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医療情報システムのブレイクスルーには「個人のインテリジェント化」が必要

2011.11.28

Updated by Asako Itagaki on November 28, 2011, 16:00 pm JST

電子カルテをはじめとする医療情報の取扱いについては、さまざまな法的制約がある。対象が「健康情報」という究極の個人情報であることを考えるといたし方ない部分もあるが、それが医療情報活用のための情報共有やクラウド活用を阻む壁となっているのもまた事実である。

医師の立場から見た医療情報のクラウド化のメリットと課題について、医療の現場でIT化を長年手がけてきた、独立法人国立成育医療研究センター 情報管理部 情報解析室長 山野辺 裕二氏にお話しをうかがった。

201111281630-1.jpg山野辺 裕二 氏(やまのべ・ゆうじ)
国立成育医療研究センター 情報管理部 情報解析室長。医学博士、診療情報管理士。長崎大学医学部卒業、同大大学院医学研究科修了。愛知県立中央病院、国立佐賀病院、長崎大学病院にて形成外科医として勤務後、長崎大学病院医療情報室副室長。2003年から2004年まで、Mount Sinai Medical Centerにて客員研究員として病院情報システムの認証基盤の研究に携わり、2005年より現職。2008年に実施された電子カルテシステム更新をてがける。

開業医の方が小回りがきくIT化

──まず最初に、病院でのIT導入の現状について教えて下さい。

山野辺氏(以下敬称略):医療分野で一番最初にシステム化されたのは、血液検査やレセプト(診療報酬計算)ですね。1980年代後半から90年頃にかけてシステム化が進みました。その後、1999年頃から、徐々に電子カルテの導入がはじまっています。ここ(国立成育医療研究センター)で最初に電子カルテシステムを導入したのは2002年でした。

最近は、大病院では、無線LANを使って、患者さんのところまで情報端末を持っていき、その場で熱を測って記録してあげたりする、PoC(Point of Care)が流行です。うちは無線LANではなくて、有線LANをひいて、アームの先にタッチパネルをつけて、裏にはパソコンがあるようなものを使っています。

ソフトウェアの方は、ほとんどは病院用のパッケージを使用しています。電子カルテシステムは富士通・ソフトウェアサービス・NEC-CSI連合の大手三社で、7割以上のシェアではないかと思います。IBMが数%、日立は中小向けに主眼を移している感じがします。

──こちらの病院では、もう10年近くも使われていますから、先生方にもそんなに抵抗はないでしょうね。

山野辺:若い先生は抵抗なく受け止めていますが、年配の先生の中には、使えるといっても苦手な方もいらっしゃいますね。開業医の先生でも、お年を召した方には「私は絶対パソコンはやらない」とおっしゃる方もいらっしゃったりします。

──こちらのような大きい病院だと、多少歩みは遅くても入るときには規模の大きいシステムが入りますが、開業医の場合、IT化にはばらつきがあるという感じですか。

山野辺:IT化については開業医の方が小回りがききますから、タブレット導入などは開業医の方が進んでいるかもしれません。特に、在宅で患者を診ようとおもうと、病院の電子カルテシステムのように、病院にカルテがあればいいというわけにはいかない。結局モバイルじゃないとやっていけないわけです。在宅専門の病院というのはありませんが、在宅専門の開業医さんはいるので、そういうところはむしろモバイル主体になっています。

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ガイドラインに照らすと、グレーな運用がされている現場

──こういう(タブレットのような)端末を患者さんのところに持っていって、検温や血圧測定をして、それを電子カルテシステムに送って記録する、という形になるんでしょうか。

山野辺:具体的にどうやっているのかということは、あまり誰もはっきりしたことは言わないんです。最終的には自分のクリニックにコンピューターがあって、そこに請求を入力して、レセプトを請求しているのは間違いないのですが、その前段階の、医師法で定められた「カルテ」が、はたして紙なのか、どのように記録されているのかははっきりとは分かりません。

