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エンジニアを「転職する気」にさせる方法 -採用のミスマッチを埋めるCodeIQ

2012.07.02

Updated by Asako Itagaki on July 2, 2012, 17:00 pm JST

CodeIQのトップページ。企業のエンジニアが名前と顔を出して出題している。
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6月18日、リクルートが、ITエンジニアのための実務スキル評価サービス「CodeIQ(コードアイキュー)」をオープンした。企業の第一線で働くITエンジニアからの出題に解答し、評価フィードバックを受けることで、自身のスキルがその企業から見てどの程度のものかを測定できるというものだ。また、出題者をうならせた解答者は、そのエンジニアとMeetupの機会が提供される。

挑戦するエンジニアにとっては、今の自分のスキルがどの程度社外で通用するのか知りたい、人脈を作りたいといったニーズにこたえてくれるサービスとして評判になり、TwitterやFacebookを通して拡散した。当初出題されていた6問のうち3問が1週間を待たずして60人(1問あたり20人の挑戦受付)からの応募を受けて解答を締切り、本稿執筆時点(6月27日)では、残りの問題も終了間近となっている。

では、サービスを利用するもう一方の、出題側の企業にとっては、どのようなメリットがあるのだろうか。このサービスはリクルートの新規事業提案制度(New RING)の2011年度受賞案件であり、当然、同社の基幹事業である「採用」を意識したサービスとなっている。本サービスの提案者である、リクルートHRプラットフォーム事業部 プロデューサー 三木 拓朗氏と、クリエイティブディレクター サカタカツミ氏にこのサービスの背景と狙いについてお話をうかがったところ、採用担当者の悩みと、エンジニア採用市場の構造的な「ミスマッチ」が見えてきた。

エンジニアの実態と乖離していた採用プロセス

──CodeIQのサービスは、挑戦者であるエンジニアにとっては、企業のエンジニアが出す具体的な問題を解いて、コードで実力を評価してもらえるということで、ベネフィットはとても分かりやすいです。では、出題する企業側のベネフィットとしてはどのようなことがあるのでしょうか。

サカタ氏(以下敬称略):まず大前提として、企業のエンジニア採用意欲は高いのですが、転職希望者が足りていないという実態があります。転職を希望して人材登録をしているような人材、我々は「転職顕在層」と呼んでいますが、その数が足りない上に、そうして流動している人材が、企業にとって欲しい人材とは限りません。

むしろ、積極的に転職したいと登録している人だけでなく、「何か良い条件があれば動いてもいいかな」と考えているような「転職潜在層」にもアプローチしたいというニーズが、常に企業側にはあります。そうしたニーズにこたえる方法として、LinkedInを使ったレジュメマッチングサービスの利用が増えていますが、もっと他にも方法があるのではないかという認識がありました。

さらに問題なのが、レジュメに書かれた経歴とエンジニアの実際のスキルに、ギャップが大きくなってきているという実態です。優秀なエンジニアは勉強会好きで、新しい言語やフレームワークを学んで常にスキルアップを図り、キャリアに活かしたいと思っています。しかし、レジュメというのは職務経歴しか書けないので、そうした「エンジニアが勉強して身につけたスキル」は分からないんです。

つまり、レジュメを中心にした従来の採用では、常に最新技術にキャッチアップしている、やる気があって優秀なエンジニアに、そもそも出会えない可能性が高くなっているのです。「まず問題を出して、コードを書いてもらう」ことで、そうした「レジュメで振り落とされてしまっている優秀な人材」を取り逃す可能性が低くなります。

また、企業がまず「問題を作る」時には必ず自社の業務上でよく発生する課題をとりあげることになるわけですから、挑戦者から見ると、何を求めている会社なのかがよく分かりますし、企業から見ても求人票に書いたことだけではなく、本当に欲しいスキルが何なのかを知ってもらえるメリットがあります。

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エンジニアの転職は「誘われ転職」

▼リクルートHRプラットフォーム事業部 プロデューサー 三木 拓朗氏(右)クリエイティブディレクター サカタカツミ氏(左)
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──CodeIQでは、採点後、企業側で会ってみたいと思ったエンジニアと実際に会う「Meetup」という仕掛けがあります。こちらについて教えて下さい。

サカタ:エンジニア採用の難しいところは、人事や採用の担当者には技術がよくわからないことなんです。エンジニアのニーズがわからないのでマッチングができない。で、どうなっているかというと、企業内のエンジニアが採用ミッションを持たされていて、「何人ぐらいアプローチして欲しい」といったことを言われているんです。昔の技術者採用でも、「人事にはよく分からないから事業部採用で何人採用しろ」みたいなミッションがありましたが、同じことです。

三木氏(以下敬称略):企業内にいるエンジニアは常に人事から「知り合いでいい人いない?」と聞かれているのですが、自分と仲の良いエンジニアになればなるほど紹介しにくくなるんです。

──え、どういうことですか。

三木:友人を紹介することって、個人にとってリスクが大きい行動なんです。もし会社とその友達とがうまくいかなかった場合、最悪、友情にひびがはいってしまうじゃないですか。一方、関係があまりに薄い人だと、実力のほどがわからないから、責任を持って紹介できない。その中間の人ってなかなかいないんですね。

また、エンジニア自身も、自分の今いる会社に満足していれば、転職を考える理由がないんです。会社からは大事にされているし、何となく今のままでいいのかなあという漠然とした不安はあるけれど、次に何をやりたいという目的がない。そこで、偶然知り合ったエンジニアが作っているサービスがおもしろそうだとか、一緒にプロジェクトをやりたいとか、この人のもとで学びたいとか、そういう出会いがあれば、転職を考えるきっかけになります。

サカタ:ここで大事なのは、Meetupは転職を前提とした面接ではなく、あくまでもエンジニア同士の「出会いの場」として提供しているということです。たとえば、「コードを見ると能力はありそうでも、会ってみたら相性がどうもよくない」といったことはよくあります。なので、まずはMeetupして、よさそうなら、はじめて企業のエンジニアから「一緒に働かない?」と誘ってみるわけです。

すると、誘われた方は、興味を持ち始めたところに、承認欲求を満たされて、元々転職する気がなかったとしても、「この人と働きたい」「この会社でなら働きたい」と背中を押されるかもしれない。我々は「誘われ転職」と呼んでいるんですが、CodeIQのMeetupは、こういう偶発的な転職を起こせる仕組みになるのではないかという狙いがあります。

──ソーシャルランチ的な出会いの場を提供するという発想に近いんでしょうか?

