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地方立地で消費電力を大幅削減、ユーザーのクラウド化も後押し

2011.07.26

Updated by Asako Itagaki on July 26, 2011, 12:30 pm UTC

東日本大震災の当日、「電話はダメでもインターネットはつながった」と言われていた。端末がインターネットにつながるその先にあるサービスを提供しているサーバー群は、データセンターに収容されている。ここが「落ちた」時には多くのサービスは止まってしまう。情報通信サービスだけでなく、電気、ガス、水道、鉄道といったライフライン、病院や役所などの公共サービス、金融、小売店など、ありとあらゆるサービスのインフラとなっているデータセンターもまた、現代のライフラインの一部であるといえるだろう。

データセンターにおける停電対策と、消費電力削減のための取り組みについて、データセンター事業者大手のさくらインターネットに取材した。今年秋に竣工予定の石狩データセンターの「節電効果」についても聞く。

非常時の電源はUPSと自家発電で確保

さくらインターネットのデータセンターは東京に4カ所・大阪に1カ所あり、5カ所合計で約2300ラックを設置、20数万ユーザーが利用している。東日本大震災の時には、同社のデータセンターは無傷だった。また、東京電力管内で3月に実施された計画停電時にも、同社のデータセンターがあるエリアは対象地域外となったため、影響はなかったという。

今回は出番がなかったが、もちろん停電対策は行っている。各データセンターに無停電電源装置(UPS)と自家発電機を設置しており、停電時には即座にUPSが起動する。5分から10分程度のUPS動作時間中に、自家発電機を起動し、給電元を移行して運転を継続することが可能。また、自家発電機を2台常設しているデータセンターもあり、万一片方が故障した場合も、発電を継続できる。

▼データセンター内に設置されている無停電電源装置(上)と自家発電機(下)(写真提供:さくらインターネット)
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一つの対応が、発電機の補修用部品と修理体制の確保だ。非常用自家発電機はあくまでも「非常時に一時的に電力を供給するため」のものであり長時間の連続使用は考慮されていない。そのため、大規模災害時に復旧が遅れた場合は、故障する可能性がある。必要な部品の輸送も難しくなる可能性を考え、補修用部品はあらかじめ確保するよう努めている。

また、非常用の発電機を用意しても、「いざというとき動かなかった」では話にならない。さくらインターネットでは、自家発電機については月1回の運転テストを行い、さらにUPSからの自動切り替えについては年1回の定期点検時に実際に動作させるテストを行っている。

また、回線についても、複数のISP・IXへの接続だけでなく、自社内ネットワークも多重化をはかって、一部の回線がダウンしても迂回できる接続を確保している。

▼さくらインターネットのネットワーク接続図(図版提供:さくらインターネット)
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節電対策は乾いた雑巾を絞るようなもの

そもそもデータセンターは、電気を非常に多く使う施設である。「電気の総容量は公開していませんが、ラック1台がだいたい一般家庭1軒分ぐらいの電力を消費します」(さくらインターネット 企画部広報宣伝チーム渋谷幸代氏)。データセンターで使用している電力の約半分が、サーバー・ストレージ・ネットワーク機器などのIT機器、35%が空調、残り15%が照明やUPS維持のための電源となっている。

▼さくらインターネット 企画部広報宣伝チーム 渋谷幸代氏
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そのような業種であるから、コスト削減と利益確保のために節電努力は常に行っている。その中での、経済産業省からの「東京電力管内の大口需要家は昨季最大使用電力から15%カット要請」は容易に対応できるものではない。

そのため、業界団体の日本データセンター協会では、経済産業省に対し、データセンターを緩和措置対象にすることを要請した。当初はデータセンターも例外なく削減対象であるとされていたが、社会的インフラとしての重要性や、電力使用変動が著しく低いことなどが理解され、最終的には緩和対象として加えられたという経緯がある。

そのような中で行われている節電対策といえば、使用していない実験・開発用機器の電源は切る、空調の温度をIT機器の動作に支障がない範囲で可能な限り高くするなど、どこの事業所でも行っているような地道な対策だ。「弊社では、実験用途のサーバーなどは、数ラックレベルで、電源を落としています」(渋谷氏)

他にも、仮想化によるサーバーの集約や、古いIT機器は消費電力が多いので、新しい省電力タイプへの置き換えを順次進めることで、消費電力の削減をはかっている。

また、同社では、東京から大阪に数百台のサーバーを移設する計画を立てた。元々12月には池袋データセンターを廃止する予定だったのを、節電対策のために前倒しで移転を実施することにしたのだ。その後、関西電力からも節電要請が出たが、移設は計画通り行う予定だ。

こうした努力をしても、節電効果は「おそらく数%で、10%には届かないと思われますが、引き続き節電のためのあらゆる施策を検討・実施してゆく予定です」(渋谷氏)とのことだ。24時間365日の安定稼働が求められるデータセンターでは、日頃の節電努力にさらに上積みを求められるのはまさに乾いた雑巾を絞るようなものであるのだろう。

