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ドコモとボンジョルノのシナジー効果

2012.05.21

Updated by Kazutaka Shimura on May 21, 2012, 07:00 am JST

NTTドコモがイタリアのモバイルコンテンツ配信プラットフォームのボンジョルノ・グループの株式2/3を公開買い付けすると発表した。ボンジョルノの筆頭株主は、20.4%を保有する創業者のMarco Del Rio氏、市場流通株式は71.4%である。ドコモの発表資料にある通り、創業者が買い付けに応じれば、ドコモの目指す買い付け数は達成可能である。また、ボンジョルノの第2位株主は、2006年1月に同社とアジア市場向けジョイント・ベンチャーを設立した三井物産で5.2%を保有している。ドコモのTOBに三井物産がどのような対応を取るのかは明らかではない。

ボンジョルノは、1999年に創業、2G時代にフィーチャーフォン向けのコンテンツ配信で成長した企業である。現在も80%近い売上がフィーチャーフォン向けサービスであり、スマートフォン向けのコンテンツ開発が遅れている。

また、サービスエリアは、ドコモの発表にもある通り、世界各国ではあるが、売上の70%は欧州が占めている。同社にとっていちばん手薄な地域はアジアである。アジア市場の売上はほぼオーストラリア市場からであり、中国などアジア各国には進出できていない。

現在、ボンジョルノはスマートフォン向けのビジネスとして、音楽配信、モバイル・ペイメント、ゲームを柱にしている。
なかでも、モバイルゲーム分野のモバイルギャンブルに期待をかけており、「Winga」ブランドでポーカー、ビンゴ、ルーレットなどを展開している。

また、「WingaTV」というテレビチャンネルも運営し、ルーレット番組を放送している。24時間ルーレットが廻り続け、最高3,000ユーロまで賭けられる。

▼Winga Tv canale 63 - presentazione Roulette Show

こうしたギャンブルビジネスは国毎に規制が違うがイタリアでは合法である。ボンジョルノのポーカーシェアはイタリアで8%だという。現在は、Winga TVとスマホの連動はなく、賭けはパソコンで行うようだが、同社はテレビについてもモバイル・ペイメント機能とギャンブル機能の連動も図る計画だ。

では、ドコモとボンジョルノにはどのようなシナジーがあるのだろうか。3Gが普及していない国やスマートフォン普及率が低いエリア向けのビジネスとして、フィーチャーフォン向けのコンテンツ展開が図れるだろう。たとえば、ドコモが出資するインドの「Tata」向けのコンテンツにボンジョルノのコンテンツを活用できる。

次に、ボンジョルノのコンテンツ開発力を活かせるだろう。ダム・パイプ化は通信キャリアの一番の課題であるが、カジュアルゲーム開発のノウハウを利用し、上位レイヤーへの参入は急務である。ボンジョルノが2007年に買収した英国iTouch社は日本のモバイルベンチャー企業だったフォーサイド社(現SmartEbook.com社)が2005年に買収、売却した企業である。その点で三井物産以外にもこうした日本企業のDNAが入っていたり、各国のキャリアとビジネスをしてきた経験から、通信キャリアのドコモにとっても馴染みやすい相手といえる。

ただ、両者には課題もある。スマートフォンのコンテンツビジネスは、キャリアとの垂直統合ではなく、オープンなプラットフォーム上で成立している。フェイスブックやその上で成長したジンガなど、国境を超え加入者を増やして現在のメガブランドになった。iモードへコンテンツを提供していたベンチャー企業が苦しんでいるとおり、ボンジョルノもビジネスモデルの転換に苦労している。つまり、コンテンツホルダーにとって、現在はキャリアとの繋がりは成功の絶対要因ではなくなっている。

ともかく、フィーチャーフォン時代のノウハウをスマートフォンで如何に発展できるかが今後の鍵となろう。

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志村 一隆(しむら・かずたか)

情報通信総合研究所主任研究員。1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号を取得。文系・理系に通じ、さらには国内外のメディア事情、コンテンツ産業に精通。著書に『ネットテレビの衝撃―20XX年のテレビビジネス』(東洋経済新報社)『明日のテレビ チャンネルが消える日』(朝日新書)がある。