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東日本大震災でソーシャルメディアのあり方はどう変わっていくのか 「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring」リポート(2)

2011.04.28

Updated by Yuko Nonoshita on April 28, 2011, 17:00 pm JST

4月16日に開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring」では、「生活基盤としてのソーシャルメディアの未来」をテーマに、東日本大震災に関連する様々な活動を紹介すると共に活発な議論が交わされた。ここでは、「ハードウェアとセンサーネットワーク」と題して行われたパネルセッションについて紹介する。

▼パネルセッション「ハードウェアとセンサーネットワーク」では、ネットワーク技術を使った環境モニタリングの方法や機材、数値の扱い方など具体的な話が交わされた。
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センサーネットワークとは、気温や湿度といった様々な観測データを位置情報と共にマッピングし、可視化することで生活や防災などに利用する技術のこと。慶応大学の村井純教授は、数年前からIPv6の研究として行ってきた、センサー毎にIPを割り振ってリアルタイムにモニタリングする実験を紹介し、「人間こそが本当のセンサーである」とコメント。今回の震災は環境への影響に対する関心が高いことから、モバイル端末を配ってそこから情報をリアルタイムに収集するセンサーネットワークを構築し、継続的なモニタリングを行う必要があるのではないかという意見が述べられた。

▼慶応大学の村井純教授からは、IPv6の研究として600台のタクシーのワイパーにセンサーを取り付け、雨の降る場所と時間を観測した実験例などが紹介された。
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ロータスノーツの制作者で、元マイクロソフト社のチーフ・ソフトウェア・アーキテクトであるレイ・オッジ(Ray Ozzie)氏は、災害時に現地に必要なIT機器を配り、P2Pシステムをアドホックで構築するなどの活動を行ってる。東日本大震災の際にはクラウドコンピューティングを提供したが、今後は放射能センサーの提供など、もっとデータを集めて利用できるものを提供することを考えているという。

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ICTスペシャリストのアーロン・ホスレッジ(Aaron Huslage)氏からは、災害時におけるセンサーネットワークの活用方法としてオープンデータマッピングの構築などが紹介された。東日本大震災に関連する活動としては、ネットに接続した、ガイガーカウンタから得られた測定値をマッピングして公開する「RDTN.org」というサイトの構築を支援している。合わせて氏は、iPhoneに取り付けられるガイガーカウンタの作り方をネット上で紹介しているが、こうした活動は以前から行われているそうだ。

▼アーロン・ホスレッジ氏(写真中央)は、iPhoneに取り付けられるガイガーカウンタの制作方法をネット上で指導しており、イベント後半のアンカンファレンスではそれらに関する具体的な話も行われた。
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86年から放射線検知装置や監視システムの開発を手がけてきたダン・サイザ(Dan Sythe)氏は、民間による放射能の調査活動を支援している。ガイガーカウンタそのものは、アキバで手に入る部品でも作ることができ、会場ではそうした機器も紹介された。だが、大切なのは測り方や分析の適切さで、たとえば、「RDTN.org」では日本で必要されている所に600台のガイガーカウンタを送るプロジェクトを計画しているが、計測のためのトレーニングも合わせて実施するとしている。また、サイザ氏は「モニタリングは恐怖をあおるのではなく、パニックを抑え、適切な情報を伝えるための手法である」としており、最後は司会役の伊藤 穰一氏の「モニタリング活動は放射能だけでなく、天気や渋滞、様々なものに応用できるものであり、センサーネットワーク用の機材開発や応用範囲を拡げていくことが、もう一つの課題となるだろう」という意見でパネルセッションは締めくくられた。

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▼ダン・サイザ氏の会社では高性能の放射線検知器も制作しており、それらのいくつかが会場で展示された。
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▼ホスレッジ氏やサイザ氏らの影響を受けてTokyo Hackerspaceのメンバーが開発した手作りの放射能センサー。アキバで購入できる部品だけで作られている。
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【関連URL】
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。