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ネット時代には「読み書き」を学ぶようにプログラミングを学ぶ必要がある

2013.11.22

Updated by Asako Itagaki on November 22, 2013, 09:19 am JST

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(cc) Image by Nic McPhee

12月2日、アキバホール(東京・秋葉原)にてシンポジウム「なぜプログラミングが必要なのか」が開催される。なぜ、今「なぜプログラミングが必要なのか」を問うのか、主催者である角川アスキー総合研究所取締役主席研究員の遠藤諭氏に聞いた。

「ソフトウェアが何をしているか」を知り、表現する力の源

――なぜこのようなイベントをやろうと思われたのでしょうか。

遠藤氏:理由は2つあります。1つは、「誰もがプログラミングを学ぶべきだ」という議論がいま盛り上がってきていること。ネットやデジタルの時代に個人がどうやって生きていくか、企業や学問分野がこれからどうやっていくかを考えてみると、プログラミングは、"読み書き"に匹敵するベーシックなことだと思うのです。ところが、今の日本には、漫然とそれに対処しようとしない空気がまだある。時代は変わったのに、あたかも蒸気機関で世の中をまわそうとしているようにしか感じられないとでも言えばいいでしょうか。そんな中でも、プログラミングが必要だという取り組みがいくつもされているんですね。そこで、いまは「プログラミングとは何か」を問い返すいいチャンスではないかということでこういう場を持たせてもらうことにしたんです。

もう1つの理由は、9月27日に開催した"第一回角川アスキー総合研究所シンポジウム"で、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さん、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生さん、Rubyアソシエーション理事長のまつもとゆきひろさんに登壇いただき鼎談を行いました。そのときに、3人それぞれが言葉は違っても「プログラミングの必要性」というところに話が行き着いたんです。

巨大プラットフォーマーが力をもってくると、今後ネットでは自由が失われていく傾向にある。そうした時代には、個々がソフトウェアが何をしているかを知り、表現する能力を身につけることが重要です。世界的に評価されているプログラミング言語Rubyの作者のまつもとゆきひろさんは、「グーテンベルグ以降の印刷機にあたるのが、プログラミングする力ではないか」とたとえていましたね。

――「プログラミングを学ぶ」という点では、特に北米でさまざまな動きがあると聞きました。どのようなものでしょうか。

遠藤氏:いちばん注目されているのは、「Code.org」というプログラミングを必修科目にするためのNPOの活動で、多くのデジタル分野の関係者が応援しています。米国は、80年代から日本に比べてコンピュータ教育がずっと進んでいたはずですが、プログラミングが、いよいよ重要かつ違った重みを持ってきたということがあるんだと思います。

もう1つ、「Code for America」というこれもNPOの活動が日本でも大いに注目されています。政府や地方自治体が、市民向けのサービスやそれぞれが抱える課題を解決するサイトをなかなかうまく作れないという現状がある。そこに、人材を派遣しましょうというものですが、非常に優秀な人たちが集まってきている。いわゆる"オープンデータ"、"オープンガバメント"といった動きとも関係していてるものです。

プログラミングが興味深いのは、単純にソフトを書くということではなくて、「ソフトを作る人と使う人がコミュニケーションを取る」ことなんです。プログラミング教育のメリットとして、本来は国語で教えるべき表現力やコミュニケーション力、あるいは協調性ややりとげる充実感などが養われるというのがある。おなじように、政府や州や市のやっていることと市民との距離がぐっと縮まる効果があるはずなんですね。

若い人たちが「ITは世の中の何を変えるのか」を考える契機に

――遠藤さんにとって「プログラミング」とは何でしょうか

遠藤氏:私は、1985年にアスキーに入社して『月刊アスキー』でずっとプログラミングの入門記事を担当してきました。要するに、メディアの立場でプログラミングというものに関わってきた。もちろん、それ以前にも共立出版の『bit』であったり、学研の『学習コンピュータ』、それから森口繁一さんなどによるNHKのコンピューター講座など、いろいろな取り組みもありましたが。私が、プログラミングの記事をやっていた頃は、ちょうどコンピュータの義務教育への導入という議論も出てきた時代です。

同時にその時代というのは、コンピュータを個人が自由に使えるようになって、プログラミングで人を楽しませたり、人の役に立つことができるということが分かってきた時代でもありました。

よく米国のネット企業の創業者のインタビューを読むと「世の中をよくする」というようなフレーズが出てくる。本当に、そういうことが可能なのが今で、しかもそれが誰の前にも可能性として開かれている。「IT」という言葉は"Information Technology"の訳語ということになっていますけど、本当は違っていて「情報技術によって世の中を変える」といういわば「下の句」の部分が隠れていると思うんです。

プログラミングは、企業が収益をあげたり生き残るためのものという側面ももちろんありますが、本来、もっと違った次元の意味を帯びているわけですよね。プログラミングに興味のある企業、教育関係者の方々はもちろんですが、特に学生や起業に関心のある若い人たちに来ていただきたいと考えています。既に一般の募集受付は一杯となっていますが、30歳までの学生や今後プログラミングを学びたい方向けのU-30ユース枠はまだ受け付けていますので、ぜひ参加ください。

セッションの見どころ

今回のシンポジウムでは4つのセッションが開催される。それぞれの見どころと登壇者の方への期待を遠藤さんに語っていただいた。なお、セッションタイトルは11月22日現在の予定であり、当日変更の可能性がある。

Session 01.プログラミングの重要性と日本の課題
「Rubyのまつもとゆきひろさんと、元マイクロソフト会長で現在は慶応義塾大学大学院教授の古川享さんの対談ですが、これからの世の中をふまえた上での話題を提起していただきたいと思います。9月のシンポジウムでもまつもとさんには"インビジブルコンピューティング"という未来のコンピュータの姿についてお話をいただきました」

Session 02.スタートアップ、キャリアパスとこれからのプログラミング
「ジャーナリストの林信行さんにモデレーターとなっていただき、スタートアップやスマートフォンなどのアプリ開発で大切なことについてとりあげます」

Session 03.教育とコンピュータ
「子供と教育について取り組まれている当事者の方々に一同に会していただいて、その現状や課題について語っていただく予定です。コードアカデミー高等学校という、現在設置認可申請中のプログラミング教育を重視した通信制高校に関わられている松村太郎さんにモデレーターになっていただきます」

Session 04.ホットププログラマーズトーク
「現在、さまざまな立場でプログラミングに関われてている方々に集まっていただいて、プログラミングの最新事情やその魅力や仕事としたときに実際に起こることなど、リアルな姿を語っていただければと思います」

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シンポジウム「なぜプログラミングが必要なのか?」についての詳細はこちらから。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。