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「3.11」で強化、携帯電話キャリアーの停電・節電対策 [後編]技術革新で着実に省エネ化、太陽光の活用も視野に

2011.07.25

Updated by Naohisa Iwamoto on July 25, 2011, 15:30 pm UTC

7月1日に始まった電気事業法第27条による電力の利用制限。企業の活動だけでなく、個人の生活にも大きな影響を及ぼしている。携帯電話などの通信サービスを提供している事業者にとっても節電は大きな課題となる。なぜなら、通信には電気が必需品だからだ。サービスは止められないが、節電は実施しなければならないというジレンマの中で、携帯電話事業者はどのように対策を施しているのだろうか。前編の停電対策に続いて、後編ではキャリアーの節電対策をひも解いていく。

基地局が電力消費の3分の2を占める

経済産業省は、電気事業法に基づいて『東京電力及び東北電力並びにその供給区域内で供給している特定規模電気事業者と直接、需給契約を締結している大口需要家(契約電力500kW 以上)』を対象として、原則『「昨年の上記期間・時間帯における使用最大電力の値(1時間単位)」の15%削減した値を使用電力の上限とする』電力使用制限令を発動した。通信事業者はサービスの提供に電力を必要とする。事業所単位での節電が求められる中、複数の事業所が共同したグループ内で15%の節電を達成する「共同使用制限スキーム」や、社会・経済活動に与える影響を最小化するために業種や業態で使用制限を緩める「制限緩和」などの施策があり、通信事業者の事業所が一律に15%の使用制限となるわけではない。とは言え、大量の電力を使用する通信事業者の節電は必須だ。

携帯電話事業者も、オフィスでの節電や休日の振替などで節電を推進しているというニュース多く目にしてきた。それでは、実際のところ携帯電話サービスを提供する通信事業者の電力使用状況はどうなっているのだろうか。WirelessWire Newsが携帯電話事業者各社にインタビューしたところ、各設備での電力の使用割合はおよそ図1のようになることがわかった。

▼図1 携帯電話事業者が使う電力の設備ごとの割合(WirelessWire Newsの取材から独自に作成)
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その内訳はグラフの通りで、オフィスなどの設備での使用は10数%であり、残る8割以上の電力は通信設備が消費しているというのだ。通信設備のうちでも携帯電話端末と電波をやり取りする「基地局」がそのうちの8割程度、通信網を構成する「ネットワークノード」が残りの2割程度を使用しているようだ。全体の比率でみると、携帯電話事業者が使う電力の3分の2程度を基地局が消費している計算になる。

もしも、「基地局の半分を停止する」といった対策ができるのならば話は簡単で、すぐに30%クラスの節電が実行できる。しかし、そうはいかない。「この地域では携帯電話が通じません」や「昼間は携帯電話が使えません」というサービスの提供形態は、通信サービス--それもライフラインと直結した携帯電話--にはなじまない。「ずっとサービスを提供できる環境を整えなければならない」(NTTドコモのコアネットワーク部 コアネットワーク企画担当部長の三木睦丸氏)。その上で少しでも電力消費を抑える。これは各社とも口を揃える携帯電話事業者に課せられた命題なのだ。

通信サービスのインフラであるネットワークや基地局で即効性のある節電がしにくいことから、携帯電話事業者各社はこの夏の節電対策としてオフィスでの節電を大々的に打ち出さざるを得ない。ニュースなどでよく目にするのは、こうした事情からの苦肉の策だとも言える。「オフィスの節電で対処しないと節電目標を達成するのが難しい」(NTTドコモの三木氏)。NTTドコモでは、土日を出勤日として月火を休業する節電シフトも採り入れ、節電に対する。「ネットワークは止められないので、せめてオフィスで30%減らすなどの対策を施さないといけない」(ソフトバンクの広報室担当課長の伊東史博氏)。

そうした節電の効果は表れてきていると言う。KDDIでは「本社ビルでは25%以上削減を目標にしており、条件がいいと前年比で50%程度の節電になっている」(KDDIの技術企画本部 ネットワーク技術企画部 ネットワーク計画グループ 課長の石井邦典氏)。フロアごとに在宅勤務の時間を決めて午後は一斉に帰宅する、点灯している電灯を減らす、エレベーターを間引く、エアコンの設定温度を上げるといった努力が功を奏してきたようだ。

