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実名か匿名か

2012.10.27

Updated by Mayumi Tanimoto on October 27, 2012, 03:52 am JST

英語圏ではネットの掲示板やソーシャルネットに張り付いて、匿名もしくは実名で嫌がらせコメントを投稿したり、炎上させる人々のことを「トロール」と呼びます。

トロールとは北欧の国、特にノルウェーの伝承に登場する妖精の一種です。日本ではネットイナゴと呼ばれたりしますが、イギリスをはじめとする英語圏でも、ネットでの嫌がらせや炎上は大きな問題になっています。

先日、カナダのアマンダ・トッド(Amanda Todd)さんがトロールの虐めにより悩み、YouTubeに一部始終を告白する動画を投稿した後に自殺するという痛ましい事件がありましたが、この事件を契機に、英語圏では、インターネット上の匿名性と表現の自由を見直すべきではないか、という議論が起きています。

イギリスをはじめとする英語圏では、インターネット上の匿名性を「必ずしも良くないもの」とする見方が広がっています。事件を起こす匿名アカウントが犯罪に関わっていることが少ないこと、まともな主張であれば、別に実名アカウントで発信しても何ら問題がないためです。 Facebookなどの実名サービスの利用者が広がっているので、あえて匿名である必要がないのではないか、という人も増えています

イギリスではトロールに厳しい制裁を与えています。その根拠となるのは、2003年通信法第127項です。イギリス政府は「インターネット、電子メール、携帯電話による通話およびテキストメッセージを使用して、悪意のあるメッセージを送ってはならない」と定義しています。被害者がメッセージを実際に受け取ったかどうかは関係がありません。最高で禁固六ヶ月です。

イギリスではソーシャルネットへの有害なメッセージ投稿で2010年に初めての逮捕者がでます。

「ビッグブラザー」という素人参加番組で人気者になった Jade Goodyさんがガンで亡くなったため設置されたFacebookのメモリアルページに、嫌がらせメッセージを投稿したことで36歳無職の男性が逮捕されます。投稿後すぐに本人が特定され、裁判となり、18週間の禁固刑が言い渡されます。

昨年から逮捕者は続々と増えています。行方不明になった5歳児に関して、 Facebook で性的なジョークを書いたために逮捕され12週間の禁固刑となった20歳の男性
アフガニスタンでイギリス兵士が死傷した二日後に「兵士は全部死んで地獄に行くべきだな」と Facebookに投稿したため有罪となり240時間の奉仕活動を命じられた20歳の男性、Twitterで試合中に倒れた黒人サッカー選手対して人種差別的なコメントを投稿したために有罪となり56日間の禁固刑となった大学生、Twitterでサッカー評論家のに対して人種差別的なコメントを投稿したことで有罪となり二年間の社会奉仕活動刑となった大学生、Facebookでテレビ番組のお気に入りの歌手にコメントしていた主婦に嫌がらせを繰り返していた警察官が逮捕される、などの事件が報道されています。

イギリスではたとえ学生であっても、ネットで人種差別をしたり、嫌がらせをした人は、実名実顔写真入りで報道され、大まかな家の場所なども報道されてしまうことがあります。表現の自由は尊重しますが、ルールを犯した人への制裁は厳しいのです。

通報の多くは書き込みを見た一般の人からで、匿名アカウントであっても、警察がすぐに動くので、2−3日で本人が特定され、警察が自宅にやってきます。

しかし、イギリスでも、これは厳しすぎるのではないか、という声があがっており、政府は今年中に罰則や、ソーシャルメディア運営会社に対するガイドラインの見直しを勧めています。

投稿者は酔っぱらって投稿していたり、精神疾患をもっている場合もあれば、ジョークの場合もあり、「何をもって悪意のあるメッセージか」と判断するかが難しい、という意見があります。また、人種や障害に対する差別に関しては、他の法律があるため、あえて2003年通信法第127項で罰する必要はないのではないか、という意見もあります。さらに、警察に対する通報が多いため、捜査しきれないという実情もあるようです。ただし、全体的には「インターネット上での苛めや悪意のある発言は厳しく処罰されるべきだ」という意見が優勢です。

イギリスは、日本に比べると激しい議論をすることが多く、表現の自由度は日本よりも遥かに幅が広いのではないかという気がします。ジョークも本気なのか、本当にジョークなのか見分けのつかない「暗黒」な物が多く、ギクッっとすることが多いのです。

こういう「大人」な発言が許されているイギリスで、ネット上の発言が今後どのように制限されていくのかは興味深いのであります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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