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民主党の情報通信政策~「国民のいのちと安心を守り、暮らしを支える」ICTの積極的な利活用促進を!

2012.11.30

Updated by Asako Itagaki on November 30, 2012, 12:31 pm JST

今回候補者向けのアンケートで特にテーマとして取り上げた個人情報の取り扱い、ビッグデータ活用、周波数政策、ネット選挙への取り組みについて、民主党がどのような方針をもって取り組んでいくのか、また党としての情報通信政策の方針について、参議院議員の石橋 通宏氏に話をうかがった。

[聞き手:WirelessWire News編集部 板垣 朝子]

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石橋 通宏(いしばし・みちひろ):島根県出身。1992年に全国電気通信労働組合中央本部に入職。国際部に所属し、国際労働運動の活動に携わる。2001年より国際労働機関(ILO)勤務。海外諸拠点にて技術協力活動に従事。2009年、ILOを退官し、情報労連特別中央執行委員に。2010年7月、第22回参議院議員選挙に比例代表で立候補し、初当選。

インフラ整備による情報格差解消と4つの重点分野での利活用促進

――個別の論点をお話しいただく前に、まず、民主党の情報通信政策の全体像についておうかがいしたいと思います。

石橋氏:民主党は、これからの日本の経済、社会にとって情報通信がますます大きな役割をはたしていくという基本認識のもとで、次代を見据えた情報通信戦略と政策の立案に取り組んできました。3年3か月前の政権交代直後、まずICTタスクフォースを立ち上げて、1年かけてこれからの情報通信政策の基盤づくりを行いました。今はその実行段階にあります。

2012年7月に発表した「日本再生戦略」の中では、「ライフイノベーション」「グリーンイノベーション」「農林水産業の六次産業化」の3つの重点分野を含めて11の戦略を打ち出しましたが、これらはすべてICTなしには実現し得ない課題だと思っています。ICT基盤の整備、ネットワークの拡充と高度化、そしてICT関連サービスの利活用促進があってはじめて、その上位レイヤーとしてのさまざまな戦略が実現されていくわけです。

皆様ご承知の通り、ICTタスクフォースの結論として「光の道」という方向性が示されました。柱は2本あって、ひとつは超高速ブロードバンドの基盤整備をして、2015年をめどに普及率を100%にしていくということ。当時は、基本的には光という話をしていましたが、電波の利活用も視野に入れています。大切なのはデジタルデバイド(情報格差)の解消で、日本全国どこに暮らしていてもさまざまなICTサービスを享受していただけるよう、例えば民間ベースで商売が成り立ちにくいところには国が自治体を通じて支援することも含めて、国民の「情報にアクセスする権利」を保障していく考えが示されています。

もうひとつの柱は、利活用の促進です。日本ではむしろこちらの方が重要で、せっかく世界に誇る情報基盤ネットワークを整備しても、それが効果的に利活用されなくては国民の利益にはなりません。ですから全ての地域で実際に生活に活かしていただいて、それが地域経済の活性化や基本的公共サービスの維持にもつながるように、まず具体的に4つの優先領域に注力して促進を図っていこうという方針を打ち出しています。

一つは、公共サービスです。各種行政サービスをICTの効果的な利活用によって利便性を高め、市民の皆さんの生活向上につなげていきます。これには、自治体情報のクラウド化促進も含まれているわけですが、これは東日本大震災の教訓としてその必要性に対する認識が高まっていると思います。

二つめは医療の分野です。医療と介護の連携も視野に入れながら、カルテ、レセプト、処方箋の電子化とオンライン化、さらには遠隔医療の拡大も含めた医療分野の情報化を進めていきます。

三つ目は教育の分野。すべての学校・教育施設を超高速ブロードバンド・ネットワークで結んで、ICT機器の整備、教育クラウドの構築、教科書や教材のデジタル化などを進めつつ、教員のみなさんのICT活用能力を高める対策も行いながら、ICTでこそ可能になる協働学習と個別学習を促進して、子どもの学びと先生の教えを応援していきます。

最後は、環境、エネルギー分野です。ご存じの通り、昨年の東日本大震災で原発事故が発生して以後、エネルギー政策の見直しが行われています。エネルギーの安定供給を確保しながら、同時に国民の安心と安全を確保していくことが大きな課題となっていて、その中で再生可能エネルギーの利用拡大が方針として確認されています。しかしそのためには、系統との安定的な連携や需要応答(デマンドレスポンス)の確立が必要で、そこに電力網と情報通信網を融合させたスマートグリッドの促進が必要になってくるわけです。この点については、私や高井崇志衆議院議員が中心となって、スマートグリッド推進議員連盟を立ち上げ、政策提言を行っていますが、今後ともICT利活用の柱の一つとして取り組みを進めて行きます。