あくまでこれは推測ですけど、法的にはグレーなことをやっているケースもあるかもしれない。結局はそのグレーなやり方が便利だし、正しいし、それでいいんだと個人的には思います。でも、厚労省におうかがいを立てるとダメだと言われるかもしれません。

──法的にはカルテのデータを保存する場所について、どのような取り決めになっているのでしょうか。

山野辺:医師法上の診療記録を保存する場所については、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン [PDF]」と、総務省の「ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン [PDF]」などがセットで適用されます。

基本的には自前でサーバーを立てなくてはいけなかったんですが、2010年2月に業者のサーバーに診療記録情報を預けてもよいというところまで規制緩和されました(参考情報 [PDF])。それ以前は、外部に預ける場合は、医療関係団体に限るという制約があって、例えば我々の病院がよそのクリニックのカルテを預かったり、医師会がデータセンターを運営するのはいいんですが、民間のデータセンター事業者にはデータを預けられませんでした。

それが2010年2月に規制緩和されたのですが、「日本の法律が及ぶ範囲」にサーバーがなくてはいけないので、「日本にデータセンターがある」と明確に言っている事業者でないとだめなんです。国内業者を別にすると、私の記憶では、セールスフォースとアマゾンぐらいしか選択肢がないですね。厳密に言えば、できるのはそこまでです。

──そういうところに電子カルテのデータをあげるシステムは病院に入り始めてるんでしょうか?

山野辺:クラウド型の病院用の電子カルテについては、NECがパイロットで商品化したばかりです(小規模病院向け SaaS型電子カルテサービス「MegaOakSR」)。富士通は病院間で地域連携するシステムをクラウドでやる(HumanBridge)という発表をしましたが、まだはじまったばかりです。

開業医ではGoogleやDropboxなども使われているかもしれませんが、先に言ったような理由で実態ははっきりとはわかりません。表に出ているものとしては、サイボウズLiveというASPサービスはデータセンターが日本だと明言されていまして、使用しているチームの事例もネットを検索するといろいろと出てきます(参考事例:地域医療における「患者を中心とした情報共有」をサイボウズLiveで実現)。ただし、彼らもサイボウズLive上のデータは、申し送りであり、メモ書きであり、カルテではないと言っているはずです。やはりガイドラインがあるので、無料のグループウェアサービスにカルテをあずけるというのはグレーなんですね。

──ガイドライン中で、インターネットを通してデータをやりとりするのはダメだと書かれているわけではないんですね。

山野辺:電子メールみたいな平文での通信でOKとは言っていないですが、ちゃんと暗号化やVPNを使用するなどの対策をした上で、自己責任で使用することについては問題ないはずです。国が認めている「レセプトオンライン」もIPsec/IKEで暗号化してインターネット経由で通信しています。サイボウズLiveはHTTPSを使っていますから、それでもいいんじゃないかと思うんですけどね。

──電子カルテシステムのクラウド化について、山野辺先生ご自身はどうお考えでしょう。

山野辺:クラウドは楽ですよね。困るといったら故障時の対応ぐらいですし。我々の病院でも、機会があれば無理のない範囲で移行していきたいと思っています。

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個人端末の接続が鍵になる

──ちなみに、今、成育医療研究センターにはどのくらいの数のサーバーとパソコンが入っているんですか?

山野辺:現在、院内に約100台のサーバーがあって、リース料と維持コストで年間9億円のコストがかかっています。端末の方は、電子カルテ用のパソコンが1400台、これはベッドサイドに置いているタッチパネル型の端末も含みます。あと、事務用のパソコンが200台台、他に、検査器械などについているようなものもいれると全部で1700台ぐらいですね。

他の病院ではこれほどたくさんはないと思います。例えば、うちだとベッドサイドに端末を据え付けているので、50床の病床があれば50台の端末があるわけですが、通常であれば50床を8人の看護師が見ていれば、端末は8台と、あとはナースステーションに何台かですませるわけです。

