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オープンデータ活用の可能性と課題が見えた、ユースケースコンテスト

2014.02.12

Updated by Yuko Nonoshita on February 12, 2014, 10:18 am UTC

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行政が保有する公共データを活用した既存サービスの高度化と新たなユースケースの創出を目的とした「オープンデータ ユースケースコンテスト」の表彰式が、東京・有楽町の東京国際フォーラムで2月7日に開催された。

本イベントは経済産業省と総務省の主催によるもので、昨年11月に、大阪、東京、松江の3か所で開催されたアイデアソンの活動を、より具現化したアイデアやアプリ開発につなげていくことを目的としたもの。社会課題の解決と利用するデータを行政に直接問い合わせることが応募条件として設定され、なおかつ応募期間が約1ヶ月という短い時間にもかかわらず、実際に作成されたアプリを対象としたアプリケーション作成部門に30作品、データの取得が間に合わず開発に至らなかったアイデアを対象としたオープン化推進部門は18件という、主催者の想定を越える応募数が集まった。

表彰式に先駆けて行われた2つの講演では、オープンデータの利用のみならずその運用において行政との連携がいかに必要かが、福井県鯖江市と島根県松江市の事例を通して紹介された。

「鯖江発!? オープンデータで始まる次世代Webの可能性」と題する講演で、jig.jp代表取締役の福野泰介氏は、2010年12月から市にオープンデータを提案し、その際に予算無しでまず実行し、市民との情報共有の重要性を受け入れてもらえたのが、「データシティ鯖江」と呼ばれる国内でも先端のオープンデータを進める自治体の誕生につながったと語る。

まずはシンプルに、小さく始めるのが良く、XMLデータ形式で公開するのが理想だが、難しい場合はどんなカタチでもいいからまず見えるようにし、必要性を感じてもらうことが大事だとしている。次にアイデアづくりだが、公開されたデータの内容を書いたカードを作り、ゲーム感覚で取り組むと、短時間で多彩なアイデアが出てくるという。アプリの開発については、行政を越えてより多くの技術者に参画してもらい、協業していくことが、日本のオープンデータ全体の発展につながるのではないかと提案した。

▼ヘッドマウントディスプレイを装着した姿で登場した福野泰介氏(jig.jp)は、次いでGoogleGlassに着替え、「拡がるオープンデータの波はこれら"電脳メガネ"のようなツールと連携してさらに発展していくだろう」とも語った。
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▼松江市では今回のコンテスト開催のきっかけとなったアイデアソンが開催された。
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表彰式は、アプリケーション作成部門の応募者の中から受賞対象となった8作品が、応募者によるプレゼンテーションで紹介され、その後、各賞が発表された。

技術賞には、ボーダリングという専門的なデータを活用した一般社団法人情報基盤テクノロジーズの「SVG版地下構造データ公開システム」と、千葉県浦安市の水道管の位置情報を視覚化したインディゴ株式会社の「Where Des My Water Go? 千葉県浦安市の場合」が選ばれた。

▼従来とSVGによる専門情報の提供方法の違いが評価された「SVG版地下構造データ公開システム」。
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▼水道管の位置情報というライフラインに直結する情報をわかりやすく見せることを課題とした「Where Des My Water Go? 千葉県浦安市の場合」。
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優秀アプローチ賞には、ゼンリン提供によるデータを元に土地勘がない人でも避難所の案内や安否情報が入力できる「LifeLine(仮称)防災システム」株式会社電通と、ゴミを捨てる日をアイテムごとに検索でき、なおかつポルトガル語にも対応した越前市ぷらぷらぽの「越前市ゴミチェッカー」が選ばれた。特に後者は、日頃の仕事で見えてきた住民の問題を越前市の職員が自らくみ取り、より使いやすいアプリの開発を目指した点が高く評価された。

▼「LifeLine(仮称)防災システム」は使いやすいシンプルなメニュー構成も評価された。
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▼職員が市民の声を元に開発した「越前市ゴミチェッカー」は他の自治体でも応用ができそう。
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理化学研究所の豊田研究室による「市民がつくる二次加工データの流通とデータクリエータ育成を支援する基盤アプリケーション LinkData.org」は、ポータルとしての利用価値の高さと、オープンデータの目利き役となる市民データクリエータという新たな専門家の創出と育成を提案したことから、急遽設けられた審査員特別賞を受賞した。

▼「市民がつくる二次加工データの流通とデータクリエータ育成を支援する基盤アプリケーション LinkDat.org」は今後、オープンソース化も検討しているとのことだった。
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優秀賞には、チームよこはまの東海道五十三次の浮世絵データとARを組み合わせたまち案内アプリ「東海道中ぶらり旅」と、AEDが必要な人と使える人を結びつける「AED SOS」アプリを開発したTeam AED SOSが選ばれた。いずれもデータの集め方も含めてトータルな完成度が高い点が評価された。
▼AR技術を取り入た「東海道中ぶらり旅」は、将来的には横浜以外のエリアの情報も取り込んでいきたいとしている。
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▼「AED SOS」は完成度の高さで群を抜いていた。
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最後に最優秀賞に選ばれたのが、明石工業高等専門学校の「NGY Night Street Advisor ~明るい夜道を案内する安心・安全な歩行者ナビゲーションシステム」だ。本アプリは、街灯の明るさや間隔と犯罪率の関連性を学校で研究したデータを元に、通常の道案内アプリの情報に街灯の位置を重ね合わせて表示し、どちらが安全かを自身で判断できるようにした。アイデアと開発力もさることながら、名古屋市から10万灯にも及ぶ街灯のデータを提供してもらった交渉力も受賞理由となっている。

