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「バンコク封鎖」に見るスマホ、ソーシャルメディアの活用

2014.01.16

Updated by Hitoshi Sato on January 16, 2014, 12:46 pm JST

日本でも大きく報道されているが、2014年1月13日、タイの首都バンコクでは反政府派が大規模デモ行動「バンコク閉鎖」を行った。デモ隊約11万人(警察集計)がバンコク中心部の交差点約20カ所を占拠し、車の往来を遮断し、一部の省庁を取り囲んだ。政府は軍や警察から2万人以上を動員して警戒しているとのことである。

筆者はバンコクにいた。デモ前日にはシラパコーン大学(Silpakorn University)ではデモのシャツを200バーツ(約700円)で販売していたり、デモに向けての説明会などを行っていた。デモは「バンコク封鎖(Shutdown Bangkok)」をスローガンにしていたので、道路が封鎖されてしまい、ふだんから交通渋滞の激しいバンコクが更に交通規制で大変なことにはなっていた。

それらの様子を現地の学生やデモ参加者らが写真や動画を撮ってFacebookやTwitter、YouTubeにアップしているので、日本からでもアクセスし現地の様子をうかがい知ることはできるだろう。またタイで大人気のLINEで友人らと情報交換を行っていた。デモというよりは、あたかも「お祭り」という雰囲気であった。そしてバンコクには国内外からの観光客もたくさんいた。シラパコーン大学構内でデモのシャツを販売していた人が、日本人である私に「申し訳ないね。でもバンコクは安全だから安心してね」と声をかけてくれた。安全かどうかは場所によるが、デモの渦中には行ってないので、身の危険は一切感じなかった。

かつて2010年から2011年にかけて中東で起きた「アラブの春」ではソーシャルメディアが現地市民の情報伝達に大きく役立ったと言われていた。しかしタイのように既に多くの国民がスマートフォンを保有し、ソーシャルメディアを使いこなす社会では、自由な情報流通が行われているため、それらが社会変革に直接のインパクトを与えることは少ないかもしれない。それでもスマートフォンが広く普及し、ソーシャルメディアを自由に使いこなすタイの人々がデモの様子をアップしたり、情報交換のコミュニケーション・プラットフォームとしてそれらを活用していることには間違いない。

つまり、スマートフォンやソーシャルメディアが社会変革にインパクトを与えるというよりも、それらがなければ何もできないという状態であろう。「いつ、どこで」デモがあるから集まろうという情報、「現在どのような状況になっている」という情報、デモに巻き込まれないようにするための情報(どこの道が封鎖されていないから迂回できる等)、様々な情報がLINEなどで交換されている。スマートフォンやソーシャルメディアが完全にタイ社会のコミュニ―ケーション・インフラとなっていることがわかる。

まだまだタイではこのような状況が続く可能性があるようだ。旅行や出張の際は気をつけてください。

▼シラパコーン大学構内でのデモ前日の出店。"SHUTDOWN BANGKOK"と書かれたシャツ(200バーツ)を販売している。
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▼シラパコーン大学構内でのデモ前日のようす。説明会やシャツなどを販売している。
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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。