繰り返しになりますが、これからの日本経済と社会の再生、とりわけ東日本大震災の教訓として、地域で住民の皆様のいのちを守り、安心を守り、日々の暮らしを支える、そのためにさまざまな領域でICTの利活用を促進していきたい、これまではなかなかできなかったこともICTを利用して実現できる新しい時代にしていきたいと考えています
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個人情報利活用には「線引き」に国民の合意が必要

――それでは、特に通信に関連するいくつかのトピックについておうかがいしたいと思います。まず、個人情報の利活用について、特に通信事業者に近い課題でいえば、たとえば東日本大震災の時などは住民の安否確認のために通信事業者が持っているはずの位置情報が、個人情報なので利用できない、といった制度の壁がありました。こうした点を含め、個人情報の利活用についてはどのようにお考えでしょうか。

石橋氏:個人情報の利活用については、まず、東日本大震災の教訓として、大災害時に国民のみなさんの「いのちを守る」ために必要なリソースはすべて使うべきではないかという議論がありました。私たちも基本的に同様の考え持っています。特に、利活用のところでも触れた医療、介護の連携についても、医療情報連携基盤の整備を実証実験で進めていて、被災地では「どこでもマイ病院構想」といった取り組みもしていますが、やはりカギを握るのは個人情報の保護と活用をどう両立するかということです。

個人情報は保護しなくてはいけないというのは大前提ですが、一方で、一つは公共の利益のため、もう一つは個人のいのちを守る、利益を守るために、ある情報を活用すれば実現できるという場合、どうするのか。そこが大きなポイントだということは我々も認識していて、例えば立法措置で特定の条件下で特例的な扱いができる場合があるのではないか、という方向での議論は始めています。たとえば、医療関係であれば「人命を守るため」という明確な目的の下で条件を定義して情報利用を可能にできるのではないかと思っていますし、位置情報などについては大災害時など特定の条件下における利活用ということであれば、国民の皆様のご理解も得られるのではないかと考えます。

また、個人情報を扱うようなサービスで、たとえば友達が電話帳情報を登録することで、自分が望んでいないのに連絡先などの個人情報が他の人に知られてしまうような問題が出てきています。他の領域でもあることだと思いますが、技術革新によって新しいサービス展開がどんどん早くなっていくことで、現行の法規制が新しいサービスに追いつけない、あるいは規制から漏れてしまうものが増えている状況だと認識しています。

本人が望んでいないのに知らないうちに個人情報が漏れてしまうような状況はあってはならないことですので、この問題に対応していく必要がありますが、やはりここでも線引きの問題が課題になってくると思います。完全にオープンにするというのは当然問題があるわけですが、ではどこまでなら国民のみなさんが許容できるのか、公共の目的のために、あるいは自らの命や利便のために許容しても構わないと納得していただける範囲はどこまでなのか、その辺の議論をしっかりとしていくべきなのではないかと考えます。

――ビッグデータの利活用についてはどのようにお考えでしょうか。

石橋氏:ビッグデータの利活用については、積極的に取り組んでいきたいと思います。現時点ではまだ、ビッグデータとは何をさすかという明確な定義が共有されていないわけですが、情報化の進展と技術の急速な革新によって、大量かつ詳細な情報を収集・集積し、それを分析・解析することで国民生活の向上のために有益なアウトプットを導き出すことが出来るようになったわけです。そこで例えば、「国民のいのちを守る」という観点でまず取り組みたいのが、医療関連のビッグデータの利活用です。医療分野での創薬、新しい治療法の確立など、人命と密接に結びつく分野です。現状では、レセプト、カルテ、処方箋の電子化は進んできていますが、まだデータを集積するという段階にとどまっています。集積したものを分析して利活用するには、匿名性の問題も含めて個人情報に配慮しながら分析できるようにしなくてはいけません。先ほどお話しした個人情報の問題とも密接にかかわる点ですが、早急に検討が必要です。
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電波利用の効率化は周波数再編と技術革新の両輪で

――次に、通信事業者にとっては大きな関心事になります、周波数再編についてのお考えをお聞かせください。

石橋氏:電波というのは国民の有限の資産ですから、その有効な利活用を図ることによって国民生活の利便性向上につなげるという観点からも、電波の有効利用はますます大きな課題となっています。特に、スマートフォンがこれだけ爆発的に普及して、今や倍々ゲームでトラフィックが増えており、事業者も相当苦労して電波のやりくりをしているのが現状ですから、周波数の移行・再編をこれからも進めていく必要があるでしょう。昨年、電波法を改正して、後からその周波数を利用する人が先に利用していた人の引っ越し費用を負担するという形にして、移行・再編がより迅速に進む環境を整備しましたので、一歩前進したと考えています。

