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国内で「2011年3月末80万契約」の目標を達成し、まもなく100万契約に到達しようかという勢いで急成長しているモバイルWiMAX。その後継規格であり、ITUが選定した4G規格の一つである「WiMAX2」の技術的特徴や適用する技術要素について、UQコミュニケーションズ 技術部門副部門長 兼 ネットワーク技術部長の要海 敏和氏に、解説のご寄稿をいただいた。(1)WiMAX2の概要 (2)主要な技術 (3)マイグレーションと将来の展望 の3回に分けて掲載する。

「(1)WiMAX2の概要」はこちら

●MIMO技術の拡張

MIMO技術は、複数の送信及び受信アンテナにより、通信路を空間多重してデータ伝送速度を向上させる技術であり、送信アンテナN基に対して受信アンテナをN基組み合わせる(N×N MIMO)場合に、そのデータ伝送速度を最大N倍に増加させることができる。従来のWiMAXでは2×2MIMO構成で、2倍の伝送速度の提供を実現した。WiMAX2では、送・受信アンテナに最大8基のアンテナを配置する8×8MIMO構成までが規定された。また、MIMO技術には伝送速度をN倍に拡大するSM(Spatial Multiplexing)と、伝送速度のN倍の効果は無いが、厳しい伝搬条件で通信を安定化させるSFBC(Space Frequency Block Code)が採用され、現在のWiMAXが実装するSTC(Space Time Code)より伝送効率の高い送信ダイバシチ効果が得られる工夫が行われた。

また、WiMAX2ではSM/SFBCの種別に応じて下りで6種類、上りで5種類のMIMOモードが規定された。運用上では端末状況及び回線品質に応じて、このMIMOモードを動的に切り替えることで最適な通信性能を得ることが出来る。

図5に下りMIMOアーキテクチャを、表3に下りMIMOの組み合わせ一覧を示す。また、図6に上りMIMOアーキテクチャを、表4に上りMIMOの組み合わせ一覧をしめす。

更に、上り・下りのMIMOモードを以下に示す。

▼図5 下りMIMOアーキテクチャ
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(1)下りMIMO

  • Mode 0
    SFBCを採用した送信ダイバシチモード。主にセルエッジや高速移動といった回線品質が不安定または比較的悪い環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
    ※SFBC(Space Frequency Block Code)
    既存WiMAXで採用しているSTBC(Space Time Block Code)より、伝送効率の高い送信ダイバシチ効果が期待される。
  • Mode 1
    VEを採用したSM(Spatial Multiplexing)モード。主に回線品質が比較的安定かつ中電界以上の環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
    ※VE(Vertical Encoding)
    MIMO エンコーダに同一のシンボル(FECブロック)を入力するMIMOレイヤ方式をいう。
  • Mode 2
    VEを採用したSMモード。主に回線品質が非常に安定かつ強電界の環境で選択されるモードであり、閉ループMIMOおよびアダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
  • Mode 3
    MEを採用したSMモード。主に回線品質が比較的安定かつ中電界以上の環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。マルチユーザMIMO対応。
    ※ME(Multi-layer Encoding)
    Multi-user MIMOのみで使用され、MIMO エンコーダに入力されるシンボルがレイヤ毎に異なる方式をいう。
  • Mode 4
    MEを採用したSMモード。主に回線品質が非常に安定かつ強電界の環境で選択されるモードであり、閉ループMIMOおよびアダプティブプリコーディングが適用される。マルチユーザMIMO対応。
  • Mode 5
    CDRを採用した送信ダイバシチモード。主にセルエッジや高速移動といった回線品質が不安定または比較的悪い環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
    ※CDR(Conjugate Date Repetition)
    入力シンボルとその複素共役でCDRマトリクスを生成し、MIMO encoderに入力する方式。