──端末を看護師が持つのではなく、ベッドサイドに置くことで、患者さんが自分の検査の結果などを自分で見られるわけですよね。そのメリットはどういうことなのでしょう。

山野辺:ベッドサイドにあることで、付き添いの方、うちの場合はほとんどの患者さんはお子様ですから、お母さんがご自分のお子さんの体温がどうなっているかとか、(診察を)横で見ていると記録が見られるからいいとか、薬が出ていると分かるからいいとか、安心できるというメリットはあるとおもいます。

では、こういうものを入れている病院が日本中にあるかというと、まだそれほどでもない。我々としては推進したいのですが、費用対効率が悪くてコストに見合わないという問題がありますので、そのうち絶滅するのではないかと思っています。うちも、次の2014年のシステム更新の時にはやめるかもしれません。

今ならスレート端末をアームに取り付けるのでしょうが、当時はタッチパネルにパソコンを壁に埋め込んで、アームに取り付けて、で、有線LANを配線して、1ベッドあたり50万円ぐらいかかりました。

──たしかに当時は高かったでしょうが、今同じことをやろうと思ったら、端末は例えばiPadを入れれば、安くなりますよね。

山野辺:パナソニックのタブレットパソコンが出た時にそういうのをやろうかという話もあったんです。でも、たしかに端末は安くはなっても、アームが結構高くて20万円ぐらいするんですが、それはあまり下がらない。だからといってアームをやめてその辺に置くと盗まれてしまいますから盗難対策も必要です。ということで、ちゃんと固定して、なおかつ常に充電されているように、と考えると、カスタム充電器を入れるのに結局何十万円もかかるでしょう。一番いいのは、民生用のを直接使うことなんですけどね。

──患者さんに端末を持ち込んでもらって、それで見るというわけにはいかないんですか。

山野辺:そうしたいんですけど、まだそこまではいってないです。そこに踏み込めるかどうかなんですが、管理側としては外部の端末をシステムに接続するのはいやがると思います。

でも私は、個人端末を使うのが鍵になると思います。日経産業新聞の調査結果で、医師の3割がスマートフォンを持っているといます。意外に少ないと思われるかもしれませんが、平均年齢が高いですから。かくいう私もこれ(INFOBAR)を買ったのは今年の8月です。それまでは普通のガラケーでした。でも早い人はiPhone 3台めとかいう人もいますけどね。

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今の電子カルテでは在宅ケアに対応できない

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──少し視点を変えて、患者さんがご自身の健康情報をITで管理していくような動きが出てきていると思うのですが、医療現場からはどのようにとらえていらっしゃいますか。

山野辺:だんだんそうなっていくんでしょう。2月に「ソーシャル社会が日本を変える(アスキー総合研究所編)」で書いたのですが、今は病院が管理しているカルテは、それぞれの患者さんがPHR(Personal Health Record)として管理するものになっていくと思います。

問題は、今の病院のカルテは、患者さんがデータを入力することを想定していないんです。例えば自分で患者さんが熱を測っても、それを自分で入力するようにはできていない。在宅医療になると、患者さんやご家族が主体にならざるを得ませんから、根本的なパラダイムシフトが必要になります。

例えば糖尿病の患者さんに「血糖値を毎日調べて下さい」とお願いして、1ヶ月後の検診日にノートに記録したものを渡されても扱いに困るんですね。ケータイに記録してクラウドにアップロードしておき、医師はそれをダウンロードするような仕組みがないと運用は難しいと思います。そういう点からも、カルテはクラウドにある方がいいんです。

今の日本の医療情報で最悪なのは、カルテと薬の情報の連携です。「医薬分業」が原則になって、連携そのものが法規で禁じられているので、病院の前にある薬局に、医者から処方箋をFAXで送ることすらできません。こうした現状は、患者さん主体でなくては打破できません。患者さんが処方箋をFAXで送るのは構わないので、患者さんが自分で処方箋をクラウドに上げるのはいいわけです。