しかし、前述の使用割合を見れば一目瞭然なように、オフィスでの電力消費をゼロにできたとしてもようやく15%の削減に至るかどうかといったところ。実際にはオフィスは稼働し、通信サービスは平常通りに動かさざるを得ない。そうした状況下で携帯電話事業者は節電に手をこまねいているのかというと、そうではない。電力の多く消費する業態として、「3.11」以前から省エネやCO2削減といった切り口で、節電対策を講じてきている。

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既存の省エネ対策をさらに活用、機器の集約なども

ネットワークのノードとして稼動しているネットワークセンター機能を備えるビルは、これまでも節電や省電力化に取り組んできた。ネットワークセンターのビルとして首都圏で最も有名なのは、新宿南口に見えるとんがり屋根の塔のようなNTTドコモのタワーではないだろうか。地域ごとなどに設置したこうしたビルに、中枢のネットワーク機器を格納してノードとしての機能を果たしている。

▼NTTドコモ コアネットワーク部の三木睦丸担当部長
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このようなネットワークセンターのビルでは、「元々、電力を多く使わなくて済むように対策を進めてきた」(NTTドコモの三木氏)。KDDIでも「消費電力を少なくしようとする動きがあり、数カ年の計画で順次実行してきた」(KDDIの石井氏)という。逆に言うと、すでに絞り込んで来ている電力の消費量は、2011年夏の電力危機に直面したからといって急に減らせるものではなかった。これまでの施策が、そのまま節電対策のベースになっているのである。

例えばNTTドコモでは、ネットワークセンターのビルに「都市ガスでタービンを回して発電するとともに、排熱を空調に使う"コジェネレーションシステム"を導入するなどして省エネに努めてきた」(NTTドコモの三木氏)。また、電源装置や空調装置は、機器の更新タイミングで低消費電力の製品にリプレースするようにしているという。こうした取り組みを2008年から3カ年で実施している途中で、今回の節電への要請があったというタイミングだった。

KDDIでも同様に、「2009年から通信設備のスリム化を進めてきた」(KDDIの石井氏)という。「ネットワーク機器などの物理的な設備は、稼働していたら電力消費は大きくは変わらない。そこで、不要不急の試験用や検証用の設備を止めたり、通信機械室も含めてネットワークセンターの空調の設定温度を上げる設定にしたりすることで対処している」(KDDIの石井氏)という。より本質的な策としては、設備の集約がある。小分けしてあった設備を大容量の設備にまとめていくことで、機器の数を減らしたり、設置場所を減らしたりすることで省エネ対策を進める。石井氏は、これまでにも「2.4GHz帯域の設備4台を10GHz帯域の設備1台に置き換えて、機器の数を4分の1に減らすといった対策を実施している」と説明する。

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通信方式や冷却方式の改良で基地局も省エネ化

基地局の節電は、コアネットワークのノードビルでの節電にも増して効果がある。冒頭に見たように、携帯電話事業者が消費する電力の3分の2といった部分が基地局の消費によるものなのだ。

ここで大手携帯電話事業者3社が取り組んでいる、基地局の省エネ対策=節電対策を大きく3つに整理してみた(図2)。1つは技術革新によるエネルギー消費の減少、もう1つは省エネ型の基地局の設置、残る1つは太陽光などの再生可能エネルギーの利用--である。

▼図2 携帯電話基地局の節電に取り組む代表的な手法
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順を追って見ていこう。1番目の対策は、新しい通信技術の登場や機器の技術革新で、相対的に既存の設備よりも消費電力が減らせるというものだ。

例えば、無線で通信するときに電波を発生させるために増幅するアンプ。「電波を発生させるときに熱になってしまうエネルギーがたくさんある。アンプの変換効率を上げることで、熱になるエネルギーを減らし省エネにつながる」(NTTドコモのネットワーク部 ネットワーク企画部門担当部長の坪井 治氏)。具体的には、LTEサービス「Xi」用のアンプは、FOMA用のアンプに比べて大きく消費電力を抑えられるのだそうだ。Xi用に開発されたが、FOMA用にも使える。「このためある時期からXi用のアンプ部分をFOMAの基地局にも先行して導入して省エネ化を進めている。将来的にその基地局をXiに切り換えるときにも、アンプはそのまま使える」(NTTドコモの坪井氏)という。

