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女性型アンドロイドとリスク管理

2013.12.29

Updated by Mayumi Tanimoto on December 29, 2013, 06:48 am JST

人工知能学会誌の表紙がリニューアルされ、女性型アンドロイドのイラストになった件が炎上しております。

この炎上案件に関する書き込みを読んでおりますと「なんという女性差別」「ヲタ男の妄想丸出し」という意見がある一方、「大騒ぎすることではない」「別にいいじゃないか」という意見もある様です。

この件、リスク管理を考える上での大変良い題材であるなと感じました。(ワタクシの本業の一つは内部統制であります)

これがどこかの同人とかエロゲであれば全く問題なかったと思うのですが、何分「人工知能学会」というハードコアな学会であります。

人工知能を研究する方の中には女性もおられるでしょう。また海外の研究者との交流もあるに違いありませんから、海外の方もこういう表紙を目にすることがあるでしょう。萌え=可愛い、は海外先進国で通用する「概念」ではありません。日本の外の先進国だと、ごく一部のヲタ、しかも日本のコンテンツにどっぷり浸っている人以外に取っては「気味が悪い」「良い大人なのに頭がおかしいのではないか」と言われてしまいます。

人工知能学会は、 世の中には「学会誌は同人やエロゲとは違う」と考える方々の方が多く、表紙がそういう方々の目にも触れてしまった場合、大炎上する、という「リスクの予測」が全くできていなかった、わけです。

しかし、知能レベルの高い人々が集っている学会なのにも関わらず、意思決定者には「外部の人々はこれをどう見るか」という想像力が決定的に欠けており、「リスク管理のガバナンスがダメダメであった」、というのが不思議でなりません。研究が忙しすぎる方が多いのかもしれませんね。

どの団体も活動するにあたっては様々な予測不可能な状況に直面します。管理者の役割とは、どのような予測不可能な状況が発生するかを事前に予測し、どの程度許容できるのかを定義し、対応策を事前に準備することで、活動にに関わる人々が得られる価値を最大限にすることです。

人工知能学会が、米国のトレッドウェイ委員会組織委員会(COSO)Enterprise Risk Management -- Integrated Frameworkを熟読していたらリスクを回避することができたでしょう。

COSO の内部統制のフレームワークは、事実上の世界標準であり、内部統制のフレームワークを発展する形で作成したEnterprise Risk Managementのフレームワークは、世界各地で使われています。以下はフレームワークの骨子ですが、興味のある方は、お正月休みにバラエティを見る代わりにちょっと目を通してみると、色々勉強になるかもしれません。

  • 内部環境(Internal Environment)
  • 目標設定(Objective Setting)
  • イベントの認識(Event Identification)
  • リスク評価(Risk Assessment)
  • リスク対応(Risk Response)
  • 統制活動(Control Activities)
  • 情報とコミュニケーション(Information and Communication)
  • 監視(Monitoring)

どの要素も重要でありますが、特に難しいのが 内部環境 の策定、目標設定、イベントの認識、リスク評価であります。「何が必要か」「どんなことが起こるか」が想像できなければ適切な設計ができません。

例えば海外の人も目が触れる媒体を作っているメディア企業の場合、日本では許容される物は海外では大丈夫か、ということが想像できなければ、リスク管理の仕組みが設計できない、というわけです。

それには、国内の仲間内の考えだけに触れていては無理で、文化も言葉も全く異なる環境の考え方を、文化人類学や宗教学的な知識も駆使して想像できなければならないわけです。たこ壷の様な組織にいる人だと、そこまで想像力が働きませんので、普段から多様な人と接触することが大事です。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。