サカタ:ランチが採用につながるというのは、アメリカだとありますけど、日本ではなかなかそうはならないと思います。アメリカの場合は、採用を決めるのは事業部長やマネージャーですが、日本の場合は採用担当者というのがその手前にいます。ベンチャーやごく小さい会社であれば、現場と採用が近いので、ソーシャルランチがきっかけで採用、というのもあるかもしれませんが、大手では難しいでしょう。

日本の大企業だと、採用の予算は採用担当しか持っていないので、CodeIQも、実際に利用を決定されるのは採用担当部門です。でも中身は、エンジニアが前面に出て問題を出して候補者と接触する、従来の採用とソーシャルランチ採用の中間にあたるような仕組みです。採用ミッションを持たされているエンジニアの方が、ツールとして採用担当者に勧めていただければと思います。

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レジュメを減点主義から加点主義へ

──エンジニア採用は今後どうなっていくのでしょうか。

201207021700-4.jpgサカタ:適切な人材を採用するために多様化が求められていて、ソーシャル採用などのチャネルが今広がりつつあります。CodeIQのようなスキル型採用も、手間がかかるけれども採用サービスの一つとして加わっていくでしょう。

CodeIQは、採用したい人材の"要件定義"がしやすいサービスでもあります。「エースエンジニアが、自分の右腕としてサポートしてくれる人を求めている」とか、「今の事業のこの仕事をやってくれる人の席があいているのでそこにはめたい」とか、そういう意図が問題の作り方に出てきます。出題してみて、ちょっと応募してくる人材が欲しい人材とは違うと思ったら、また違う問題を出題してみるというトライアンドエラーが行えます。

「大手企業、優良企業の出題だから挑戦者の枠が埋まっていく」というわけではないんですね。挑戦者が見ているのは求められるスキルと問題なので、どの企業にも、問題がおもしろければチャンスがありますし、エンジニアが口コミでバズらせてくれます。

採点にしても、単に問題を解けているだけではだめで、「コードが美しい」とか、「このコードは動かないけどレビュアーのことを考えて書かれている」とか、「センスがよさそうだ」とか、逆に「動くんだけど分かりにくくてこいつとは仕事がしにくそうだ」とか、挑戦者はエンジニアの言語である「コード」で語っているし、読む側も「コード」から何かを読み取っています。これは、新しい採用のあり方の一つだろうなと思います。

スタート時に出題をいただいたアイティメディアの人事担当の方は、今まで「リクルートは採用に使わない」とおっしゃっていたんですよ。それが今回、「利用したいサービスがやっと出てきた」と言って、4年ぶりに使っていただけました。

──おそらく今後、同様のサービスは中小のベンチャーから出てくるんじゃないですか?特に若い学生はこういうサービスが好きそうですし、立ち上げのパワーもありそうです。

201207021700-3.jpg三木:出てくるでしょうね。でも、このサービスをリクルートが先手を打ってやったということに意味があると私は思います。私自身がリクルートに入社した動機が、自分がフランス留学から帰国して就職活動をした時に、日本の理系就職者の社会的地位の低さに驚いて、現状を変えたいと思ったことでした。今の日本の転職・採用のあり方はリクルートが作ってきたものだから、リクルートが変えるべきだと思っています。

今の採用って、レジュメは減点主義なんです。たくさん職歴があると、一つの場所に落ち着いていないということで、低く評価される。そうではなくて、良いリファレンスをたくさんもらうことで加点評価されるように、エンジニアの見られ方を変えていきたいと思っています。

CodeIQでは、問題を解いたとか、採点されてこう評価をされたというのは、解答者がTwitterやFacebookで自由にシェアしてもらえる仕掛けにしています。7月に入ったら、最初の問題の採点とフィードバックが挑戦者に戻されるので、結果はシェアされると思います。7月2日には新しい問題も追加されますので、するとまたエンジニアの間ではバズるのではないでしょうか。才能があるエンジニアは良い評価をもらい、それがシェアされることで、確実にチャンスが広がります。そしてまたMeetupで会った感想を他の参加者からももらうことで、エンジニア個人のブランディングにもなります。

特にエンジニアの場合、エンジニアの多くが一つの会社に骨を埋める意識はないし、企業の側も「長く働いて欲しい」とは思っているけれど、「ずっといてくれる」とはあまり思っていないんですね。お互いどこかで、今いる場所はステップとして、いつか外に出ていくものだと考えている。そのきっかけは、面白いプロジェクトだったり、外にいるエンジニアの才能にひかれたり、といろいろあります。

エンジニアの流動性を高めることで、採用する企業も、採用されるエンジニアも、ハッピーで、おもしろくなっていくのではないかと思います。そのために、CodeIQを評価を積み重ねる場として、また、Meetupをゆるい繋がりをつくる場として、活用して欲しいと思います。

──ありがとうございました。

【関連情報】
CodeIQ
ITエンジニアのための実務スキル評価サービス『CodeIQ』6月18日(月)オープン!(報道発表資料)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。