▼表3 下りMIMOの種類
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(2)上りMIMO

▼図6 上りMIMOアーキテクチャ
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  • Mode 0
    SFBCを採用した送信ダイバシチモード。主にセルエッジや高速移動といった回線品質が不安定または比較的悪い環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
  • Mode 1
    VEを採用したSMモード。主に回線品質が比較的安定かつ中電界以上の環境で選択されるモードであり、開ループMIMOおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
  • Mode 2
    VEを採用したSMモード。主に回線品質が非常に安定かつ強電界の環境で選択されるモードであり、閉ループMIMOおよびアダプティブプリコーディングが適用される。シングルユーザMIMO対応。
  • Mode 3
    VEを採用したCSM(Collaborative Spatial Multiplexing)モード。主に回線品質が比較的安定かつ中電界以上の環境で選択されるモードであり、開ループMIMOIおよび非アダプティブプリコーディングが適用される。マルチユーザMIMO対応。
  • Mode 4
    VEを採用したCSMモード。主に回線品質が非常に安定かつ強電界の環境で選択されるモードであり、閉ループMIMOおよびアダプティブプリコーディングが適用される。マルチユーザMIMO対応。

▼表4 上りMIMOの種類
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●Frame構造の拡張

図7にWiMAX2のフレームの基本構造を示す。WiMAX2では、4つの5m秒フレームから構成される20m秒単位のスーパーフレームを採用した。さらに1つの5m秒フレームは、8つのサブフレームに上下比率に応じて分割して構成される。

WiMAX2では、当該サブフレーム構造を採用することにより、HARQなど伝送区間における処理周期の短縮を図る事でエンド・ツー・エンドでの伝送遅延を大幅に短縮することを可能とするほか、より効率的な無線リソースの活用を可能とした。

また、TDDによる上り/下りの時間比率は、運用条件により8:0, 6:2, 5:3, 4:4, 3:5の5種類が規定されており、サービス提供の状況に応じて任意に選択を可能としている。

  • スーパーフレーム 4フレーム/20m秒
  • フレーム 8サブフレーム/5m秒 (CP=1/8の場合)
  • サブフレーム 6シンボル@type-1, 7シンボル@type-2, 5シンボル@type-3
    48RU(Resource Unit)/サブフレーム
    (シンボルの割当て数により3のtypeが規定される)

▼図7 WiMAX2フレームの基本構造
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●WiMAX/WiMAX2のバックワードコンパチビリティの確保

WiMAX2は、WiMAXの拡張技術として標準化が行われている技術であり、従来のWiMAXとのバックワードコンパチビリティ(後方互換性)の維持がサービスの継続性や、シームレスなシステム構築に対して重要な要素となる。

WiMAXフォーラムでは、新たに定義したWiMAX2のフレーム構造に従来のWiMAXのフレームを収容することができる混在モード(Mixed Mode)の運用を定義した。図8にWiMAX/WiMAX2 Mixed Modeのフレームストラクチャを示す。ここで、WiMAXとのバックワードコンパチビリティを確保するため、下りはTDM、上りはFDMでWiMAXとWiMAX2を分割して収容することで、WiMAX2のフレーム構造に両システムを共存させることを可能としている。この場合、WiMAX2はフレーム先頭(WiMAXプリアンブル)から数シンボルオフセットした状態とする。

▼図8 WiMAX/WiMAX2 Mixed Modeのフレームストラクチャ(※クリックして拡大)
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図9にWiMAXとWiMAX2のフレームストラクチャ比較を示す。

▼図9 WiMAX(16e)とWiMAX2(16m)フレームストラクチャの比較
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●周波数活用の拡張(FFRと関連)

WiMAX2では、各通信事業者が割り当てられる周波数帯域が異なる場合(10MHz〜60MHzなど各国、各地域などにより様々な状況)においても、柔軟な運用モードの対応と相互互換性を維持するために、DFPC(Downlink Frequency Partition Configuration)、UFPC(Uplink Frequency Partition Configuration)を新たに定義し、より多くの周波数利用の定義を行っている。

これは、周波数領域を複数セグメントに分割することで、周波数リユース=1、3のほか、1と3の共存など、複数の周波数割当てに対応し、ソフトウェア(無線リソースの割り当て制御)により動的なFFR(Fractional Frequency Reuse)を実現するものである。例えば、DFPC=2の場合、周波数領域を4等分したうえで、うち1領域を周波数リユース1に対応させ、他3領域を周波数リユース3として割り当てる無線リソース制御を行うことで、1つの無線チャネル(例えば10MHz)で、周波数リユース1と3の運用を混在することが出来る。

図10に周波数パーティショニングの概念を示す。

▼図10 周波数パーティショニング種別(1024FFTサイズの場合)
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文・要海 敏和(UQコミュニケーションズ株式会社 技術副部門長 兼 ネットワーク技術部長)

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