ISN公開セミナー「東日本大震災と自治体ICT」レポート【後編】

2012.01.25

Updated by Tatsuya Kurosaka on 1月 25, 2012, 17:00 pm JST

2011年11月25日に開催された公開セミナー「東日本大震災と自治体ICT」(主催:東日本大震災被災地自治体ICT担当連絡会(ISN))の模様を引き続きお伝えする。なお、プレゼンテーションで使用されたデータは、セミナーのウェブページにてすべて公開されているので、そちらも参照されたい。

前編はこちら

▼登壇者の自治体の所在地
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「オープンソースを活用して5日間で震災用の新システムを立ち上げた」多賀城市 田畑裕一氏

多賀城市からは、総務部総務課主幹兼情報化推進係長の田畑裕一氏が登壇し「震災時における情報化部署の役割」について語った。主にICT関連部門の現場担当者レベルで可能な、震災への備えや、被災時の行動についてまとめたものとなっている。

多賀城市総務部総務課主幹兼情報化推進係長 田畑裕一氏

多賀城市は仙台市の北部に位置し、海に面するのは300メートル足らずに過ぎないものの、海沿いの産業道路が走っているため、多くの自動車が津波に流されたという。市のICT関係の被害は、NTT基地局が被災したことで約5日間にわたってインターネット回線が不通となったほか、地区公民館や保育所でパソコンや証明書自動交付機などが流された。

多賀城市では震災直後にインターネットが使用不可能なったが、田畑氏は震災時こそ外部への情報発信が重要と考えた。「何が不足していて何が欲しいのか呼びかけられない。多賀城市が孤立してしまう状況」を避けるため、地震発生から5日間は仙台市内の個人宅へ出向き、パソコンや通信回線を借用することで多賀城市のウェブサイトを更新し続けた。これにより、現状を日本中に訴えることができ、多くの支援物資が届いた。この件によって多賀城市では非常時に通信回線の冗長化を重視し、衛星携帯電話や専用固定回線の導入を決めたという。

また、通信回線の断絶によって、市職員間での情報共有が遅れたため、結果的に住民に対しても情報提供に遅れが生じることになった。これを解消するために、幸いなことにケータイが早い段階で回復したため、個人所有のケータイのメールアドレスを収集し、本部での決定を一斉送信した。しかし、これは職員による手作業となるため、手間が掛かってしまう点が課題だという。

それに関連して、情報共有だけでなく、非常時の職員の安否確認システムの必要性も感じたという。「災害時は市民第一、職員は二の次となるが、職員あっての災害対応。したがって、素早い災害対応には職員の安否確認も重要になる」(田畑氏)と強調。

今回、多賀城市でICT関連の災害対応でもっとも大きな課題となったのが、被災者相談窓口の解説に際しての受付システムの導入だ。ひとりの市民が複数回、相談に訪れることが予想されるので、その内容を記録し継続的に対応することで市民が安心して相談できる様にするためだ。

「窓口開設を知ったのが、開始日の5日前になります。その時点で窓口で受付のためのシステムを用意して欲しい、何でもいいから考えてくれと無理を言われた。住民登録データにもとづき、避難場所や被災状況、支援金・義援金の新制と交付状況などを長期にわたり管理し、担当者間でデータ共有しつつ住民のプライバシーを保護するといったシステムが必要です。それを、この5日間でできることを検討したが、既存のシステムでは不十分だが、時間も費用もないことからオープンソースソフトウェアを活用することにしました」(田畑氏)

その結果、PHP、MySQL、Apache、Eclipseといったオープンソースを活用して、ブラウザベースの被災者管理システムを正味5日間で完成させた。初日から大きなトラブルもなく、現場からのリクエストには随時応え、カスタマイズを重ねていった。この結果、別のシステムで稼働している罹災証明発行システムや義援金管理システムなどのデータも取り込めるようになり、被災住民の「総合照会ツール」として現在でも利用され、窓口職員の負担軽減に役立っているという。

ある意味、このような力業の対応が可能となったのは、多賀城市が情報化部門で民間実務経験者を採用していたためだという。この人材と、非常時に利用することのできたサーバーがあったことで実現できた。そして、何でもかんでも削減して「安ければいい」ではなく、必要な部分には費用をかけることが重要だと指摘した。

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「液状化した役場からの搬出に協力してくれた業者に涙が出そうだった」福島県国見町 半澤一隆氏

続いて福島県国見町企画情報課主査の半澤一隆氏が登壇し、国見町のICTシステムの復旧について語った。

福島県国見町企画情報課主査 半澤一隆氏

国見町は津波による被害こそなかったものの、町役場庁舎が液状化によって使用不能となってしまった。このため、情報システムを含めて、町役場の全機能を庁内の観月台文化センターに移すこととなった。3月12日より事務機器やノートPC、またサーバー機器類の回収と移動を行い、18日より一部の業務を開始し、震災から2週間後の25日には全業務を文化センターにて再開できた。

