[Xi Watching Report #6]Xiの加入者計画に対する月次進捗確認・通訳電話についての考察
2011.06.29
Updated by WirelessWire News編集部 on June 29, 2011, 16:00 pm JST
2011.06.29
Updated by WirelessWire News編集部 on June 29, 2011, 16:00 pm JST
今月のXi Watching Reportは、引き続きXiの月次契約動向と会社計画に対する進捗状況を確認すると共に、少し前の話になるがワイヤレスジャパンで、ドコモが展示していた「通訳電話」について考察したい。
6月7日にTCA及び各社より公表された。5月の各社月次契約動向では、ドコモの純増数が63,000件(昨年同期比66.5%減)と、その前月4月は188,000件(同21.7%増)、3月482,900件(同24.1%増)、2月182,900件(同23.3%増)、1月134,000件(同23.8%増)と今年に入りいずれの月においても昨年同期比で2ケタの伸びを記録していただけに、如何にも心許無い数字であった。とある、ドコモ系の大手販売代理店幹部の方に聞いた話では、「5月は震災の影響もあり、XPERIA arcなど売れ筋商品の入荷がほとんど言って良いほど、無く販売機会を逸したが、6月は戻りつつある」とのことだ。
▼表1:Xi契約数、純増数、データカード契約純増数などの推移(※画像をクリックして拡大)
(出所):会社資料、取材などから筆者作成
一方、Xiの純増数は好調そのものといった印象だ。表1の通り4月のXi純増数は14,200件であったのに対し、5月はその倍以上である32,800件。データカード契約の純増に占めるXi比率も65%超といった状況。昨年末に発表されたXi対応データカードのExpressCard型F-06Cが4月30日に発売されたことにより、端末選択の増えた事が奏功したと考えられようが、前述の代理店幹部の方の話では「他に売るものがなく、5月の月次目標達成の為には必死になって売るしかなかった」とのこと。Xiの本格的な需要喚起はまだまだといった様子だ。
そのような状況下、元来の計画では3月末に達成予定であったXi加入者数5万件に対して、5月末の累計契約件数72,600件と2ヶ月遅れながら達成したことはやや明るいニュースだったのかもしれないが、今後、Xiが普及して行く過程において2ヶ月程度の遅延など誤差の範囲という事になるだろう。
ところで、本年度末のXi累計加入者目標は102.6万であるのだが、5月時点での進捗率は4%程度。残り10ヶ月で95.3万件・1ヶ月当たり平均95,300件の純増獲得が必要になる計算だ。既にドコモから公表されている通り、6月30日にはXi対応のモバイルWi-FiルータL-09Cが発売されることから、7月の純増数(8月公表)で6月の純増(7月7日公表予定)にどの程度上乗せがなされるか注目したい。
4月純増から5月純増で倍以上の純増数の拡大効果があった事から鑑みると、4月比の3倍程度・4万件超の純増が記録されれば、機種ラインナップの充実と共に純増獲得は十分可能と判断できよう。既にドコモから公表されている通り、秋にはタブレット型・冬にはスマートフォン方が発売される予定。いずれも複数機種でのラインアップになる様子である事からも相応の純増拡大効果が期待できそうだ。
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月次契約状況の進捗確認とともに、基地局の建設状況いついても進捗確認したい。
▼表2:Xi対応基地局数の推移(※画像をクリックして拡大)
(出所):総務省無線局情報検索、会社資料より筆者作成
(注):ドコモ公表値と総務省無線局情報検索との差分は、ドコモ公表値は基地局設置場所数であり、
免許数ではない事に起因すると想定している
表2で示すとおり、対応基地局の建設は至って良好に進捗している印象。4月比で500局程度基地が増加。今年度末5,000局の基地局設置目標に対して5月末時点で2,255局とかなり早いペースで基地局建設は進んでいるようだ。既に、5月30日にドコモから発表があったように、7月1日からはXi対応エリアが拡大、札幌市、仙台市、金沢市、広島市、高松市、福岡市の一部においてXiが利用可能となる。これを以って、端末の販売も7月からは全国規模で販売されるようになろう、前述した端末ラインアップの拡充と共に、純増数拡大に期待が持てそうだ。
少し古い話になるが5月27日〜5月27日の3日間、東京ビッグサイトで開催されたワイヤレス業界の最大級の展示会である「ワイヤレスジャパン2011」に後学の為に見学に訪れた。
通信事業者、端末ベンダ、ネットワーク機器ベンダなど様々な業界関係の様々な内容の最新動向を一同に会した毎年開催されるこの催しで、今年の注目は、最新のスマートフォンもさることながら、やはりLTEに尽きていたと言っても過言ではない。中でも、毎月Xiをテーマに連載させて頂いている立場からも、ドコモの「通訳電話」は是非とも見たいと考えていた。LTEで実際の商用サービスとして提供された場合、LTEの特徴の一つである低遅延という利点を生かした、LTEらしいサービスであると言えるからだ。(実際のデモンストレーションは3Gの回線交換を用いていた様だが、LTEを念頭に置き開発していると想定される。)
