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EUのローミング廃止は雇用を創出するか?

Roaming-free Europe create jobs?

2015.10.21

Updated by Mayumi Tanimoto on October 21, 2015, 14:15 pm UTC

ヨーロッパのテレコム業界で最も注目を集めているトピックの一つが、2017年から始まる海外ローミングフィーの廃止です。現在、EU域内への通話の発信は1分€0.19、EU域内の通話の受信は1分€0.05、テキストメッセージは1通€0.06、1MBあたりのデータ通信は€0.20という上限が設定されていますが、2017年からはそれらが完全に廃止されます。国内で自分が普段使っているSIMカードを、EU域内なら同じように使えて追加料金も必要がなくなります。

ヨーロッパは島国の日本と異なり、国境を越えるのが簡単です。シェンゲン協定がある国では国境審査もないので、気がつかないうちに国境を越えており、携帯がローミングになっていた、ということがあります。激安飛行機もバス感覚で使うのが当たり前ですし、国同士が近いので、距離的には日本の国内旅行感覚で海外に移動してしまうため、携帯も国内感覚で使ってしまうユーザーがおり、消費者団体に苦情を申し立てるケースが後を絶ちませんでした。

EUの調査によれば、海外で国内と同じように携帯電話を使うユーザーは8% にとどまっており、90%のユーザーは海外では携帯の利用を控えると答えています

EUでは2007年からローミングの規制が始まり、2012 年にはローミングの上限が定められましいた。2007年当時に比べると、EUのローミングチャージは90%近く安くなりましたが、データ通信は6倍以上になっており、キャリアにとっては負担になっています。

一方で、フランスのOrange, Bouygues Telecom、Free 、ドイツのBase 、Deutsche Telekom 、イギリスのThree とEE 、スウェーデンのComviq は廃止に先駆けて、特定の国やサービスのローミングフィーを廃止して、より多くのユーザーを確保することで、ローミングフィーからの収入減に備えています。

ローミングフィーの廃止は、ユーザーの不便さの解消だけではなく、2014年に合意された「単一テレコム市場」イニシアチブを実現することを目的としています。市場の断片化(マーケットフラグメンテーション)を防ぐことで、域内の情報通信市場を活性化するためです。つまり、取引を行う市場や規格が乱立しすぎることを防いで、市場の健全な発展を推進するという目論見です。

ヨーロッパにはEUという超国家組織がありますが、EUの決定の全てが国内用に優先するわけではないので、テレコム市場に関しては、加盟国ごとに規制も市場のあり方も異なるため、ヨーロッパ全体でのビジネスを展開しようとすると、大変なコストがかかる上、時間もかかります。国ごとに規制も違えば、言葉も違いますし、商習慣に労働慣習、さらに消費者の好みも異なりますので、北米と比較すると不利な条件だらけです。

しかし、ローミングフィーの廃止によるテレコム市場の統一が、市場を活性化するのかどうかは不明です。

まず、そもそも、ヨーロッパのテレコム市場は世界の五分の一の規模でありアメリカの消費者の97%が4Gを使用できるのに対し、ヨーロッパはたったの26%です。ヨーロッパ発で世界をリードするようになったインターネット企業はスカイプのような会社しかなく、ほとんどはアメリカの企業です。

ローミングフィーの廃止によって、キャリアはローミングフィーからの収入を失い、さらなる競争に巻き込まれるために、投資を削り、人員を削減するでしょう。

ヨーロッパではオランダがキャリアやMVNO以外の業種が独自のSIMを発行することを許可することになりましたが今後は、Apple SIMのようなキャリアに依存しないSIMの導入が進む可能性があります。電力やガス会社、自動車会社、小売、交通機関、郵便局、デバイスメーカーといった他業種が競争に参入します。キャリアにとってより厳しい環境が作り出されるはずです。

物価の安い国からSIMカードを輸入して、ローミング状態で使用する、というサービスも産まれるでしょう。物価の高い国のキャリアは顧客を失う可能性があるわけです。

EUはフェアユースポリシーを適用することを公言していますが、一体どこからどこまでがフェアユースであり、海外のSIMカードをどのぐらいの期間ローミングで使用した場合、フェアユースとみなされないのかもはっきりとしていません。

例えばMVNOのSIMだとアクティベートだけして放置する場合、旅行先で短期間だけ使って放置するという例も数多くありますが、残高が残っていた場合でも、長期間使われていない場合はフェアユースに反するとしてSIMを停止するのかどうかといった、実用面での詳細が不明です。

ローミミングフィーの廃止が、新たな雇用を生み出すという確約はありませんし、本当に投資を促進するのかどうかも不明です。そもそも、EUはギリシャの金融危機も難民問題が発端の加盟国間の不協和音も解決していませんが、ローミングフィーの廃止には熱心なようです。優先順位を間違えている印象なのは私だけでしょうか。

このような厳しい環境下で、ヨーロッパが、アメリカとアジアに比べて競争力のある情報通信市場を作り出す可能性は、EUの労働の自由がもたららすバラ色の未来のように、絵に書いた餅のようなものかもしれません。

 

 

 

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。