国見町がこれだけ素早く、役場機能の移動と業務再開が可能だったのには、サーバー回収に際しての納入業者のサポートの他、初期避難時に職員のクライアントPCのバックアップデータを保管したNASを無事に持ち出せたことがある。これにより、サーバー、クライアントともハードウェアについては、震災前とほぼ同等の環境を維持することができたからだという。

また、小さな点では、震災により流通が滞りLANケーブルなどの資材が不足する中で、町役場内に敷設したLANケーブルを切断して回収し、役場の職員達が工具を用いて自らLANケーブルを自作することで、文化センター内への役場機能引っ越しに対応したことが上げられる。「臨時職員や女性職員に作り方を教え何百本と作ったので、国見町の職員の方は皆、LANケーブルが作れます(笑)」と半澤氏は胸を張る。

さらに復旧から復興に向けても積極的に取り組んだ。サーバーに関しては当初は文化センター内に設置していたが、5月13日は外部データセンターによるハウジングに移行し、11月にはクラウド化も完了した。ネットワークについては、光ファイバの断線が完全に復旧するのに3カ月を要した。このため、回線をバックアップするために、総務省の支援によって18GHz帯のFWA(固定無線アクセス)を導入することで、スピーディな復旧を実現した。

最後に半澤氏は、「今まで説明した内容も大切だが、僕が今回、痛感したのは人と人とのつながり。液状化した役場からサーバー機材の搬出に協力してくれた業者には、涙が出そうになるくらいうれしかった。人と人とのつながりを深めることが、かけがえのない財産になる」と講演を締め括った。

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「震災時に発生する業務をSaaS化して国が提供すべき」仙台市 今井建彦氏

最後に登壇したのは、仙台市総務企画局情報制作部三時謙情報政策課長の今井建彦氏。「東日本大震災における自治体の対応」と題して、仙台の被災と復興状況、およびその過程から、自治体復旧のためにあらかじめ準備しておくべき枠組みについて述べた。

仙台市総務企画局情報制作部三時謙情報政策課長 今井建彦氏

仙台市は、市街地こそ大きな被害はなかったが、湾岸部はかなり酷い状況で、内陸部に最大で5キロメートルまで津波が侵入している。津波以外にも地滑り被害が数多く発生しており、昭和30〜40年代に開発された造成地を中心に、約2千件にもなるという。

その中で情報システムについては、直後の停電によって多少の損害はあったものも、サーバーについては被害はなかったという。13日に電気が復旧してからは、サーバー機能を徐々に回復させていった。

ネットワークに関しては、仙台においても固定電話がつながりにくい状況が続いていた。また、インターネット接続も断線によって東京のIXから切断されてしまったため、仙台市のウェブサイトが外部から見えない状態となった。これは、東京のデータセンターに仮ウェブサーバーを設置することで対応した。

このように仙台市としては、システムに大きなトラブルが亡かったものの、周囲の自治体を見ていると、庁舎や情報システムそのものを失ったことにより、自治体としての機能を十分に発揮できない自治体が発生していることに気がついたという。さらに、罹災証明の発行や、避難所運営など震災時特有の行政事務が急増したことも上げられるという。

それに対して「自治体がなくなってしまうと、災害復旧ができないことになる。自治体の機能が失われたときに、迅速に復旧させるための枠組みを作っておく必要がある」と今井氏は考えているという。

自治体業務復旧のための枠組み整理にまず必要なのは、そのための訓練された人だ。さらに、それを支えるための情報システムも必要となる。これらを用意しておいて、いざというときに投入することで、素早い自治体機能の復旧が可能になる。さらに、自治体の規模が大きければ大きいほど、カバーするためのリソースも大きくなる。今井氏は「こういったものは一つの自治体が作るのではなく、国に支援をお願いしたい」という。

また、災害時の通信確保についても、ケータイの特定周波数を確保し、それに合わせて事業者間で共有可能な移動基地局を投入するといった、枠組みを作っておく必要があると提言した。

また、震災時に発生する業務は、ある程度、定形化できるもの多いため、マニュアル化することが可能だという。仙台市にもピーク時には他の自治体や国などから、延べ300人程度の応援職員が駆けつけた。しかし、そういった人たちは、仕事に慣れた頃に帰ってしまうため、業務効率が悪い。さらにどういった業務は、法律の改正によって修正も必要となるので、そういったフォローもしつつ、SaaS方式で国が自治体に公開することを要望したいという。

「地方自治情報センターでオープンソースソフトで用意しているが、例えば仙台なら100万人分のデータをインプットしなければならないと、サーバーを買ってきてソフトをインストールしデータを入れなければならない。しかし"買う"というのは自治体としてはやりにくい。そのため国に常設していただいて、自治体が利用する方がよい。そうすれば他の自治体からの支援にも行きやすくなる」(今井氏)

最後に、東日本大震災被災地自治体ICT担当連絡会(ISN)の発起人のひとりとして、ISNの活動の中で、こういった発表の場を今後も作っていきたいと、決意を述べて発表を終えた。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。

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