アナログからデジタルになり、2Gから3Gそしてさらに次世代の通信方式になるにつれて「単位データ量の送受信に対する電力消費は、大幅に効率が良くなっている」(ソフトバンクの伊東氏)。1ビットを送るのに使う電力は、通信方式が新しくなることによって減少しているというのだ。一方、データ通信のトラフィックは急増している。各社ともデータのトラフィック増加に対応するように設備を増強しているのが現状で、必ずしも全体の消費電力は減少していないようだ。逆に言うと、技術革新がなければ膨大な消費電力の増加につながっているわけで、電力使用効率の高い通信方式へのシフトがあるからこそ消費電力の増加を一定の範囲にとどめてられていると考えられる。

省エネに貢献するのは通信技術だけではない。2つ目は、省エネ型の基地局の導入による節対策である。KDDIでは「小型で省エネ型の基地局の導入を大震災以前から進めている。無空調型の省エネ型基地局で、従来はシェルターに機器を入れてエアコンで冷やしていたのだが、装置を小型化してエアコンを不要にした」(KDDIの技術企画本部 モバイル技術企画部 企画グループ 課長補佐の和田修一氏)。

従来型の基地局の消費電力は、およそ半分がエアコンの空調で占められている。空調をなくすだけで、消費電力を半減させられるのだ。「さらに機器の節電効果も加わるので、省エネ型の基地局では従来型の半分以下に節電できる。このタイプの基地局をこれまでに9000局ほど導入してきた」(KDDIの和田氏)という。ただし、KDDIだけでも5万局以上ある屋外基地局をすべて省エネ型に置き換えるのは簡単でない。コスト負担が重くのしかかるため、新設する基地局や機器の更新のタイミングで順次対応していくことになる。この夏の節電対策として一気に導入を進めるというわけにはいかないのだ。

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再生可能エネルギーで商用電源使用を倹約

残る1つの基地局の節電対策は、太陽光などの再生可能エネルギーを使って発電し、基地局の使用電力をまかなうという発想である。

▼KDDI 技術企画本部の和田修一課長補佐
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KDDIでは、太陽光発電とリチウムイオンなどのバッテリー、深夜電力の3方式の電力を使った"トライブリッド電力制御方式"を採用した基地局を、トライアルとして2009年から導入している。「すでに11局を設置しており、商用電源の利用とCO2の排出を2割以上削減できるという効果が認められている。これも省エネ側からの発想で進めてきた施策だが、今後の節電対策にもつながる」(KDDIの和田氏)という。

さらに、前述したように消費電力を半減させられる省エネ型の基地局を使えば、商用電源を使わずに太陽光だけでも基地局を稼動させられる可能性もあるとKDDIでは説明する。通信機器ベンダーのノキア シーメンス ネットワークスは、すでに太陽光などの再生可能エネルギーを使った基地局はグローバルで利用されていると言う(関連記事:次世代基地局は燃料電池や太陽光、風力もエネルギー源に活用)。これは実験レベルにとどまる対策ではないのだ。

NTTドコモも、太陽光発電設備や風力発電設備などを備えた「グリーン基地局」を設置する。東日本大震災をきっかけにした対策で、2012年度に全国に約10カ所のグリーン基地局を整備する。その後の2013〜2015年には、電力の需給調整をIT技術を使って最適化するスマートグリッド(次世代送電網)の構築も視野に入れている。

ただし、太陽光発電はどんな基地局でも利用できる技術とはいえないようだ。発電するための太陽光パネルを設置するためのスペースが多く必要になる上、都心部の基地局のように大量の通信をこなすために電力を多く使用する場所にも向かない。「太陽光パネルやリチウムイオンバッテリーのコストが高いこともあり、すべての基地局を太陽光発電化することはできない」(KDDIの和田氏)というのが現状だ。

一方で太陽光などのエネルギー活用は、基地局の電力をまかなうだけにとどまらない可能性を持つ。KDDIはネットワークセンターの電力を、太陽光とバッテリー、深夜電力などを組み合わせたトライブリッド電力制御方式でまかなう検証を始めている。さらに、通信事業者が発電事業にも取り組む動きも出てきた。ソフトバンクグループは、自然エネルギーなどを使った発電事業を約款に取り込んだ。電力を使う側の立場から、供給する側に回る。NTTドコモも、グリーン基地局設置の一環として、基地局で発電した電力のうち余った分を売電することも視野に入れている。

元々の省エネやCO2削減の動きから大震災による節電を経て、通信事業者は自ら使う電気を減らすだけでなく、電気を生み出すところまで手を染めようとしている。携帯電話などの生活やビジネスに不可欠なサービスは、安定した電力の供給に立脚している。そうだとすれば、規模の大小や売電の是非はともかく、自前で電気を作って使うのは理にかなった方策の1つと考えられそうだ。

通信と電力

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。