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クールジャパンは誰がターゲットなのか

2014.01.18

Updated by Mayumi Tanimoto on January 18, 2014, 09:05 am JST

天気がよかったのでロンドン中心部にある日本食料理屋にランチを食べに行きました。ウイークデーだというのに、席はほぼ満席で、そのほどんとが、フランス人、イギリス人、シンガポール人、台湾人、中国人、アメリカ人、カナダ人、ドイツ人などの非日本人でありました。

店構えもでてくる食べ物も日本の割烹、板前さんは日本人でありますが、ウェイターやウェイトレスは日本人ではありません。

この店の食事というのは、ロンドン基準でも決して安い物ではありません。ランチでもステーキ丼セット2万円、お寿司セット8000円などであります。

ワタクシも家人も金持ちではありませんので、我々は最低の値段の定食を食べていたわけですが、我々の横に座るフランス人達は昼だというのに8000円のチラシを頼んで、ビールと一緒にそれはそれは旨そうに食べておりました。

周囲のテーブルを観察すると、昼だというのにセットメニューの他に、もずく酢やら唐揚げ、漬け物、さつま揚げ、アラカルトの寿司、高級ワイン、高級日本酒などを、シンガポール人やら中国人やらドイツ人がバンバン頼んでいます。

カウンターの向こうにはレバノン人らしき若い男性が一人で座り、一人で寿司セットと、枝豆と、天ぷらセットを頼み、超高速で平らげていたのでした。

繰り返しますが、メニューこそ英語でも書かれていますが、ここの食べ物は純割烹で、客の非日本人達が頼んでいるのも、ガイジンがいかにも好みそうなテリヤキーとか、カルフォルニアロールではなく、純然たる寿司、割烹の天ぷら、また、もずく酢やアン肝、納豆の和え物など、日本のオッサンが好きそうな通好みの物ばかりなのです。

この人達がどこでもずく酢を覚えたのか知りませんが、食べ方や会話を観察する限り、客の多くは常連で、日本食通のようでありました。パリのとらやに出没するフランス人と似ています。

服装などから判断する限り、その多くは、金融業、広告業、メディア、コンサルティング、ファッション関係者、もしくは自営業者です。この店はそういう業種が集まっている場所にあるのです。

そして、殆どが40代以上の中年、熟年もしくは老人であり、仕立ての良いスーツや、シックな色合いのカシミアのセーター、品の良いワンピースに身を包んでおりました。イギリスにありがちなキャバクラのボーイやホステスの様な服装の人は一人もおりません。

さて、この人達はランチに一人当たり1万円〜3万円を平気で使う事ができる人々です。そして、ウイークデーの昼にもずく酢やアン肝を頼んで食べるという通で、日本食を心から愛している人々です。アン肝や納豆さえも普通に楽しむ事ができる、ということは、割烹の清潔な空間、板前さんの技巧、日本的な静寂感のあるインテリア、漆器なども愛しているはずです。

そして、この人達の静かな喋りや会話の内容、シックな服装から判断する限り、家には禅や侍に関する書籍があり、寺や神社仏閣などの静寂、天皇の神秘性などに魅力を感じるタイプの人々です。

メディアや金融など、日本の経済にも強い影響を及ぼす業界に携わっており、日本と商売する事もある人々が愛するのは、ドンキ、プリン頭のヤンキー、AKB48、巨乳ロリアイドル、18禁の同人、温水式便所、牛丼屋、プリキュア、初音ミクさん、味付けの濃いジャンクな日本料理、コンビニで売っている変な物、ではありません。

それは彼らに取ってダウンマーケット(大衆向けの文化)なのです。

彼らが愛するのは、職人や板前の技巧、繊細なサービス、伝統和食、着物、神社仏閣の静寂など、アップマーケット(裕福な人々向けの文化)の文化なのです。それは外国には絶対に存在しない日本の様式美であり、高いお金を払って体験するのに値する文化遺産なのです。そして、ランチに一人当たり1万円〜3万円を平気で使う事ができる人々が、日本に休暇で遊びに来た場合、一体いくらのお金を使うでしょうか。

ドンキ、プリン頭のヤンキー、AKB48、巨乳ロリアイドル、18禁の同人を愛する外国の人々のうち、ランチに一人当たり1万円〜3万円を平気で使う事ができる人は多くはありません。その多くは、若者やサブカルを愛する人々であり、その国の支配階級ではありません。対日貿易や政治に影響力のある人々ではありません。

支配階級がサブカルを愛することはマレなのです。

様々な国の人々が、伝統文化を求めてフランスやイタリアに幾度も足を運びます。それらの国の政府は、国をあげて、自国の「伝統文化」を世界中に宣伝しています。映画やテレビの撮影に自国の様々な場所を開放します。しかし、大金をかけて下町の若者が作ったラップや、変わったコンビニエンスストアを宣伝する事はありません。それらを宣伝しても、自国に大量にお金を落とす人々はやってきませんし、政治経済に影響力のある支配階級に良い印象を与える事ができないから無駄な投資なのです。フランスやイタリアは遺産で食べて行く方法を知っているのです。資源は限られているので、何を宣伝すべきか、実は良く考えているのです。

我が国には他の国が絶対に真似できない伝統文化があります。それは海外のアップマーケット文化を愛する人々に取っての憧れであります。

しかし、我が国の政府は、その様な歴史的遺産は無視して、国民の貴重な血税を、お金を落とさない人々や、政治経済に影響力がない人々が好む分野の宣伝、つまり、海外では児童買春と間違われるアイドルの宣伝や、海外では嘲笑される温水便所の宣伝にに使い込んでいる様です。

我が国は既に借金を大量に抱えています。血税無駄使いは許されません。我が国の政府は遺産で食べている歴史の長い国々の指の間の垢でも飲んでみた方が良さそうです。

ランチに一人当たり1万円〜3万円を平気で使う人々は、空港出迎えてくれる萌えアニメキャラの看板を見て落胆する事でしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。