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【WIRELESS JAPAN 2012】急速に成長するアジアのモバイル市場を各国のオペレーターが語る

2012.05.31

Updated by Asako Itagaki on May 31, 2012, 11:46 am JST

5月30日、ワイヤレスジャパン2012の基調講演では、「アジアの移動通信サービス、現状と将来像」と題したパネルディスカッションが行われた。登壇者はインド・Tata Teleservices(以下タタ)の大野弘司氏、韓国・KTのキム・ソクジュン氏、ベトナム・Nam Post and Telecommunications Group(以下VNPT)のトラン・ビン・プック氏、そして日本からはNTTドコモの辻村清行氏。モデレーターは、国際電気通信連合(ITU)の無線通信規則委員会(RRB)委員の伊藤泰彦氏。

各国の市場の現状

まず最初に、各国のモバイル市場について、短いプレゼンテーションが行われた。インド、韓国、ベトナムのプレゼンテーションを紹介する。

インド

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(タタ・大野氏によるプレゼンテーション要約)
モバイルの契約数は8億9000万、普及率は7割程度ということになっているが、プリペイド契約が一般的なことと、一人のユーザーが複数のSIMを持つのが常識になっているので、実際の普及率は70%には遠い。しかし、加入者数は数年以内にさらに3~4億伸びると予想している。契約数の伸びとともにARPUは下がっており、現在は月1.8ドル程度。

データ通信が収入に占める割合はおおよそ13~14%程度であるが、端末はドングル型が8割を占めており、SMSなども含んでいるため、「スマートフォンの通信」が占める割合は多くない。インドのチャレンジは、4つある。

・アフォーダビリティ。インドでは、交通、水道、電気、銀行なども含め、50%以上普及している生活インフラがない中で、携帯電話の70%は圧倒的である。加入者が増えるにつれARPUが下がっているが、サービス拡大には新しい加入者にも支払えるように、価格を抑える必要がある。

・周波数の逼迫。1社あたり4MHz~5MHz程度と非常に狭く、1加入者あたりに提供できる周波数ははるかに小さい。

・電波行政の方針変更による電波価格の高騰。2009年の3Gオークションでは2兆円が動いたが、2G周波数のライセンス更新に対しては、政府はさらに高い価格をつけている。

・政府の動きが不透明。電波割当てをめぐる不正が摘発されるなど、今後どのような方針になるかがはっきりしない。

とはいえ、加入者数の母数自体が9億と巨大であり、そのうち1割がスマートフォンになったとしても1億台のマーケットが生まれることになる。今後に期待したい。

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韓国

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(KT・キム氏によるプレゼンテーション要約)
韓国の携帯電話加入者の半数がスマートフォン。iPhoneの発売で急成長した。今年末には4分の3がスマートフォンになると予想している。データトラフィックが急増しており、2009年1月からの2011年12月までの2年で153倍となっている。

キャパシティの不足が課題となっており、KTではWi-Fi、WiMAX(WiBro)を使ったオフロードを進めている。Wi-Fiについては、自社の固定電話網を活用して、全国に20万カ所のアクセスポイントを展開している。

3Gについては、CCC(Cloud Communication Center)を導入。基地局をデジタル信号処理部と無線信号処理部を分離し、無線信号処理部を高密度に展開することで、少ない投資で10倍のキャパシティを確保した。さらにLTEは一気に全国展開し、セル境界の干渉を抑制するWARP技術を採用。CCCととLTEで周波数不足を解決する。

またオペレーターは、ネットワークだけでなく、クラウドも導入するだろう。ネットワークと、マーケットを用意して、コンテンツプロバイダ、アプリケーションプロバイダが育つエコシステム用意することが役割だと考える。ネットワークプロバイダから、コンテンツ、アプリなどを流通させる流通事業者になるべきだろう。

ベトナム

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(VNPT・プック氏によるプレゼンテーション要約)
ベトナムのモバイルオペレーターは6社あり、うち3社で95%を超えるシェアを占めている。2位のモビフォン、ビナフォンがVNTPグループ。2009年末に3Gを導入し、2011年に3%の普及率となっていたが、2012年5月時点では2倍以上の7%と急速に成長している。地域による差が大きく、都市部の方が普及率が高い。