とはいえ、米国で、LTEが普及しはじめて当初の予想以上に電波のひっ迫が進んでいるという状況から見ても、日本でも同様の状況が訪れることを見越して今のうちから手を打っておく必要があります。移行・再編を今後も進めていくことと合わせ、より効率的な電波の利活用ができるような技術開発を進めていくこと、つまり、周波数再編と技術革新の両輪で取り組んでいく必要があると考えています。そのためには、この分野での研究開発事業に予算措置を行ったり、企業の研究開発を促進するための税制措置を拡充したりして、民間企業が技術革新に積極的に取り組んでいける環境づくりを政治の側としても応援していきます。

――周波数オークションの導入についてはどのようにお考えでしょうか。

石橋氏:ご存じのとおり、政府与党として、基本的には周波数オークションを一つの手段として導入を図ったらどうかということで法案を出させていただきました。ただ、オークション制度については、海外の事例から見てもメリットもあるがデメリットもあって、「オークションを導入すれば万事うまくいく」という話ではないということも理解しています。つまり、どういう場合にオークション方式のメリットが確保され、そしてどのようにしてオークションのデメリットを克服できるのか、そういう議論がまだ必要だということですね。法案については、このたびの衆議院解散で仕切り直しになりましたが、今後も、周波数の有効活用がしっかりと確保される観点から議論を進めていきたいと考えています。

――(2012年10月の)ソフトバンクによるイー・アクセスの買収で、イー・アクセスに割り当てられた周波数が実質的にはソフトバンクのものになってしまうのは、「諸条件を勘案して割当を決める」というビューティーコンテスト方式の趣旨にそぐわないし、そもそもオークションで決めていれば電波利用料として国庫に入るはずだったお金がイー・アクセスの株主に支払われてしまい、国民の財産が失われたのではないかという議論がありました。

石橋氏:今回の買収劇に関して、そのようなご意見を持たれる方もいらっしゃるということは理解いたします。ただ、一般論としては、これまでのビューティーコンテスト方式にもオークション導入にもそれぞれメリット・デメリットがあり、今回オークションをやっていればよかったのかといえば、そうとは限らないのではないかと思います。また、いずれにしても割当条件というのはちゃんと定められているわけですから、その条件に反するような形になった場合には割当そのものが問われる可能性もあるわけです。先ほど申し上げたように、今後、周波数のより有効な活用をしていくうえで、どういう形が一番いいのか、オークションを導入するのであればメリットが最大化されるように検討していく必要があるだろうと考えます。

――最後に、ネット選挙についておうかがいします。2009年の総選挙の時には民主党マニフェストにも解禁をうたっていましたが、結局変わらないまま次の総選挙を迎えることになりました。これについてはどのように取り組まれていくのでしょうか。

石橋氏:選挙運動に対するインターネット活用については、政権交代以前から主張しておりましたし、交代以降も基本的には解禁する方向で議論させていただいていました。野党との協議も行ってきて、総論としては皆賛成で、解禁していく方向性が確認されています。ただ、各論になるとまだまだ課題が残されていて、今後、さらに具体的な中身を詰めていく必要があります。

一番懸念されているのは、インターネットを使うということは、既存のメディアと異なり、非常に匿名性が高いメディアであるという点ですね。ありていにいってしまえば、特定できない多数の方から、根拠のない誹謗中傷的な攻撃が集中的に行われるようなことが起こり得るのではないか、その時に対抗できる手段が措置されないまま解禁されると、いったん流れた情報を止めるのは難しく、そのまま政治生命が絶たれてしまうといったことも起こり得るのではないかということです。それを表現の自由としてよしとするのか、やはりそれに対抗できる何らかの手段、制度を作っておくべきなのかという部分が、まだ詰め切れていないということだと思います。

選挙には莫大なお金がかかる中で、インターネットは、効率的に主張やメッセージを届けたり、有権者の方と双方向のやりとりをしたりすることを可能にしてくれるわけで、有力な政治ツールになり得ます。すなわち国民の皆様、有権者の皆様の利益にもなるわけですから、やはり積極的に使っていくべきです。細かいところが詰め切れず、今回の総選挙には残念ながら間に合いませんでしたが、引き続き取り組み、ネットをきちっと選挙でも使えるようにしていければと考えています。

――ありがとうございました。

12月16日(日)は投票日です。

通信業界に関連の深い政策について、投票前にあらためて確認してみよう。

第46回衆議院議員総選挙:民主党・自民党の情報通信政策

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。