今、京都のNPOが、診療明細書や薬の明細書に二次元バーコードを印刷して、パーソナルヘルス情報を読み取り、PHRとして管理できる仕組みを実験しています(地域共通診察券サービス)。こういう情報を医師や薬剤師が利用するには、患者さんに見せていただくしかない。紙に印刷してもらうとか、ケータイを持ってきて表示してもらうとか、あるいは二次元バーコードを持ってきてもらってこちらで読み取るとか、そういう遠回りな方法しか今はないですね。

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「医師のなりすまし」を防ぐ認証基盤が壁

──個人のケータイからはPHR管理システムとしても使えるし、医師の端末からはカルテとしても使えるような、医業専用のクラウドを作ろうという計画は、日本ではまだないんでしょうか。

山野辺:講演などで私が夢物語で言っているのは、患者さんから見るとPHR管理システムだけど、私がここからアクセスすると電子カルテになるような、そういうものが見えればいいなと。でも、実現するためには、アクセス権限の管理が難しいんです。医療クラウドを実現するには、業者が医師に対して「医師である」ということを認証しなくてはいけません。医師というのは国家資格ですから、これはつまり「私が医師である」という国の認証をする必要があるということです。

試験的な認証インフラとしては、既にHPKI(Health care PKI)というのがあって、「私が医師である」という電子証明書を作れるんですが、コストが高いんです。Microsoft LiveやYahoo IDが医師免許のIDと結びついて、Yahooが「私が医師である」ことを認識できるという仕組みができればいいんですが、民間の仕組みと国の仕組みを結びつけるのはハードルが高くて、落しどころとしてはサイボウズLiveになっているのが現状です。認証は全然甘いんですがお金はかからないし、実用にはなるんですね。

──海外の医療機関では、電子カルテデータはどのように扱われているのでしょう。

山野辺:聞いている話では、海外はずっとオープンで、国として医療従事者の認証システムがないとダメだなんてことは言わないです。クラウドベースでやっているという話はまだあまり聞きませんが、病院が、自院のサーバーを患者さんに公開している例は多いです。患者さんごとにポータルを提供していて、ログインすると検査値が見られたり、次の診察や検査の予約が取れる、あるいは地域で連携している医師を紹介するといった機能があります。

日本で病院のサーバーを外部から見られるような事例としては、患者さんが見られるものもないことはないんですが、うまくいっているのは、開業医さんに病院がカルテを見せるシステムです。患者さんが自分の近所の開業医さんのところに行くと、前日にちょっと離れた病院で受けた検査の結果がそこで分かる、というパターンです。それが今クラウドになりつつあるということですね。あとは説明用に開業医さんがiPadに画像を入れて患者さんに見せる、というようなものもあります。

──日本でなかなかすすまない理由は、やはり法的規制の問題が大きいのでしょうか。

山野辺:国の役人が及び腰なんですよ。彼らは最悪の事態を考えて、自分は責任をとりたくないのです。そこを打破しないと次の段階には行けないです。ソフトバンクの孫さん(孫正義社長)が「iPadを配れば日本の医療界は変わる」と言ってましたけど、100億円でiPadを配って、じゃあサーバーは誰が面倒を見るの?という話です。孫さんは「製薬会社がそのデータを二次利用してお金を払うから大丈夫」というようなことを言っていましたけど、そんなに甘くないのは歴史が証明しています。

データをためる仕組みとか、認証基盤一つとっても、考え出すととても実行できそうに思えないわけです。医師だと言い張っている人がなりすましでないことをどうやって証明するのか、とかね。どこまでのセキュリティをやるかが問題になります。

認証基盤としては、モバイルの方がやりやすい気がするんですよね。携帯電話は個人が持つものですから、端末を使っていること自体がその人であるという認証になります。私、いつも冗談半分ですけど、国民IDの代わりに携帯番号を配ればいいって言ってるんです。

