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解約金訴訟の第一審判決:ドコモとKDDIの違い

2012.07.22

Updated by Asako Itagaki on July 22, 2012, 09:25 am JST

※(2012/11/23追記)ソフトバンクモバイルの解約金訴訟第一審判決についてはこちら

適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク(以下KCCN)がKDDIを相手取って起こした2年未満での携帯解約料の差し止めを求める訴訟について、2012年7月19日、京都地方裁判所で判決が言い渡された。判決の内容は、「携帯電話の解約金条項の一部は無効」であるとし、既に解約金を支払って解約した原告のうち、(契約締結月を1ヵ月めとして)23ヶ月め以降に解約した者に対してその一部を支払うようKDDIに命じるものである。

この訴訟は、2年間の契約を前提に携帯電話の基本使用料を半額に割り引く「誰でも割」の解約金を対象としたもの。KDDIは「本件については既に判決文を入手しており、慎重に内容を検討させていただいた上で、控訴する方向で検討しております」(広報部)とコメントしている。

一方のKCCN側では「KDDIが使用している解約時9,975円を支払う旨の契約条項の使用を差し止める旨の判決は極めて画期的だ。巨大企業が消費者を不当に囲い込むための不当条項の使用差止が認められたことは消費者団体訴訟制度の効能が効果的に発揮された事例といえる」(京都消費者契約ネットワーク事務局長 長野浩三氏)と評価しながらも、「解約後の逸失利益について事業者の損害として損害計算を行っている点は不当だ。個別消費者の請求が退けられた点、そもそも金額に関わらない解約金条項自体の使用差止が認められなかった点については不当なので控訴を検討する」(長野氏)としている。つまり、双方が控訴の意向を示していることから、本件については控訴審で再度争われることになる。

同様の料金プランは他キャリアからも提供されており、KCCNはNTTドコモおよびソフトバンクモバイルに対しても同様の訴訟を起こしている。対ドコモの訴訟では2012年4月、同じく京都地方裁判所において、NTTドコモの解約金条項を有効とし、原告の訴えを棄却する判決が出されている。「どうしてドコモは白でKDDIは黒なのか」と話題になっているが、両判決のどこが違ったのか、判決文を比較してみた。

なお、以下はKCCNのサイト上にPDFで公開されている「KDDI株式会社に対する解約違約金条項使用差止請求訴訟の第一審判決[PDF]」および「株式会社NTTドコモに対する携帯電話の解約違約金使用差止請求訴訟の第一審判決[PDF]」にもとづいている。内容についての法的解釈及びその是非については言及せず、あくまでも「判決文」の内容に沿って抜粋・要約したものである。詳細については、KCCNがサイト上で公開している判決文の原文(上記リンク先)を参照されたい。

結局、何が違ったのか

長くなるので結論を先に書くと、2つの判決で判断が異なっている点は以下の通り。

  • 「解約金条項は違約金もしくは解約に伴う損害賠償にあたるため、その金額が適切かどうかによって有効か無効かは決まる」という点では両判決は共通。ただし、その基準として算出された「平均的な損害」が、対KDDI判決では「割引プラン利用者の平均ARPUに基づき算出した『月あたり損害金額』に解約から契約満了までの期間を掛けたもの」であるのに対して、対ドコモ判決では「割引プラン利用者全体の平均割引額に中途解約者の契約締結から解約までの平均月数をかけたもの」となっている。
  • 結果、対KDDI判決では、「平均的な損害」は図の通り、契約期間が長くなるほど少ないことになり、契約月を1ヵ月目として23ヵ月め以降では9,975円よりも少なくなるため(図中赤字部分)、その部分は無効と判断された。
    ▼解約時期による平均的な損害の額
    20120722-kccn-1.png
  • 一方、対ドコモ判決では、契約期間にかかわらず「平均的な損害」は30,240円と認定され、これは9,975円を下回らないので、解約金条項は有効であると判断された。

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「平均的な損害」についての当事者の主張

2つの訴訟に共通して、訴えは大きく2点である。一つは、「解約金条項自体を無効であるとし、使用を差し止めること」もう一つは、「既に支払われた解約金について返金すること」である。一つめの訴えについては、両判決とも、「解約金条項が消費者契約法第9条、第10条により無効となるかどうか」について双方が主張し、裁判所が判断を下す流れとなっている。