▼図1:ワイヤレスジャパンで展示されていた「通訳電話」の概要(※画像をクリックして拡大)
最終日午後に訪問したのだが、同様の事を考える見学者の方が多かったのか、30-40分ほどの待ち時間を経て筆者への順番が回ってきた。展示では、スマートフォン上(XPERIA arcとGalaxy TABが用いられていた)の1アプリとしてインストールされており、翻訳の開始を端末に指示、端末に向かって話すとその場で内容が翻訳されて相手に翻訳された音声が伝わるというものだった。説明員の方のお話では、横須賀のドコモR&Dセンタと実際に結ばれ「通訳電話」のデモを行なっていた様子。
説明員の方が、日本語の新聞記事を読み上げ、英訳するというデモンステレーションを体験した。仕組みとしては、(1)音声発話後、(2)日本語で読み上げられた内容がサーバ上で日本語のテキストデータとして変換され、(3)当該日本語テキストデータがサーバ上で英訳、(4)英訳されたテキストデータを相手先へ音声で聞かせるというもの。(2)〜(3)の日本語音声→日本語テキスト→英語テキスト→英語音声という作業箇所がサーバ上の翻訳機能として提供されているというものであり、ドコモが昨今唱え始めた「ネットワーククラウド」を具現化したデモということのようだ。
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体験してみてまず思ったのが、3G回線を用いておりながら、2-3秒程度で上記(1)〜(4)の内容が実行され、音声で聞こえるほか同時にテキストでも見ることが出来るのは良いと感じた。体験前の期待では、リアルタイムの翻訳とは言いつつも10秒〜20秒程度の時間が掛かるのではないかと考えていたので、良い意味で期待を裏切るものであったと言える。3G回線で2-3秒程度の体感時間であった事を鑑みれば、LTEの利点である低遅延という環境下であれば、サーバでの処理能力に依存する所も大きかろうが、あと1-2秒は短縮できるのではないかと感じた。
一方、デモでは新聞を読み上げる形で行なわれていたのだが、新聞を読むという所に肝があったものと考える。つまり、新聞は当然文法的に常に正しい日本語で書かれており、誰が読んでも内容に解釈違いが生じないよう、主語や目的語などが明確に書かれており、曖昧さは排除されている。通常の日常会話であれば、そのようには行かないであろう。つまり、通訳精度の向上と曖昧さを読み取る解釈能力が実用化に向けた課題となろう。会場の説明員の方の話では、「通訳電話」は今後モニターを募り試験的にサービス提供し、多くのデータを集めて精度向上を図って行きたいとの事であったが、果たしてどこまで精度向上出来るのだろうか。
ドコモの顧客数は概ね6,000万程度。基本的に全ユーザが日本国内で利用しており、ほとんどの通話が日本語のみでなされているであろう。モニターを募集して精度向上に努めるようだが、サンプル数がどの程度集められるかによって向上できる精度にも限界があろう。
通訳電話の商用化は、今回のデモンストレーションの延長線上で考えられ、且つ、ドコモのサービスとして提供する事が前提のようだが、果たしてそれで本当に良いものが提供できるのだろうか。無論、今回のデモンストレーションでは、LTEにより実現するサービスの一端を紹介することに目的があったとするならば非常に好例であるし、通信事業者として唯一無二の研究・開発組織を有するドコモの責務として、新たな需要を掘り起こすきっかけを提供する役目としては、十分であろう。
一方、インターネット上には多くの人が利用している、例えばGoogle翻訳を始めとした翻訳サイトがあり、これらは世界中のありとあらゆる人が多言語で利用しており、蓄積されているデータは相当数あろう、加えて、精度向上も日々図られている。ドコモ1社で集める事のできるサンプル数とは比較にならないほどのサンプルがインターネット上にあることは容易に想像できる話だ。インターネット上のありとあらゆるデータを活用していく意思を今回のデモでは一切感じなかったので、そこに少し疑問を持った次第だ。
▼図2:クラウドを利用したコミュニケーション進化の事例(※画像をクリックして拡大)
無論、ドコモのサービスとして提供する事でユーザの囲い込み、他社との差別化を図る事は競争上重要だし、情報漏えいなどセキュリティ上も安全性を高める事は可能であろう。加えて、精度の高い辞書であれば、辞書データや翻訳データを買ってくれば十分であるかもしれない。
しかし、「クラウド」と言いながら、あまりインターネット的な発想を感じる事が出来なかったのはやや残念であった。今回の「通訳電話」の例を一つとっても、通信事業者として、クラウドサービスに取り組む際、どこまでインターネット上の数多あるデータを活用していくかというのは、課題となるかもしれない。
文・梶本 浩平(金融機関にてアナリストとして通信セクターを担当)
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