医師免許の番号も携帯電話番号にひもづければ、番号管理は携帯電話会社がしてくれる。そこの認証基盤を携帯電話会社3、4社で管理してもらえば、なんの問題もないと思うんです。ただ、役所にはそこまでのブレークスルーをできる勇気がないですね。経産省はやるって言うかもしれないけど、厚労省はやらないでしょうね。

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規制が少ない患者主導のブレークスルーが近道

──おうかがいしていると、医師の場合は認証が課題になりますので、まずは患者が自分自身の情報を管理するという形で、クラウドやモバイルは使われていくということかなと思いました。

山野辺:私はそう使えると思います。そういうインテリジェント化された患者といいますか、情報武装した患者さんが増えてきて、先生のところの情報を全部下さいと言って電子カルテの写真を全部撮るような方がたくさん出てくれば、変わっていくでしょうね。

今は診療明細書という、病院に行ってどんな検査をした、どんな治療をしたということを細かく書いた明細を無料で出していますが、それをスキャンして貯めておくだけでも自分の医療の記録になるので、それをうまく活用できないかというのがあります。さきほど紹介した京都のNPOの例では、それを二次元バーコードにして、自分のPHRに入れてしまおうというものです。それをお医者さんに見せれば、私の病気はこうですよというのが分かる。そういうのが理想です。

パーソナルの方が規制が少ないので、そちらでブレークスルーするしかないのかなと個人的には思います。今後は、医療専用のMVNOで、診察券がわりにケータイを使うような、そういうサービスの実現も期待したいです。

──お医者様の立場からすると、病院の対応を待っていないで患者さんがどんどん要望を持ってきて欲しいという感じですか?

山野辺:患者さんからカルテをプリントアウトしてくれと言われれば、我々は当然、それにはこたえなくてはいけないのですが、今はそういう要望はめったにありません。なので、電子カルテシステムも、患者さんのためにプリントアウトする機能というのは非常に使いにくい。でも、そういう要望がどんどん増えて、「患者さんが自分の情報は自分で持つ」というサービスに対応できる病院が流行るようになれば、電子カルテシステムの機能もそちらの方向にバージョンアップします。たとえば二次元バーコード付の診療明細書を出すのが標準になるとか、そういう方向に業界が進んでいくといいと思います。

アメリカではMicrosoft HealthVaultとか、いくつかPHRのサービスがあるんですが、日本にはまだほとんどないです。せいぜいが、体重計とか血圧計の情報をクラウドに送るとかそういうものぐらいですが、そこからPHRの方向に広がっていくといいなと。次には血糖計、あとは薬の情報にも広がって欲しい。

薬の情報が流通するようになれば、薬の飲み忘れのアラートが薬局の情報と連動するとか、薬切れが近くなったら病院に行くようにお知らせをするとか、やれることはたくさんあります。

医師の立場からも、一番欲しいのは薬の情報です。患者さんがいらして、「別の病院から薬をもらっているけれども今日は持ってくるのを忘れた」と言われたら現状はお手上げで、検索してその人の服用している薬を調べる、そういうあたりまえのことすらできないわけです。お互いの医療機関のデータがあたりまえに見られる世界にならないと。

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2兆円のプロジェクトを20億円でやるのは難しい

201111281630-3.jpg山野辺:今の日本だと、別の医療機関のカルテや検査データは、紹介状と一緒に紙で来るんですが、本来ならカードを入れると引き出せるような形になっていて欲しいわけです。アメリカ以外の欧米、オランダとかカナダなどでは、国レベルでEHR(Electric Health Record)が整備されつつあるんです。
日本も本当は保険証なり、国民IDがあればIDカードをかざすと、データが来るというのが理想なんですが、なかなか難しいでしょうね。国民ID自体が何年も先延ばしになってます。2011年の予定が2015年になったそうですが、はたしてこの先どうなるのか。

