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OTTに依拠するシンガポールの通信事業者

2014.01.30

Updated by Hitoshi Sato on January 30, 2014, 17:00 pm UTC

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2013年11月19日、シンガポールの通信事業者Starhubは中国テンセントが提供するメッセンジャーアプリ「WeChat」専用のプリペイドのデータ通信プランの提供を開始した。1日利用で40セント(約32円)、1カ月で6ドル(約480円)である。それぞれ1日につき1GBまでシンガポール国内においてWeChatの利用が可能である。

また2013年8月にはシンガポール最大の通信事業者Singtelがメッセンジャーアプリ「WhatsApp」専用のデータ通信プランの提供を開始している。こちらは1日利用で50セント(約40円)、1週間で3ドル(約240円)、後半1カ月で6ドル(約480円)である。それぞれ1日につき1GBまでシンガポール国内においてWhatsAppの利用が可能である。SingtelではWhatsApp以外にもFacebook利用に向けても同様のプランを提供している。これらのメッセンジャーアプリはいわゆるOTT(Over The Top)サービスと称される。

シンガポールではほぼ全員がスマートフォンを利用しており、フィーチャーフォン利用者を探す方が大変である。また携帯電話の加入者数も830万以上であり、人口が約530万のシンガポールでは普及率も150%を超えている。これはプリペイドのSIMカードの販売枚数も含まれているからである。つまり1人で複数枚のSIMカードを保有している人や国外からの旅行者、ビジネスマンが購入するSIMカードの枚数もカウントされている。シンガポールは先進国なので、プリペイドとポストペイドの比率が50%ずつであり、周辺のアジア諸国と比べるとポストペイドの比率は高い。シンガポールでは街のあらゆるところで3G網への接続が可能であるし、あらゆるところでWi-Fiも充実しているので便利である。

シンガポールは飽和市場であるが、3社ある通信事業者間の競争は非常に激しい。さらにメッセンジャーアプリの台頭によって、ユーザーのSMS(ショートメッセージ)離れは深刻である。これはシンガポールだけの問題ではなく、世界中でSMSは今後も減少を続けていくことが予想されており、2013年には全世界で年間1,200億ドルだったSMS収入は2018年には967億ドルまで落ち込むとInformaは予測している。

SMSは通信事業者にとって重要な収入源であるから通信事業者としてもそれに代わるサービスや料金プランの提供を計画していかなくてはならない。通信事業者の事業の柱は「通信」であることから、ユーザーのコミュニケーションのプラットフォームがSMS(ショートメッセージ)からメッセンジャーアプリに代表されるOTTサービスに変化してきたのであれば、それらOTTを利用する際の「通信」に関わる料金プランをユーザーに提供することによってサービスの訴求を図ろうとしている。

一方で、シンガポールではWi-Fiも広く普及しているため、特定のメッセンジャーアプリを利用するためにプリペイドのデータ通信の料金プランに加入しなくともWi-Fiで事足りてしまう。また1日1GBまでの利用が可能とのことだが、メッセンジャーアプリでのやり取りの多くはテキスト、スタンプ、音声である。撮影した写真や動画を添付することもあるだろうが、1日で1GBは相当なデータ量である。メッセンジャーアプリがSMSに代わってコミュニケーション・プラットフォームの中心になってきたとはいえ、シンガポールの通信事業者が提供するメッセンジャーアプリ専用のプリペイド料金プランはどこまで浸透し、通信事業者にとってどの程度、差別化になるのだろうか。

【参照情報】
StarHubのプレスリリース
SingtelのWhatsAppのデータプラン

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。