6月のなかばに、アップル(Apple)の流動性資産(現金残高)と、スマートフォン分野の競合他社の企業価値(Enterprise Value:以下、EV)とを比較した記事を書いていたが、今回の話はその続編ーアップデートにあたるものである。
[アップルの流動性資産vs. 競合各社のEV/左:Q2末、右:Q3末/ 縦軸単位は10億ドル]
前回の分析から変更のあった点は次の通り:
6月時点ではアップルの流動性資産の合計額は、競合するスマートフォン・ベンダーのEVをあわせた金額の約53%に相当した。現在ではその割合が61%に高まっている。アップルは手元の資金を使って、サムスンを除くすべての主要なスマートフォンメーカーを買収することができ、しかも250億ドルものおつりがくる計算になる。
この分析は主にアカデミックなものだ。こうした買収が実際に起こると言っているわけではない。グーグルによるモトローラの買収で示されたように、支配権にはプレミアムが付くし、個別の買い手は市場全体の場合ほど「合理的」ではない。ただ、私がこの分析を通じて示したいのは、携帯電話(端末)業界全体がある種の危機的状況にある、ということだ。携帯電話機メーカー各社の企業価値は総崩れし、2つの大手ブランド(モトローラ、ソニーエリクソン)は別の会社に吸収されて、姿を消す可能性がある。
それと同時に、いまこの市場への新規参入をねらう各社のビジネスモデルは、先行組とはまったく異なるものだ。アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、バイドゥ(Baidu)、アリババ(Alibaba)はそれぞれ、携帯電話機自体の販売から利益を得るのではなく、非対称型のビジネスモデルを可能にする手段として価値を持つ端末もしくはプラットフォームを売り込もうとしている。また、アップル自体が売っているのは、ハードウェアに何かをプラスしたものであり、このハードウェアの上にのる付加価値の部分が増えている、との見方もできる。付加価値の部分が大きくなっているということは、ハードウェア自体のコモディティ化が起こっているということであり、つまりいまではスマートフォンのビジネスでさえ、価値の圧縮がかなり進んだ状態に達している、というふうにみえる。
そのいっぽうで市場全体の成長は続いている。以前に各社間の利益分配比率の変化について採り上げたことがあったが、あの結論で私は各ブランドが苦しんでいると記した。しかし株式市場の反応から判断すると、携帯電話機メーカー各社の置かれた状況はさらに悪化しているようだ。2012年には携帯電話機業界で不可避かつ劇的な変化が生じる可能性が高まっているようにみえる。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)
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