3300万加入の端末のうち、10%程度が3G。用途としては、インターネットのブラウジングが多い。データトラフィックは年平均80%~100%増加している。

HSPA+を導入して21Mbpsの接続を提供する。また、都市部の密集地帯では、3Gのオフロードが課題。低価格のスマートフォンを導入すれば売れることは間違いないので導入していきたい。現在、スマートフォンの比率は8%だが、1年間で15%にしたい。

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サービスの形を決める要因はさまざま

▼左からタタ・大野氏、KT・キム氏、VNPT・プック氏、ドコモ・辻村氏
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後半では、まず、各地域のサービスについてディスカッションされた。特にとりあげられたのがモバイルマネーの可能性についてである。

タタの大野氏からは、インドで主流のプリペイド方式とモバイル送金は親和性が高く、特に銀行が普及していない中、送金ビジネスには大きな可能性があるとした。ただし阻害要因もあり、特に中央銀行と政府の規制が統一されていないこと、既得権益があるため自由なビジネスが難しいといった指摘がされた。

ドコモの辻村氏は、世界に他にない日本のおサイフケータイ普及率(60%の端末が搭載)には、改札にICカードを導入したJRの功績が大きいと述べた。日本のおサイフケータイのビジネスモデルは輸出できるとしながらも、国による法制度の違いなどに合わせたローカライゼーションが必要であるとした。

VNPTのプック氏は、ベトナムのモバイル市場はまだまだ多くを語れる状態ではないとしながらも、モバイルマネーは難しいのではないかと述べた。理由としては、ベトナムでは現金決済が主流であり、それ以外の決済方法はまだ受けいれられにくいということと、セキュリティ上の不安があることを挙げた。しかし、将来的には、日本のように、交通機関の改札などで利用される可能性は考えられるとした。

KTのキム氏は、韓国ではクレジットカードの普及率が高く、モバイルに対しても、「決済そのものをモバイルデバイスを使ってやりたい」「決済時の安全性を確保したい」という2つのニーズがあるとした。後者については、クレジットカードでの決済の都度携帯にメールを送信するサービスが以前から提供されている。「面倒なことは嫌がる国民性なので、携帯で全部すませられるモバイルペイメントのニーズは高い」として、今後の成長性に期待をよせた。

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周波数が「足りない」の意味もさまざま

また、もう一つの話題となったのが、周波数不足についてである。

タタの大野氏は、インドでは政府高官の不正による周波数割当てのキャンセルなど、混乱しており、今後の見通しが不透明で対策も難しいという。オペレーターとしては、国民の資源である周波数は、国家インフラとして整備し、正当な価格で配分するよう主張し、、ロビイング活動を行っている。オフロードについては、デリーなど都市部の一部ではWi-Fiによるオフロードをする計画はあるが、それ以前にとにかく「広い」国土に対応していくことで精一杯であるとした。

KTのキム氏は、周波数よりも多くのキャパシティを確保することが重要であるとして、CCCによるスモールセル化の取り組みを紹介した。とはいえ、キャパシティも周波数も増やせば増やしただけニーズは増えるので際限がなく、オークションなどで安く周波数を確保できることが必要だとした。LTEについては、3Gと異なり、周波数帯が30以上もあって国際的に統一されておらじ、国際ローミングができないのではないかという問題を指摘し、オークションなどの問題だけでなく、共通の周波数帯を作ることが必要なのではないかと問題提起した。

VNPTのプック氏は、現在のベトナムではそれほど周波数不足は問題になっていないとしながらも、輻輳を避けるために、データだけでも異なる方法にオフロードしていくための方策を考えたいとした。今後、スマートフォンが増えた時のために、3.5Gの周波数を確保し、2015年まではそちらでしのぎ、その後、LTEなどを含めた4Gに対応していくとした。

ドコモの辻村氏は、意外にも周波数については「楽観的」という見通しを示した。「携帯電話のサービスが始まったときからずっと周波数は足りないと言われ続けていたが、250MHz、400MHzの電波が足りないといわれて割り当てを開始した800MHzがいまやプラチナバンドと言われるようになっている。需要があれば新しい技術ができると信じて、サービスを磨いていくべきだと思っている」と述べた。モデレーターの伊藤氏も、次の周波数帯として4GHz帯なども考えられており、全くその点については同意するとした。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。