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来年以降の節電対策の切り札になる石狩データセンター計画

さくらインターネットといえば、自社保有のデータセンターを北海道・石狩市に建設することが話題となった。札幌から車で30分の位置にある石狩湾新港地域に、東京ドーム1個分の土地を確保し、全8棟の分棟式データセンターを建設する。2011年3月10日に起工式を行い、2011年秋に2棟が竣工予定である。

▼建設中の石狩データセンター(上)と、完成イメージ(下)(図版提供:さくらインターネット)
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1棟あたり500ラック収納可能なので、8棟すべてが完成すれば4000ラックと、現在の同社データセンター全ての規模を合計したよりも大規模になる。将来的にはクラウドサービスとホスティングサービスは全て石狩データセンターに集約し、東京や大阪の都市型データセンターにはハウジングサービスだけを残す予定だ。

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石狩を選んだ理由は、地震や津波のリスクが低いこと、土地が広く、拡張性が高いこと、寒冷地であり外気空調を取り入れることで空調コストが下げられることが大きな理由である。

石狩データセンターの空調は、春〜秋は外の涼しい空気を利用した冷房、冬はサーバーの排熱と低温の外気を混合し、適温にした冷却風をサーバルームに送る。また、建物全体ではなく、100ラック毎に区切って空調を調整できるので、無駄がなくなる。試算では、空調コストは従来型立地(都市エリア)の6割にまで圧縮できる。郊外に立地することで土地、建物などのコストも安くなるため、データセンターの運用コストは東京23区内に賃貸施設を借りた場合の半分以下になるという。

▼石狩データセンターの節電効果(上)。外気空調を利用することで従来型モデルの6割にまで消費電力量を圧縮できる。都市型立地に比べた運用コストは半分以下になる(下)が、コスト削減効果は電力費の圧縮によるものが大きい。(図版提供:さくらインターネット)
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サーバーへの給電にHVDCを採用してさらに省電力

また、サーバーへの給電には、300Vを超える高電圧直流を集中電源で12Vに降圧して直接給電する高電圧直流給電システム(HVDC 12V)を採用する。

従来のAC方式では受電設備でいったんUPSを通すために交流→直流→交流と2回変換が行われており、その後さらにサーバー内部の電源ユニットで、交流→直流の変換が再度行われていた。直流と交流の変換時には必ず電力損失が発生するため、電力の利用効率は70〜80%程度にとどまっていた。

HVDC 12V方式では、ACで受電したものを高電圧直流に変換した後そのままサーバーラックまで直流で電源供給を行い、サーバーラックで12Vまで降圧されてサーバーに給電される。交流→直流の変換が1回だけになるので電力損失を減らすことができ、電気利用効率は90%以上になると見込んでいる。HVDCを導入することで、消費電力量はさらに下がり、外気空調による効果とあわせると従来型立地のおよそ5割での運用が可能になると予測する。

▼高電圧直流給電方式では、交流・直流変換の回数が減るため、送電ロスが減少する。(図版提供・さくらインターネット)
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もちろん自然エネルギー導入も視野に入れている。「石狩地方は風力発電に適した地域ということで、石狩市では導入に積極的。また、冬の雪を活かした雪氷エネルギーの導入も可能性はあるので、3棟め以降では導入を検討しています」(渋谷氏)少しずつ時間差で建築していく分棟式のメリットを活かして、その時々で最新の技術を導入していく。

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データセンターの地方立地を可能にした顧客の意識変化

さくらインターネット以外にも、大手データセンター事業者が自社のデータセンターを地方に建設する事例は、IDCフロンティアが北九州データセンターを開設するなど、複数ある。こうした流れの背景には、土地代の安さや、地方自治体による誘致策もあるが、顧客の意識の変化が大きいという。

クラウド化の流れの中で、コンピューター資源に対するユーザーの意識は「所有するもの」から「利用するもの」へと変わってきている。レンタルサーバーサービスからデータセンター事業に参入したさくらインターネットでも、既に利用数はホスティングサービスがハウジングサービスを上回るところまできていた。さらに震災を経験することで「ユーザーの『手元にシステムやデータを置くよりは、クラウドを利用したり、データセンターに預けた方が安全』という意識の浸透が加速したかもしれません」と渋谷氏は推測する。

ハウジングサービスは、性質上、顧客の事業所とサーバーが近くにある必要があるが、ホスティングやクラウドサービスでは物理的なサーバーはどこにあってもよい。「所有から利用へ」のクラウド化の流れに後押しされたデータセンターの地方立地は、節電という観点からも理にかなっているといえる。

データセンター事業者にとって節電は電力不足への対応にとどまらず、コストカットに直結する日常的な課題である。現在稼働しているデータセンターの地道な節電努力と、今後建設されるデータセンターに導入される新たな節電技術によって、節電への取り組みは進められている。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。