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インド編(2)インドの携帯電話キャリア

2010.09.16

Updated by Mayumi Tanimoto on September 16, 2010, 16:30 pm JST

○インドでは通信事業者の営業エリアが22の「サークル」という単位に分割され携帯電話事業免許も「サークル」毎に割り当てられている。

○インド最大の携帯電話会社であるバーティ・エアテル(Bharti Airtel)はインドの農村と海外での顧客ベースの拡大に注目している。

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(cc) Image by Shayan (USA)

1. インドの携帯電話営業地域を決める「サークル」制度

インド政府は通信事業者の営業エリアを22の「サークル」という単位に分けており、携帯電話事業免許も「サークル」毎に割り当てられている。サークルは「metro」(都市部)「A」「B」「C」に分割され、各エリアは人口数、浸透率、加入者数等から想定される「予想される携帯電話サービスからの収益」により分割されている。最も高い収益が想定されているのは、「metro」(都市部)と「A」である(参考資料 [PDF])。

「サークル」内同士の通話はローカル通話として課金され、「サークル」外の地域に電話を掛けると「長距離電話」となる。

各携帯電話キャリアは、事業免許を申請する際には、各「サークル」毎に免許を申請し、政府に対して免許費用を支払う必要がある。例えば、最近実施された3G事業免許のオークションでも、各キャリアはサークル毎にオークションへ入札している(参考資料 [PDF])。

Results of India's 3G Spectrum Auction [PDF]
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インド編第一回で紹介したように、インドでは現在約81%のユーザーが、Bharti、Reliance 、Vodafone、Tata、Idea、Aircel、Unitechの6社いずれかを使用しており、「6大キャリア」と呼ばれている(参考資料)。

国内市場の飽和に悩む北米や日本のキャリアもインド国内でのサービスに目を向けているが、外資参入規制や免許取得の煩雑さなどの理由から、これら6大キャリアと連携した上で、インド市場参入を目指す場合が多い。

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2. バーティ・エアテル(Bharti Airtel)の概要

Airtel
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本記事では、インド最大の携帯電話キャリアであるBharti Airtelを紹介したい。

同社は2010年6月時点でインドの携帯電話契約者数16.7%を獲得しており、1億4千万人という膨大なユーザー数を誇る(参考資料)。同社の従業員数は2万5千人を越え、19カ国でサービス展開する巨大多国籍企業でもある。

同社はデリーに本拠を置き、インドでテレコム、金融、消費財、鉄道、保険等多数の事業を展開するBharti Enterprisesの一部である。Bharti Enterprisesは1976年に創設され、自転車部品の製造会社として事業を開始した。1995年にはデリーにて携帯電話サービスを開始している。

3. 転んでもめげない起業家Mittal氏

Bharti Airtel創設者であり、同社の社長であるSunil Bharti Mittalはインドを代表する若手起業家であり、チャレンジ精神にあふれた起業家として知られている。イギリスであれば、バージングループ会長のリチャード・ブランソン氏、日本であればソフトバンク社長の孫正義氏に似たところがある。インドでは「既得権の破壊者」「挑戦者」と形容されることが多い。

Mittal氏は製造業から身を起こして会社を作り上げた「たたき上げ」の起業家である。氏は、インド北西部からパキスタン北東部にまたがる地域であるパンジャーブ州1生まれの52歳であり、国会議員の父を持つ。パンジャーブ大学を卒業すると、父親から借りた500米ドルを元手として、若干18歳で兄弟であるRakeshとRajanと共にBharti Enterprisesを設立する。

始めに手がけた事業は自転車の部品製造業であった。このビジネスが当たり、1980年には売却。次に日本のスズキ自動車より輸入した発電機の販売を始めるが、インド政府により輸入が禁止されてしまう。その上、製造免許を得ることができず、事業が暗礁に乗り上げる。

次の事業を何にしようかと悩んでいたが、台湾ではプッシュボタン式の電話機が人気になっていることを知り、インドで製造を始める。事業が軌道に乗ると今度はFAXの製造にも進出する。

電話機とFAXの製造でテレコム事業の将来性を実感したMitta氏lは、1992年に携帯電話事業免許を獲得し、1995年にデリーにて携帯電話事業を開始する(参考資料)。

  1. パンジャーブは元々一つの地域であったが、1947年にイギリスからインドが独立する時、イスラム教のパキスタンとヒンズー教のインドが分離独立することになり、インド側とパキスタン側に分割された。現在パキスタンとインド双方にパンジャーブ州が存在する。インド側のパンジャーブ州には、イスラム教徒、シーク教徒、ヒンズー教徒が共存する。1970年代末以降,シーク教徒の過激派によるインドからの独立を求める闘争が展開され1980年代には深刻な国家的問題に発展した。これはカシミール問題と呼ばれている。Mittal氏はパンジャーブ人であるが、Hotmailの共同創設者であるSabeer Bhatia氏等の有名人もパンジャーブ人である。

