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なぜ女性だけ民族衣装を着なければならないのか

2013.01.10

Updated by Mayumi Tanimoto on January 10, 2013, 01:43 am JST

日本でお正月にテレビを見ておりました。ぼーっと見ていたら東京証券取引所で仕事始めの儀式が映りました。仕事始めということで、着物を着た女性が映ります。華やかな雰囲気ではありますが、なぜか男性で着物を着た人が映りません。何人かは着物業者さんのプロモーション用の方だった様ですが、金融関係者もおりました。

これを仮にロンドン証券取引所がやったらどうなるか?と考えていました。

まず、「我が国の民族衣装とは何なのか?」と大議論になるでしょう。大英帝国には、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの国があります。それぞれ違う国ですから「何をもって大英帝国の民族衣装とするか」で大喧嘩になるでしょう。

その上、首都のロンドンは人口の半分近くが大英帝国の外で産まれた外国人であり、金融関係者の集うシティは外国人ばかりです。そんな中で「民族衣装を着用して儀式を。。。」となったら「誰の国のどこの何の民族衣装という意味か?」と大論争になるでしょう。

次に、振り袖というのは未婚女性だけの物ですが、大英帝国では事実婚の方も大勢いますし、今や結婚しているかどうかは、重要視しない人も少なくないのです。その上、ゲイの人にはパートナーシップという結婚と同等の制度があります。「既婚未婚とは事実婚も含むか?パートナーシップと宗教上の結婚は違うか?どういう定義なのか?」という大議論になるでしょう。さらに、「なぜ既婚と未婚を分けるのか?既婚者は美しくないというのか?ハナが無いというのか?ハナとはどういう意味か?」と大変な議論になります。

さらに、「未婚と既婚を分けるのは差別であり人権侵害である」「未婚で若いならハナがあるということは、年を取っている人間は美しくないということだ。それは差別である。そういうことを証券取引市場が公式な儀式で『推奨する』とは何事か?それは組織的な差別である」と大騒ぎになり、怒った人達が集団訴訟を起こすでしょう。訴訟を起こすのは、男女双方の既婚の人々(宗教的な意味で結婚している)、パートナーシップを結んでいるゲイの人々、年を取った人々等々様々な人々になるでしょう。

また、「民族衣装の着用と業務には何の関係があるのか?それは広報担当者の仕事ではないのか?なぜコンパニオンではない私が民族衣装を着用しなければならないか?それは私の雇用契約書や職務説明書には書いていないので、業務命令ではない。その業務を要求するのであれば、職務契約書を前回のパフォーマンスレビューの時に改訂すべきであった。また私の年収を改訂すべきだ」と、着用を暗に要求された女性が言うでしょう。

イギリスでは各人の担当業務は雇用契約書や職務説明書にかいて契約として締結するのが当たり前ですから、担当以外の「業務」を「やれ」と一方的に命令することは「雇用契約違反」であります。酷い場合には「専門以外の仕事を押し付けるという建設的な解雇行動である」と会社が訴えられる可能性があります。

もちろん、女性だけに着用を要求したら「それは性差別である。なでぜ男性は着ないのか?」と言われます。最悪の場合は、性差別禁止法に沿って訴訟となり会社側は莫大な賠償金を支払うことになります。メールや文書、口頭などで「証拠」があれば致命傷です。女性に対して「民族衣装を着たら華やかで奇麗だよね。ぜひお願いするよ」などと言ったり書いたらさあ大変。明確な性差別ですから、言った方、書いた方は訴えられてキャリア終了です。そんなリスキーな発言をする人は、他の会社でも雇ってもらえないでしょう。

ロンドン証券取引所でそういう儀式が実際に実施され、世界中にテレビ放映されたり、それにまつわる訴訟のニュースなどが世界中に出回ったら「それ見たことか。あそこはやっぱり黴臭い落ちぶれ帝国さ。差別心丸出しの奴らばかりのね。あんな所に働きにいくなんて最悪だよね」と大喜びする国が沢山あることでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。