▼前提となる課題が明確で、解消のために名古屋市から膨大なデータを提供するための交渉も成功させた明石工業専門学校の「NGY Night Street Advisor ~明るい夜道を案内する安心・安全な歩行者ナビゲーションシステム」が見事最優秀賞に選ばれた。
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▼アプリケーション作成部門受賞者の集合写真。
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なお、オープン化推進部門では以下の4つの優秀作品が選定され、内容については配布資料で紹介された。
・チームよこはま「観光・交通・住民生活を連携・融合するオープンデータプラットフォーム」
・Code for 議会「市民主体の政策形成のたんめの議会データレポジトリの作成」
・石巻ICT戦略会議「ISHONOMAKI LIFE ASSIST SERVICE]
・株式会社パスコ/セコム株式会社IS研究所/株式会社コミュニケーションシステム「国際基準に対応した地域情報提供サービス~オープンデータを活用したGISとBIMの融合~」

▼オープン化推進部門を受賞した4作品は資料のみ紹介された。
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オープンデータ公開のあり方まで議論が及んだパネルディスカッション

受賞結果の発表後に行われた審査員によるパネルディスカッション形式によるコンテスト総評では、まず、開発されたアプリをビジネスに結びつけるにはどうすればいいか、といったテーマで全体の進行が進められた。

たとえば優秀賞に選ばれた「AED SOS」はビジネス化を目指し、運用コストは管理費として行政から提供してもらうことを検討している。実現するには、明確な対費用効果として救急の実例が不可欠であり、さらにそのための自治体や救急医療に携わる専門家の協力が不可欠になる。パネラーからはすでに普及しているアプリとの連結や、企業の買い取りの可能性もあるのでは、という意見もあった。実際のところ、カリフォルニアで同様の機能を持つ「PulsePoint」というアプリが開発、公開されており、アメリカ国内の自治体での採用が少しずつ拡がっていることから、日本でのビジネス化も期待されるところである。

明石高専の街灯アプリもデータ集めの点で苦労しており、優秀なアプリの場合、経済産業省や総務省から推薦して実用化を促進すればいいのでは、といった話にまで拡がった。このように、後半はオープンデータの公開のあり方そのものに対する課題について議論が進んだ。

越前市のゴミチェッカーアプリは、まず社会課題ありきで、解決するためのデータをオープンにしていくという流れで開発が進められたのは大きい成果であった。つまり、何でもいいからデータを公開するよりも、求められるデータだけを公開すれば手間もコスト減らせる。その場合、具体的にデータを要求する専門家が必要で、理研の提案する市民データクリエータのニーズは高いといえる。

次のステップとして大事なのは、やはり理研のLinkDate.orgのようなポータルの存在である。政府はすでにオープンデータのポータルサイトを公開しはじめているが、事例を共有し、リソースを活用できるようアドバイスもできる、総合的なプラットフォームの構築が必要で、具体的には、開発ができる人たちのコミュニティとビジネスにつなげる人たちをマッチングする、マーケットのようなものも必要ではないか。パネルディスカッションでは、小さな行政が負担を分散するにはコミュニティの協力は欠かせないものであり、少しずつそうした活動を始め絵いるという意見も聞かれた。

▼後半のパネルディスカッション形式によるコンテスト総評の登壇者。(右から)審査委員長の庄司昌彦氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター/Open Knowledge Foundation Japan)、藤村良弘氏(Open Knowledge Foundation Japan)、関本義秀氏(東京大学)、福野泰介氏(株式会社jig.jp)、関治之氏(合同会社Georepublic Japan)、花形泰道氏(松江市)、醍醐恵二氏(浦安市)、和田恭氏(経済産業省)
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今後は、表彰されたアプリが実用化につながるかが大きな課題であり、その点については今後も継続して取材を続けていきたい。

【参照情報】
オープンデータ ユースケースコンテスト コンテストの概要と応募内容など。
オープンデータ ユースケースコンテスト 表彰式表彰式当日のプログラム。
オープンデータ アイデアソン ユースケースコンテスト開催の前に実施されたアイデアソンに関する情報。
LinkData.org 審査員特別賞受賞作品。
AED SOS 優秀賞受賞作品。
PulsePoint AED情報とそれを使う人のマッチングを目的にカリフォルニアで開発されたアプリ。

【修正履歴】
2/13 22:50 公開当初、PulsePointをイギリスで開発されたアプリと紹介していましたが、正しくはカリフォルニアで開発されたアプリでした。お詫びして訂正いたします。(本文は修正済み)

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。