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4. 戦略的パートナーシップとアウトソーシング活用で急成長

Bharti Airtelは、元々携帯電話キャリアではなかったため、外部の企業と戦略的パートナーシップを組み、アウトソーシングを活用することで事業を展開してきた。自社技術が無いことは弱みではないか、と言われてきたこともあるが、まっさらな状態から事業を始めることができたため、既存企業のように、しがらみに悩むことなく大胆な事業を進めてきた。

収益に関しては、顧客毎ではなく、分数毎に収益を計算する方法を取っている。月ぎめで料金を払うのではなく、プリペイドで携帯電話を使用する顧客が多いインド市場にあった計算方法となっている。

Bharti Airtelはハイエンドの顧客向けには、携帯電話、ブロードバンド、固定電話、Wi-Fi、デジタルテレビ等のマルチパックサービスを提供している。現在290万の家庭に固定電話とブロードバンド接続を提供しているが、全契約者のうち約45%がブロードバンド接続を契約している。デリー地域では50 Mbpsのスピードの接続が8999ルピー(1ルピー1.8円の計算で約1万6千円)で、月200GBまでのデータダウンロードが可能になっている。

デジタルテレビサービスである「Airtel digital TV」は350万人以上の顧客を持ち、セットトップボックス経由で放送を視聴することが可能になっている。提供チャンネル数は250に及ぶ(参考資料)。またコンテンツ提供にも力を入れており、オンデマンドゲームも提供されている(参考資料)。

Airtel digital TV
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インド国内の顧客ベース拡大に関しては、農村部へ目を向けている。同社の近年の新規契約者の6割は農村部のユーザーであり、今後も伸びが期待されるためだ。また今後数年の間に、10万ヶ所のサービスセンターをインドの農村中心に設置することを計画しており、方言を含め、400言語でサービスを展開する1

携帯電話の販売にも他者との戦略的提携を活用しており、Nokiaは200台のワゴン車を導入し、Bharti Airtelのサービスに接続する携帯電話を農村部に携帯電話を販売する予定である。さらに、マイクロファイナンス2を提供するS K Microfinanceと肥料大手のIFFCOもBharti Airtelのサービスに接続する携帯電話を販売する(参考資料)。

  1. インドは多言語・多民族国家であり、公用語であるヒンディー語以外にも多数の言語が使用されている。
  2. 発展途上国で提供されている金融サービスである。発展途上国では銀行は富裕層にしか融資しないため、小規模事業を営む個人事業者や主婦などが、事業を起こすために資金を調達することができない。そのような個人事業者や主婦向けにマイクロクレジット(小口融資)やマイクロインシュアランス(小口保険)を提供し、事業運営を援助することで、経済の活性化を促す事業である。

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5. Bharti Airtelの海外戦略

Bharti Airtelは近年海外市場の拡大に力を入れている。特に力を入れているのは、携帯電話普及率の伸びが期待され、インドのビジネスモデルを適用することが可能なアフリカである。

アフリカ市場は、農村の携帯電話普及率が20%程度でまだまだ伸びが期待できること、固定電話のインフラが脆弱なので携帯電話の需要が高いこと、労働コストが安いこと、中産階級が増えていること等インドの市場と似通っている。

Bharti Airtelに限らずインドの携帯電話キャリアは、インドでの事業展開のノウハウを活用することができるため、アフリカ市場へ注目しているのである。

Bharti Airtelは2010年6月にはクウェートの携帯電話会社であるZainを買収し、ブルキナファソ、チャド、コンゴ、コンゴ民主主義共和国、ガボン、ガーナ、ケニア、マダガスカル、マラウイ。ニジェール、ナイジェリア、タンザニア、ウガンダ、ザンビアでのサービス提供に進出している。スーダンとモロッコは含まれていないものの、アフリカにおいて外資系企業による最大の通信事業買収であった。

Zain
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インフラ投資にも積極的であり、2010年初頭にはアフリカのリゾート地であり、インド系住民が数多く居住するセイシェルの携帯電話会社を買収し、インフラへ投資している。

また、Bharti Airtelに携帯電話関連インフラハードウェアを提供するベンダであるMicroqual Technoは、同社のアフリカ進出をサポートするために増資を予定している(参考資料)。

一方アジア太平洋地域においては、IPL、マネージド MPLSサービス、イーサーネット等法人向けデータサービスの展開に力を入れている。データサービスは現在同社の収益の20%を占めており、年10%近い伸びを示している。インフラにも多額投資をしており、世界各国に22万キロにわたるケーブルを設置している。新興市場向けのサービスは年25%の割合での成長が見込めるとしており、今後はベトナム等含め19カ国以上でのサービス展開を予定している(参考資料)。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。