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「つながらない電話の、一体どこがインフラなんですか」

2011.09.12

Updated by Tatsuya Kurosaka on September 12, 2011, 15:00 pm JST

震災からしばらく経ったある日。ちょっとした雑談でケータイの話になった際に、自宅は丸ごと津波に流され、ご家族とご自身の命だけしか残らなかったという被災者の方から、ゆっくりと落ち着いた声で、そう指摘された。

▼防潮堤が丸ごとなぎ倒され、集落はほぼ壊滅し、1ヶ月が経過しても手つかずの状態。(2011/04/20 岩手県釜石市郊外 クロサカタツヤ氏撮影)
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東日本大震災の発生直後から、訳あって被災地に通うようになった。関わったことは多岐にわたるのだが、通信産業のお手伝いを生業とする人間としては、震災直後から今日に至るまで、通信やメディアがどのように役立ったのかを知りたいと思っていた。

その話を聞いた時、すでにケータイは概ね復旧していて、私が東京にいる時もケータイでやりとりをしていた。むしろ固定網の復旧が遅れており、固定電話はもちろんネットもろくに使えない状態で、ケータイは案外タフで役に立つ、という先入観が形成されかかっていた。

しかし声の主によれば、震災発生から少なくとも2-3週間は、ケータイはまったく使いものにならなかったようだ。その間、親戚の安否確認はもちろん、110番も119番もできなかった。避難所では身体の不調を訴える人も多く、不安どころかちょっとしたパニック状態だったという。

「行方不明になった家族が避難しているかもしれない」という風の噂を便りに、辛うじて残ったクルマとなけなしのガソリンで、隣町の避難所を訪れる途中にガス欠となり、今度は探しに行った本人が一時的に行方不明となる、というケースも、あちこちで発生したようだ。

こうした話をあちこちで耳にするようになって、東京で報じられている「ケータイが役に立った」とか「twitterが活躍した」というのとはまったく異なる現実が、そこにあることに気がついた。そして被災地における通信やメディアに対する印象は、総じて「不信」に近いものだった。

このギャップを直視し、問題の本質を見極めなければならない。そうでなければ、通信産業や情報メディア産業は、打ち手を致命的に間違えることになる。それは2万人を超える人たちが亡くなった、この未曾有の災害の経験を、すべて無駄にするということでもある。

もちろん、問われるべきすべての問題を、正面から受け止められるのかは、十分に議論を尽くさねばならない。しかし被災地の現実を看過したままでは、何をどう受け止めなければならないのか、議論や判断ができるはずもない。

そしてそれは、反省のためだけのものではないはずだ。むしろそこで得られた教訓や議論の結果を踏まえることで、広い意味での「ビジネス・チャンス」を見つけられるだろう。ビジネスという言葉には違和感を覚える向きもあろうが、震災の教訓を踏まえたインフラやサービスは、そこにビジネス・マインドがなければ、最終的には定着しないはずだ。

この国に生きる人間である以上、自然災害とは必ず向き合わなければならない。本稿を執筆するいまこの時も、台風の甚大な被害で多くの犠牲者が苦しんでいる。通信やメディアに自らの身の安全を委ねられるのか、という命題を明らかにするためにも、震災から半年が経ったこのタイミングから、改めて検証をはじめたい。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。