最初の争点は、「そもそもこの解約金条項が消費者契約法第9条第1号により無効であるかどうか」である。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
(二以下省略)

消費者契約法より抜粋)

この点については、両判決とも、解約金条項は「契約期間内の中途解約時の損害賠償の予定または違約金についての条項」にあたるとしている。その場合は「契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの、当該超える部分」については無効であると定められているので、平均的な損害がいくらにあたるかを算出し、それが9,975円を超えていないかどうかを判断することになる。

KDDI、NTTドコモはいずれも「9,975円を超える損害が生じており、解約金として請求することは妥当である」と主張しているが、両社の主張する「平均的な損害」の内容は異なっている。

KDDIの主張

  • 「基本使用料金の累積割引額」「通信料収入の減少」の2つが損害として生じる
  • 累積割引額については、本件定期契約(筆者注:「誰でも割」プラン)を選択している利用者の月額割引額の平均は1,748円。中途解約者の契約から解約までの平均月数は11.59ヵ月であることから、1,748×11.59=20,259円の平均的な損害を被っている
  • 通信料収入の減少については、平成21年度における本件定期契約におけるARPUは5,624円である。契約から解約までの平均月数より、途中契約者の契約は予定の2年間に比べると12.41ヵ月短いため、5,624円×12.41=69,793円の収入減となる。
  • ただし、ARPUに占める各種コストの内訳としては、①請求コストやアクセスチャージなど、契約解除後には発生しないコスト、②契約締結時の代理店手数料や設備投資費、運用費用など、契約解除後にも支出を止められない、もしくは既に支出済みのもの の2種類があり、収入減少分から①と②をのぞいたものが③逸失利益である。
  • ARPUに占める①の割合は概ね15~20%程度。したがって、通信料収入の減少によって、69,793円から①をのぞき、55,834円ないし59,324円(筆者注:売り上げ減少額の80~85%)となる。

NTTドコモの主張

  • 2年間の定期契約が中途解約されることで、中途解約時までに割り引いた基本使用料および家族への国内無料等の割引分、中途解約がなかった場合の定期契約満了までの基本使用料・通話通信料、契約の締結及び解約のための費用等の損害を被る。
  • FOMAサービス契約の各プラン加入者数をもとに加重平均して算出した月額基本使用料は4,329円。割引率50%なので、基本使用料の割引は月額2,160円となる。
  • 中途解約者の契約締結から解約までの平均経過月数は14ヵ月。従って、中途解約者に対して割り引いた基本使用料の平均は2,160円×14=30,240円となる。
  • これだけでも9,975円を超えているので、9,975円が「平均的な損害」を超えるものであることは明らかである。
  • プランによらず一律の解約料金を設定したのは、分かりやすい、料金プランの変更を制限しないといった顧客利便性を考慮したものである。
  • また、サービスを提供するために設備投資費(顧客1人あたり2年間で26,110円(税別))、顧客維持獲得コスト(顧客1人あたり2年間で11,200円(税別)))、その他経費を支出している。これを料金収入から回収する必要があり、解約金の金額はこれを前提としたものである。

両社の主張を図にしてみた。「平均的な損害」の範囲はほぼ同じだが、具体的に金額を算出している範囲が異なっている。

▼「平均的な損害」算出方法についてのKDDI・NTTドコモの主張
20120722-kccn-2.png

これに対し、KCCNの主張は以下の通り。KDDIの場合とNTTドコモの場合で文言は厳密には異なるが、概ね同じ主張となっており、一言でいえば「9,975円は算出される『平均的な損害』の額を超えているので、消費者契約法第9条1号により無効とされる」というものである。

