のコミュニケーションを全く変えてしまうものですよね。まずTwitterがあって、ソフトバンクはTwitterを使って新しい世の中のコミュニケーションを広げていくための手段の一つとして、携帯電話事業をやっています、だからTwitterはドコモとも、auとも契約しますという理屈が成り立ちます。こうすれば、Twitterの広がりを縮めることもない。
ビジョンとかやりたいことがはっきりしていない会社は、これからの時代、価格競争に巻き込まれて、安値で勝負していくしかありません。ソフトバンクというのは、良くも悪くも孫さんの会社ですから、ビジョンが明確で方向が決まっている。だから、力をみんな同じ方向に込められるんです。キャリアの未来の姿は、意外とソフトバンクが体現していたりするのかもしれません。
──ソフトバンク以外の2社のキャラクターは、どうでしょう。
林 : auもやり方によっては見えてくる気がします。デザインコンシャスな部分がすごくいいのと、auは全て自分達でスペックも完璧に決めて端末メーカーに要求している。「それが日本の悪いところだ」と言われることもありますが、ある意味アップル的なんです。
アップルが垂直統合でパソコンを自社で作っているのと同じで、auは携帯業界におけるアップルのようなポジションを狙っているととれなくもない。でも今のauは、やはり、「電話会社しとしての本筋から離れることもやっている方がたくさん契約が取れる」という発想をしているので、余計なことをやりすぎなんです。そうじゃなくて、もっと電話会社としてのキャラがはっきりするような戦略にして、製品やサービスの絞り込みもやった方がいいような気がします。
──逆に、携帯電話メーカーとして考えた時、アップルは回線を持っていない分通信事業者に比べると最終的には弱いような気もするんですね。だから例えばGoogleが回線を自前で引こうとしていたり、そういう動きが出てきているような気がするんですが。
林 : アップルがそこをやらない理由ははっきりしていて、一番手間がかかるからですよ。交渉して、AT&Tやソフトバンクに大変な思いをしてインフラを整備してもらう。もし、いずれ世界数十カ国で通信事業を営めるようなMVMOの仕組みができたら、多分アップルはそれにのっちゃうのではないかという気がしています。すべて自分たちのやり方でデザインするのがアップル流なので。
文:林 信行
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