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サービス説明は無人野菜販売所並みにしろ!

2012.06.11

Updated by Mayumi Tanimoto on June 11, 2012, 08:00 am JST

今回より、ロンドンからモバイル・放送・ITを中心に、街の話題から欧州通信業界事情を書かせて頂く谷本と申します。

第一回目ということで、オリンピックがらみでロンドンにいらっしゃる方にも役に立ちそうなことを書いてみたいと思います。

ロンドンというのは欧州におけるニューヨークみたいな物でございまして、欧州的には欧州一の都会(一応)、都会であるから金も人も集まるという町でございます。かなり落ちぶれてはいますが、シティという金融街があり、欧州各国やロシアや中東から金を儲けたくてしょうがない方々がワラワラと湧いてくる所です。(しかし新大陸アメリカに比べたらやる気は300倍足りないことを言っておきましょう)

また、かつては七つの海を股にかけた大帝国であったイギリスは、今や落ちぶれ貴族のような国でありまして、なんとGDPの9%近くを観光で稼いでいる[英国政府観光庁]という、「城を見せ物にして何とか食べているド田舎の過疎村」のような国でもあります。

イギリス政府の官公庁は公式報告書[Overseas Visitors to Britain(PDF)]の中で「イギリス王室は人気がある観光名所である」(要するに見せ物だと言いたい)「観光客によると我が国は国全体が博物館ということである」(要するに古くぼろいといいたい)と言ってしまっております。

こんなイギリスではありますが、「金を稼ぎたい」「一目女王様に会いたいわ」「道行くイギリス人男子は007みたいなイケメンに違いないわ」「かっちょいい英語を身につけて俺もグローバル人材に!」という様々な思惑のある方々が集まってきます。2010年にはなんと2,900万人の外国人がイギリスに入国しました。[The Telegraph]日本の2010年の外国人入国者数は944万人ですから[法務省資料] 約三倍です。

これだけの人がやってくるので、イギリスには出張者や短期訪問者向けのサービスが色々ございます。その一つが、プリペイド携帯電話やプリペイドのSIMカードです。

海外に良く行かれる方であれば、外国ではプリペイド携帯電話が使われることが多いということをご存知だと思いますが、イギリスは欧州でも先進国の中でも、プリペイド携帯電話やプリペイドのSIMカードの入手が最も容易な国でありましょう。

入国審査の長さと厳しさで悪名の高いヒースロー空港の入国審査を出でて、まず目にするのは、なんとプリペイドのSIMカードの自販機であります。

飲料水用の自販機と同じ仕組みの簡素な自販機に、£10(£1=122円で約1220円)、£20(約2440円)というプリペイドのSIMカードが売っています。購入は現金でもクレジットカードでも可能です。カードを買って携帯電話に差し込めば、認証も何もなしでその場で携帯電話を使うことが可能です。料金には通話料金やデータ通信料金も含まれています。トップアップ(料金の追加)はその辺の銀行のATMでも可能ですし、インド人のおっちゃんがやっているタバコ屋、スーパーと、ありとあらゆる場所で可能です。

自販機にはかなり巨大な字で「SIMカード」と書いてあり、各カードの説明は料金、通話料(一分いくらやで)、メール送信料金(一通いくらやで)という恐ろしく簡素です。お金を払う所には「払え」しか書いてありません。ここまで簡素だと間違えようがありません。

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(いずれも2012年5月にヒースロー空港で谷本撮影)

まるで無人野菜販売所の料金箱並みの簡素さであります。

この簡素さに「なんぞこれ??」とひるむ方は少なくないと思われますが、この簡素さは、大英帝国数百年の英知と体験を踏まえた素晴らしき「ノウハウ」だとワタクシは断言したいわけです。

イギリスには不特定多数の人がやってきます。やってくる外国人の数は前述のように日本の三倍であります。イギリス人は働くのが嫌いです。その辺でビールを飲んで揚げ物を食べてソファで寝ていたいとか、鼻を掘っていたいとか、ブラックサバスでも聞いて世界の終わりに付いて憂いたい、と考えています。労働の優先順位が鼻くそ以下な訳です。

労働を少なくするにはどうしたらいいか?それは極力説明や機械を単純化し、どんな人でもわかる仕組みを作ることなのであります。

不特定多数の人や英語がわからない外国人は複雑な物はわかりませんから、「説明は一行だけ」「押すボタンは一個だけ」「金を入れる箱は一個だけ」という風にすると、説明も何もいらない上、機械も単純なら修理も簡単なので楽じゃ、というわけです。単純なら「おら!!意味が分からないんじゃこのタワケが!!!!」と激怒するお客様もいらっしゃらないというわけです。

イギリスは日本が「この春画買ったら母ちゃんにみつかったwwwww」とやっている頃に「おい、おめ〜ら、船で着いたぞ。おめ〜の王様はぶっ殺したぜ!今日からここ俺んちだからよ。おめ〜せっせと奴隷労働して稼げよ。稼がないとリンチな、リンチ!!俺の指令は聞けよ。このゴミがwwwww」とやっていた恐怖の海賊様であり、全世界の不特定多数の皆様に「俺様の指令を理解させる」というノウハウを何百年にもわたって磨いてきたお方達なのであります。

この「俺様の指令を理解させる」のノウハウがなければ、あれだけ膨大な植民地で、母語がことなる外国人を働かせることなど無理だったわけです。単純化すればするほど、母語や前提となる文化が違う人々にも命令を伝えることができます。

このノウハウが、プリペイドのSIMカードの自販機にも反映されているというわけです。

ちなみに筆者今年の五月に日本の実家に一時帰省して、アンロックされたiPadに日本の某社のプリペイドのデータ通信SIMカードを入れて使っておりました。

しかし、このまずプリペイドのデータ通信SIMカードがなかなか売っておらず、ネットで探してやっと入手。なにせ自販機で売っているイギリスの感覚です。次に入手した後も、認証方法はわけがわからず、大変な苦労をしたのであります。

これはワタクシの知的能力が甚だしく低いという理由もありますが、「わかりやすく説明しなくてもわかって当たり前」という考え方が、提供者側様の方にある気がしてなりません。

もちろんこの会社様のサービスは日本人のみ向けに設計されており、説明は日本語、本人認証には郵便を受け取るための住所が必要など、短期訪問の外国人が使うのはほぼ不可能という仕組みになっておりました。要するに「日本人以外はどうでもいいわ俺」と思っているわけです。

滞在中日本ではやたらと「グローバル人材」「クールジャパン」「国際化」等々の言葉を耳にしましたが、その前に、会社様やお役所様は「相手に伝わりやすい俺指令」のノウハウを、恐怖の海賊様より学んでも宜しいかなと思った次第であります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。