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欧州の通信やIT業界の人がクリスマスに3週間休める理由

2014.12.24

Updated by Mayumi Tanimoto on December 24, 2014, 06:57 am JST

クリスマスイブですね。

欧州ではすでにクリスマス休暇に入っている人も多く、仕事関係の人にメールを送ると「今日から不在です。出社は〇〇日からです」というメッセージが戻ってくる様になりました。

イギリスでも大陸欧州でも通信やIT業界というのは、基本的にデスマーチとは無縁です。クリスマスや夏期休暇の時期に短くて1週間程度、長い人は一ヶ月程度の休暇を取るのが普通です。一ヶ月程度の休暇を取る人は、東南アジアなど暖かい所にでかけたりします。

さて、ところでなぜここの通信やIT業界の人々はそんなに長い休暇を取ることが可能なのでしょうか?

今日はその理由を簡単に説明してみたいと思います。

1. 最初から長期休暇を盛り込んだスケジュールを組む

関係者が長期休暇を取ることがサービス提供側も顧客側も「当たり前」になっているので、サービス運用やプロジェクトの設計をする際に、最初から長期休暇時期に人がいなくなることを盛り込んでいます。

休暇前後や休暇中に実施する作業は極力減らすか、プロジェクトは休暇前か休暇後に完了する予定を組みます。この予定を組むのは、管理職やプロジェクトマネージャの仕事です。

休暇に重ならない様に作業を割り振ったり、工数を計算したり、要員計画を練るのが管理職やプロジェクトマネージャのスキルのキモであり、それができる人は「仕事ができる人」ということになります。

サービス運用の場合はサービスを完全に止めるのは難しいので、担当者同士でシフトを組んで、今年は誰さんがオンコールだったので、来年は誰さんと、数年単位でシフトを組みます。

ただし、若手の社員や立場が弱い人にシフトを押し付けるということはしません。良い管理者ほど自分から積極的に犠牲になります。クリスマス時期に出社した人は、その代わりに、イースターや夏期休暇の際に優先的に長期連続休暇を取れる様にします。その様な配慮をしたり、周囲と調整するのも管理職の仕事です。

2. 知識の共有化を進める

担当者がいなくても障害対応できる様に、対応マニュアルを整備したり、普段から文書化をしておくのもキモです。担当者の頭の中に知識を残さないことで、休暇を取ることができるのです。

3. サービスレベルが下がることが前提になっている

休暇時期には普段と同じ様なサービスレベルは望めないことを承知している人が大半です。回線が落ちる、障害は対応されない、込み入った作業は頼めないなどです。サービスレベル合意書違反になるレベルまではサービスは下げませんが、普段よりは品質が下がります。ただし、ユーザー側も休暇を取っていますので、サービス提供側に文句をいう人は多くはありません。

私の本職の一つはサービスレベルのマネージャですが、北米や欧州の企業のユーザーは、休暇時期の不便に対して驚くほど文句を言いません。お互い様という気持ちがあるので多少不便でも文句を言わないのです。休暇時期に関わらず文句を言ってくることが多いのは東アジアや中東のユーザーです。北米や欧州のサービス提供側は前提になる考え方が異なるので「なんて非人道的な人々なのか。こんなクライアントとはつき合わなくて良い。そこまでひどい目に合って金を稼ぎたくない」と契約を破棄してしまうこともあります。日本的な考えだと理解できない感覚ですが、そういう感覚なのです。

4. 臨時スタッフを雇用する

それでも回らない場合は、臨時のスタッフを雇います。臨時の人でも作業対応してもらえる様に、知識の文書化や共有化を普段から勧めておくのは前提条件です。また臨時の人には無理をお願いするので、割り増し賃金を支払うのも当たり前です。独身の人や休暇を家族と過ごしたくないという人もいるので、臨時のスタッフは案外簡単にみつかります。

外国人がやってくることもあります。これは移動の自由が保障されているEUが有利な点です。EUの人なら自国で働いてもらうのに労働許可が必要ないので、様々な人がみつかります。

宗教的にクリスマスは休まないという人もいます。例えばイスラム教やユダヤ教の人には、クリスマス中に休まないという人もいます。イギリスだけでなく欧州大陸には大勢のイスラム教やユダヤ教の人がいるので、通信やIT業界でも探すのが難しくはありません。チャドルを被ってネットワーク監視してる人、ターバン姿でコーディングしている人、ユダヤ教の格好をしたプロジェクトマネージャなど少しも珍しくありません。文化や宗教が違うと休む時期が違うので、交互に休みを取れると言う利点もあるわけです。

5. 外注できる部分は外注してしまう

外部の会社や海外の会社に休暇中の作業を外注してしまうこともあります。キリスト教圏の外の国の会社だと、クリスマス時期は休暇ではないというところもあるので、作業が頼みやすいことがあります。

また知識の文書化、要件定義の作り込み、契約の遵守、サービスレベルの交渉などに普段から取り込んでいるからこそ作業をお願いすることが可能になります。何を、どのように、いつ、どのレベルで、いくらで頼むか、がはっきりしているのでお願いすることが難しくはありません。これをうまくやるコツは、責任分解点の明確化や、契約以上の作業は頼まないなど、外注先とドライな関係を保つことがコツです。ペナルティもしっかりと盛り込んで、先方を脅しましょう。

要件定義さえ作れず、外注先に何でも丸投げというのが当たり前の日本企業だと、残念ながらこういうドライな関係を構築するのが難しいことが少なくありません。

ちなみに私の本業は要件定義を作ったり、契約書のドラフトを作ったり、サービスレベルの交渉をすることです。日本で欧州や北米の感覚で文書の作成や交渉をやってしまうと、「そんな怖いことを書くんですか?!?」「丸投げでいいでしょ」と言われてしまうので、欧州や北米やインド側と板ハサミ状態になってしまい、毎日SMをやっている様な状態になってしまうので、団鬼六先生の作品を読む必要がなくなってしまうのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。