KCCNの主張

  • 50%割引といっても、その実体は他社との価格競争の結果価格を半額に設定せざるを得なかった実質価格であり、50%割引といいながら実際には競争可能な価格に2年拘束をつけただけのものである。したがって、表示価格を基準にした損害の算出は誤りである。(図中①)
  • 解約後の損害については、サービスを提供しなくてもよくなるのであるから、損害は生じない。損害に含まれると主張されている顧客獲得コストなどについては消費者に転化すべきものではない。設備投資については、個別契約ごとの出費ではなく顧客が解約したとしても別の顧客のためにそのまま有効活用できるものであり、個別の解約による損害とはならない。事業者の「平均的な損害」に逸失利益が含まれるのは、解約された契約が他の契約で代替・転用される可能性がない場合に限られる。携帯電話の契約は1人の顧客が解約したとしてもすぐに別の顧客の契約で代替して利益を得られるものであり、「平均的な損害」に含まれる逸失利益は存在しない。(図中②)
  • また、NTTドコモの「平均的な損害」の算出については、「解約までの契約期間によって生じる『平均的な損害』」が異なる(例:SSプランの顧客が1ヵ月めに解約した場合の割引額は1,890円であり、9,975円を大きく下回る)ため、顧客を総体としてとらえて「平均」とすべきではないとしている。(図中③)

▼「平均的な損害」算出方法についてのKCCNの主張
20120722-kccn-3.png

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裁判所の判断

両社の主張を受け、「平均的な損害」について、京都地裁はそれぞれ以下のように判断している。

KDDIの主張に対する判断

(基本的な考え方)

  • 消費者の解約に伴う損害賠償の範囲は、原則として契約が履行された場合に事業者が得られる利益の賠償である。
  • 「平均的な損害」といっても解約の事由、時期等によって損害に著しく差がある場合は、解約の事由や解約の時期ごとに事業者の損害を算定すべきである。
  • 本件の場合、平均的な損害の算定には、契約が期間満了までに継続していれば得られたであろう通信料収入等(解約による逸失利益)を基礎とすべき。

(金額の算定)

  • 算定方法としては、ARPUを基礎にして解約時から契約期間満了までの期間を乗じる方法により行うのが妥当である。ただし、解約により支出されなくなったコストについてはその額を控除する
  • 平成21年度、22年度、23年度のARPUの推移を考慮し、1ヵ月あたりの逸失利益は4,000円とし(筆者注:4,000円に決まるまでの詳細は判決文21ページ~22ページを参照)、これを解約時から契約期間満了時までの期間を乗じた額が、解約に伴い生じる平均的な損害とする。
  • この方法で算出する場合、解約時期の違いにより金額に大きな差が生じるため、解約時期を1ヵ月毎に区分して各区分毎に平均的な損害を算出すべきである。
  • また、KDDIが主張する「解約までの平均契約期間が11.59ヵ月」を基準とした平均損害額の主張については、解約期間は提示されている解約金の金額によっても変動するものであり、その意味でも平均解約期間をもって平均損害額を算出するのは適当ではない。
  • 以上によれば、本件の解約金条項中、契約日から22ヵ月目の末日までに解約された場合、解約金の支払い義務がある部分は有効だが、23ヵ月め以降については、「平均的な損害の額」が9,975円を下回るので、平均的な損害の額を超える部分は消費者契約法第9条第1号に該当し、無効である。

(契約中の割引額の扱い)

  • 解約前の割引金額に契約期間をかけることについては、①契約期間が長くなるほど損害額が大きくなることは不自然である ②通常価格を引き上げることによりいくらでも「平均的な損害額」を大きくできることになり、消費者契約法の趣旨に合わない ③平均的な損害額を算出する際には「解約に伴う逸失利益」を基準とすべきであり、割引料金による契約と通常料金による契約では異なる別個の契約なので、差額は逸失利益にはあたらない。

具体的には、23ヵ月めの解約では解約金は8,000円まで、24ヵ月めの解約では4,000円までしか認められないため、それを超える金額(それぞれ1,975円、5,975円)については無効ということになる。また、従って、解約金条項表示差し止めについても、現在の形式の表示は差し止めの対象となると判断されたが、期間を限定して一部無効となる範囲を明示した解約金条項の提示については差し止められないと判断されている。

NTTドコモの主張に対する判断

(「平均的」の扱い)

  • 消費者契約法第9条1号の規定は、事業者が消費者に請求できる損害賠償の総和を、実際の損害額の総和と一致させ、これ以上の請求を許さないことにあると解するべき。
  • ・上記を前提とするのであれば、「平均的な損害」の算出にあたっては、事業者が定めた条項を基礎とすべきである。この場合は、ドコモが「料金プラン・解約の時期を問わず、一律に契約期間末日に9,975円の支払い義務を課している」ので、「平均的な損害」についても、顧客を一体のものとみて算出すべきである。