OpenIDが入るところが医療のサービスをはじめてしまえば、本当はいいんですが、薬の通信販売であれだけもめましたから、やはり民間でそういうことに取り組むのはリスクが高いんでしょう。でも本当はやってもらうといいと思う。例えば、お薬手帳の記録を紙ではなくて電子的に渡すとYahooのポイントがたまる、というシステムを作れば、薬屋さんは紙を出さないですむ、患者さんはポイントが貯まる、Yahooは薬屋さんからお金がもらえる、というビジネスが考えられますよね。

──今、国の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が主導で進めている「どこでもMY病院」はどうですか。

山野辺:あれは、2兆円の予算がかかることを、20億円でやろうとしています。というのは、ナショナルEHRをやっているヨーロッパやカナダでは、国が2兆円投資してやろう、ということで今やっている。対して、「どこでもMY病院」は、20億円かけて実証実験をやればあとは民間がビジネスをやってくれるだろうという理屈なんですが、ちょっと見通しが甘いのではないかなというのが個人的な感想です。やるなら、もっと国が本腰入れてやるべきです。それが無理でお金をかけずにやるなら、Yahooとか楽天とか、民間の力を使えるように制度を考えるべきなんです。

業界から動かそうと思っても、薬のインターネット販売ですらあの騒ぎですから、病院と薬局をオンラインで結ぼうといっても、なかなか進まないでしょう。コンシューマー主導で、月額で少額を払うような形のサービスが実現できれば早いと思います。

携帯のアプリやサービスになっていれば、自分の健康管理のために月額300円ぐらい払う人はいますよね。脂肪や血圧が気になる方はちょっと高い烏龍茶を飲んだりするわけですから、そういう人達の受け皿になるサービスを作ってあげればいいんです。

──烏龍茶じゃなくて、情報で受け皿を作るということですね。

山野辺:まさにそういうコンセプトで「情報薬」という概念を提唱しておられるのが、札幌医大の辰巳治之先生です。薬を飲まなくても、適切な情報を適切な時期に与えることで、糖尿病とか肥満はコントロールできる、すなわち情報が薬になるという考え方です。

辰巳先生はまた「戦略的防衛医療構想」ということを言っておられて、センサーが患者さんのヘルス情報を常に記録して、病院に送ると、異常値をシステムが検知する。すると病院から「大丈夫ですか」というコールが来るという「0クリック 逆ナースコール」といったことも提唱しておられます。

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無線LAN以外の無線ソリューションに期待

──成育医療研究センターの次世代システムはどのようにするというプランはありますか?

山野辺:入れ替えは2013年から2014年になりますので、どうするかはこれから考えるところです。今まで日本の電子カルテを引っ張ってきたという自負はありますから、多少無理をしてでもクラウドに上げていくようにしたいのですが、独立行政法人になってお金もないので最低限のシステムを入れるという方針になるかもしれません。

あとは内線PHSを撲滅してFMCを導入し、呼び出しは個人の携帯にしたいと思っています。病院内で携帯はダメという印象がみなさんあると思いますが、今の携帯電話なら心電図をとっているところに携帯をくっつけるとかしなければ大丈夫です。アメリカでは院内どこでも、手術室でもERでもみんなiPhoneを持ち歩いてますよね。

そうやって個人の携帯をパーソナルとビジネスとうまく融合させることができれば、内線電話はいらなくなります。でも電話は設備系で、我々情報系での管轄ではないので、なかなか自由にならないのが悩みです。

あとはクラウドにいったときに電子カルテのサービスにどのくらいの帯域を使うかですね。光を使わないとダメでしょうか。病院内全体にWi-Fiを設置すると、それだけで何億円もかかってしまうので、できれば避けたい。じゃあ3G経由でやるかっていうとそれはちょっとレスポンスが出ないと思うので、LTEなみのスピードで接続できる無線ソリューションが欲しい。無線局さえあれば、その先は光でもなんでもいいんです。光ファイバー+フェムトセルとか、そういうものが使えるのかなど、今後はそういったことを勉強していきたいです。

──ありがとうございました。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。