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(cc) Image by dno1967

携帯電話機からキーパッド(テンキー)が消えていくという予測を英国の調査会社ARCchart社が発表した。2000年代前半まで、携帯電話のほぼ100%が「#」と「*」を含む12個の数字キーを物理的に実装していたが、2009 年の推定値では約82%に下落。2011年までは新興国などでの携帯普及で微増と予想されているが、その後は減少に転じて2015年には43%とほぼ半減するという。

テンキーの搭載率減少の引き金となったのはBlackBerryなどに搭載されている小型のフルQWERTYキーボード。こちらは2009年で6%が実装しており、残りがiPhoneやXperiaなどに搭載されているタッチスクリーンだ。

電卓にせよ電話機にせよ、テンキーは単なる入力デバイスで、タッチスクリーンのように情報を出力することはできない。しかし、物理的なキーには指で押し下げた際に押し戻す感触があるし、押し切ったことも指に伝えてくれる。タッチスクリーンの場合は押されたキーの色を変えるなどヒューマンインタフェース上の配慮がなされていない場合、押すという動作が機械に伝わったかどうか分かりにくいこともある。

とはいえ、やはりたった12個のキーでは情報入力にかなり制限がある。欧米では1つの数字に複数のアルファベットを当てたり、日本では「あ行」「か行」を当てたりして、メールやテキストメッセージの文字を数字で入力できるよう工夫されているものの、QWERTYでの入力に比べると時間がかかる。

20世紀末にはポケットベルにメッセージを送るために、女子高校生が緑色のカード型公衆電話機から数字を打ち込んでいる姿が見られたものだ(NTTドコモのポケベルの場合、「11」が「ア」、「15」が「オ」と50音の行と列によってカナ入力ができた)。主題歌もヒットしたテレビドラマ「ポケベルが鳴らなくて」は1993年製作というから17年前の社会現象だ。

ちなみに、電話のキーパッドの並び順が、コンピューターや計算機のテンキーと異なるのには理由がある。プッシュホンの登場は1969年だから、今から41年前。それ以前はダイヤル式で、数字は「1」から「9」「0」の順番に並んでいた。電話のキーパッドは、この順序を踏襲しているのだ。

電話回線は2本で、ループ(閉回路)を作って音声を伝えているが、ダイヤル式回線ではこのループを一瞬だけ「切る」ことによって数字を伝えていた。1回切れば「1」、2回切れば「2」という訳だが、0回切ることはできないので、「0」は10回切ることで表現していた。しかも、その切る動作は、ダイヤルを回して戻るときの回転で実現していた。そのため電話のダイヤルは「1」から始まって「0」で終わる。

一方で、プッシュ式回線では1つの数字を2つの周波数を組み合わせた音で表現していた。縦3列、横4行にそれぞれ計7種類の周波数が割り当てられていて、縦横の組み合わせが2つの周波数の合成となっていた。現在でもアナログ電話回線を使った数字情報のやり取りは、可聴音の信号で行われている。

ダイヤル式電話に由来する「順序」と音の組み合わせによる「信号」の両方を視覚化した数字の配列は、国際機関であるCCITT(現在のITU-T)で国際勧告となったため、各国で共通の配列となっている。

さまざまな制約の下で工夫された電話機のテンキーであるが、QWERTYキーボード、タッチスクリーンに押されて姿を消すという。やがては音声ダイヤルが一般化してしまい、電話機に指で数字を入力する作業すら昔の光景ということになるのかも知れない。

【参照情報】
The phone keypad: may it rest in peace
1962〜1987年 600形自動式 卓上電話機 プッシュホン 留守番電話機 クローバーホン(PDF)

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