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網戸がある国とない国

2013.08.09

Updated by Mayumi Tanimoto on August 9, 2013, 08:00 am JST

夏です。

夏といえばハエと蚊です。

ワタクシはコンクリートと機械が大好きです。虫や小動物のたぐいは地球上からすべて絶滅して欲しいと考えているほどハエや蚊が嫌いです。

ハエや蚊といえば、日本ではめっきり数が減りましたが、日本ではどこの家にも網戸があるのが当たり前です。昔は蚊帳を使っておりましたが、70年代後半頃からはどの家にも網戸があるのがごくごく当たり前になりました。

イギリスや欧州大陸にもハエや蚊が大量におります。寒冷地のはずのイギリスもちょっと暑くなれば蚊がブイーンブイーンと飛び交い、アフリカ大陸に近いギリシャ、スペイン、イタリアの南方などは、アフリカ産なのかと思われる巨大で強烈な蚊が大量に生息しています。特にもともと湿地のローマは蚊が凄く、殺しても殺しても湧いてきます。しかも巨大で刺されると痛いのです。かゆい、じゃなく、痛い、です。

こんなに蚊がいるので、日本産の蚊取りマット、蚊取り線香は売っているのですが、なぜか網戸だけはありません。どこを探しても売っておりません。

困り果てたワタクシは網戸を自作することを思いつきました。イタリアに住んでいた頃大家さんに相談して「網の窓を自作して窓につけたいが良いか?」と聞きました。海外に住むとぬか床から漬け物からなんでも自作が得意になるのです。ぬか床やこたつに比べたら網戸など甘いものです。

しかし答えは「のー」でありました。

様々な国の同僚にも「網の様な窓をつけたら蚊がこない。便利だ。どう思うか?」と聞きました。

答えは

「お前は美の感覚がない。元々イカレていると思ったが、暑さでもっとイカレタらしいな。おい、ちょっとオスティアにいって涼んでこい」

でありました。

網戸は便利な文明の利器ではなく「美観を損ねるダサくて最悪で頭のおかしい物」という扱いなわけです。少々不便でも美観を優先するというわけです。優先するのが便利さではなく、建物を内側からも外側からも見た場合の美、そして、それを見た時に感じる自分の心の快適さ、というわけです。

こういう優先順位の違い、感覚の違いというのは、何かこう、根本的に感覚が違うのだな、という風に思う様になったのです。これは網戸や建物だけの問題だけではなく、サービスに求めるスピード、品質に求める物、職場でのコミュニケーションの仕方、ユーモアのセンス、お金の感覚、携帯機器のデザイン。いくら話し合っても理解しあえない感覚。そして相手の優先順位を変えて、自分の優先順位を押し付けるというのは不可能に近いわけです。それは哲学的な問題で、絶対に譲れないことなわけです。

ビジネスの現場でもこういう優先順位の違いにぶち当たることがあります。その場合どうしたら良いか?日本式を押し付けると待ち構えているのは抵抗であり、戦いです。まして物やサービスを売る場合は、日本式の押しつけは絶対に通用しません。相手の優先順位や快適になるツボというのを十分理解し、相手に合わせて物事をやっていくしかないわけです。

網戸を諦めたワタクシはどうしたかというと、イギリスのミリタリーサープラスから軍事用の蚊帳をゲットして部屋に吊って何とかしたのでした。野戦病院と貸したアパートをみた家人は「これぞミリヲタの鏡である」と直立不動で遠い目をしていたのでした。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。