(契約締結から中途解約までの損害について)

  • 標準基本料金と割引後基本料金の差については、標準基本料金を選んでいる顧客は負担なく契約解除できるという有利な条件での契約ができるのだから、「標準基本料金が実質的対価として機能していない」とはいえない。
  • 契約開始から中途解約までについては、割引額の累積額は「平均的な損害の算定」の基礎となる。

(中途解約から契約満了時までの損害について)

  • 中途解約時から契約満了時までについての「得られるべきだった収入」は、事業者にとっての履行利益であり、解約金条項と消費者契約法9条1号がいずれも存在しない場合、民法416条第1項に基づき個別消費者に対して賠償を請求できると考えられる。
  • しかし、その他の消費者の保護を目的とする法律との整合性を考えると、消費者契約法9条1号は「契約履行前に契約が解除された場合は、その契約によって他の消費者と契約ができなくなる場合を除き、履行利益を損害賠償として請求することは許さず、契約締結・履行に必要な額のみを請求を認める」ものである。(筆者注:詳しくは判決文41ページ~42ページにかけてを参照
  • 携帯電話の契約は、誰かと契約したら他の人と契約できなくなるというものではないので、中途解約からあとの履行利益は「平均的な損害の算定」の基礎にはできない。

(金額の算定)

  • 各料金プランごとの割引額の加重平均2,160円に、経過月数ごとの頻度なども考慮して加重平均で算出した解約までの平均月数14ヵ月をかけ、「平均的な損害」は30,240円であると認められる。
  • 解約金条項にもとづく支払い義務の9,975円はこれより小さく、消費者契約法第9条第1号には該当するとは言えない。

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まとめ

ここまで見てきた通り、解約金条項に対する有効性についての判断と「平均的な損害」を基準に条項の有効性を判定するところまでは2つの判決は共通している。ただし、2つの判決には以下の3点で判断の違いがあり、その結果、「平均的な損害」の算出方法が異なっている。

  • 標準の基本利用料と割引後の基本利用料の差を損害として認める(対NTTドコモ判決)か、認めない(対KDDI判決)か。
  • 契約解除後の逸失利益を損害として認める(対KDDI判決)か、認めない(対NTTドコモ判決)か。
  • 「平均的な損害」の算出は全ての利用者を一体として行うべき(対NTTドコモ判決)か、期間により大きく異なるという理由で契約期間別に行うべき(対KDDI判決)か。

▼「平均的な損害」に対する考え方の違い
20120722-kccn-4.png

なお、その他の争点については、両判決とも以下の通り判断している。

  • 契約更新時の解約金条項の無効について:契約更新といっても新たに2年間の契約を結びなおすのと同じことで、平均的な損害の算出についても同様に考えられるので、解約金条項の有効性についても同様である。
  • 消費者契約法第10条への該当について:解約金条項は一定期間解約に対して解約金がかかるということでたしかに消費者の権利を制限し、義務を加重しているが、2年間という期間は長すぎない、対価として「割引サービスを受けている」、(対KDDIで不適切であると判断された部分を除き)金額が適切である、という理由で、「消費者の利益を一方的に害する」とは言えないので無効ではない。

消費者契約法第10条の条文は以下の通り。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者契約法より抜粋)

二つめの訴えである「既に支払われた解約金に対する返金」については、対KDDI判決では解約金条項の一部が無効とされた「23ヵ月め、24ヵ月めの解約者」に対してKDDIが平均的な損害額との差額を返金するよう命じられた。また、対NTTドコモ判決では、解約金条項は有効とされたため、返金については棄却された。

KCCN事務局長の長野氏によれば、対ソフトバンクモバイル訴訟の判決は2013年3月頃の予定とのことである。その時にはどのような判決が出されるか、また今回の2つの判決に対して、上級審ではどのような見解が出されていくのか、注目する必要があるだろう。

【参照情報】
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク(KCCN)
消費者契約法(e-gov法令検索)
誰でも割(au)
 ※なお、誰でも割の契約期間について、2012年5月31日までは「手続き当月を1カ月目」としていたが、2012年6月1日から「加入日から翌月までを1カ月目」とするよう変更されている。
ひとりでも割50(NTTドコモ)
ファミ割MAX50(NTTドコモ)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。