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音楽著作権事業者「JRC」、放送分野の著作権管理に参入と聞いて、行ってきました。

2015.02.28

Updated by Yoshiko Kano on February 28, 2015, 13:45 pm JST

バレンタイン・デーの朝日新聞、社会面に大きく「株式会社ジャパン・ライツ・クリアランスが放送分野の著作権管理に参入」との報が出て、おおーっという感慨と感動がさざ波のように胸に迫って参りました。

株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス(以下、JRC)は2000年に設立された、音楽の著作権管理事業者です。音楽プロダクション、アーティストマネージメントオフィス、プロダクション系音楽出版社などが集まって始まった管理事業者というのが特徴です。(参考:JRCとは http://www.japanrights.com/right/about.html

JRCの取り組みの中でも通信分野で特に注目度が高かった、YouTubeとの包括契約をいち早く実施したことについては、ご存じの方も多いと思います。(参考:JRC、YouTubeと音楽著作権の包括利用許諾を締結、AVwatch 2008年3月27日 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080327/jrctube.htm

これまでは「録音権(CD/DVD などへの録音)」と「インタラクティブ 配信(楽曲ダウンロードなど)」の著作権管理を行ってきたJRCですが、今回新たに放送分野に於ける音楽著作権管理に参入することになったのです。

JRC ではこれまで、「録音権(CD/DVD などへの録音)」と「インタラクティブ 配信(楽曲ダウンロードなど)」における管理を行ってまいりましたが、放送事業者による「見逃しサービス」や「放送番組のネットへの同時再送信」などが 増加するといった「放送と通信の融合」が進む現状に対応し、最新テクノロジーを活かした新しい時代の著作権管理のルール作りを推進することを目指し、 放送分野における著作権管理を開始することといたしました。

引用:株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス 本年 4 月より放送分野における音楽著作権管理へ参入 〜坂本龍一、浜田省吾、スピッツ、SID らの作品から管理開始〜(ジャパン・ライツ・クリアランス、2015年2月14日プレスリリース)
http://www.japanrights.com/release/release20150214.pdf

さて、この記事を読んで、わたくし、どうしても知りたい疑問が出てきてしまいました。

それはズバリ、「どうやって数えるんですか?」ということです。

JRCはこれまでずっと「数える」ということにすごくこだわってやってこられた事業者、という認識でした。通信のレイヤについては、再生回数など可視化されていますし、「数える」というイメージがわかりやすい。でも放送業界というのは、アナログなようなイメージがありまして、だからこそ今までJASRACとの間では包括契約を結んでいたのだろうと推察するわけです。そんな中で、「数えること」にずっとこだわってきたJRCが「放送業界に参入する」と、発表する。これにはきっとなにか確証があるんだろうなと思いながらも、それについて各社の記事では一言も触れられてなかった。それですごく気になってしまった次第です。

そんなわけで、社長の荒川さんに疑問を解消して頂くべく、機会を頂戴しました。

201502jrcarakawa.png

疑問:どうやって、利用楽曲のデータを、数えるのでしょうか?

荒川「ここ数年で『利用楽曲の全曲報告をする』という方針で動いている放送局がすごく増えてきています。これは放送業界とJASRACとが推進してきた動きによるものです。

全曲報告を可能にしているのは、ひとつにはフィンガープリントによるマッチング技術の精度の向上が挙げられます。それからラジオなどの場合、一時間の尺の中でDJが何分喋って、最初にこの曲をかけて、次にこの話題にふって、ゲストが来て、ゲストの新アルバムからこの曲とこの曲とこの曲を3曲紹介する......といったようなことが、デジタルキューシートに書いてあって処理される、そんなケースも増えています。またFM局だとNow on Air情報をWEBで出したりとかしていますよね。そういった技術やデータを積み重ねていくと、比較的高い精度の「利用実績ログの捕捉」が出来る環境が徐々に整いつつあります。そういった状況を元にして放送分野の管理を開始しよう、ということです。

そのような技術的に裏付けされた環境が整いつつあると、ということもありながら、同時に「今やらねばならぬ」という状況も生じているのではないかとも思っています。それが、いわゆる『放送と通信の融合』というところです。

例えば、放送局では「放送番組」を作って、放送波に乗せて流します。それを再放送したり、地上波で流したものをCSで放送したり、海外の放送局に番組販売をしたり......など、いわゆる放送波の中における別ウィンドウみたいなものはありますが、多くの場合「放送」の中で完結している現状があります。しかし、この状況が少しずつ変わり始めている。例えば見逃しサービスの『NHKオンデマンド』では、サブスクライバーだったらここまで見られます、一本当たり幾らで見られますよ、という風になりつつありますよね。放送局によっては自らがコンテンツをYouTubeにアップするようなところもあるし、Huluのような映像配信に特化しているサブスクリプションサービスに出しているところもあります。更に、現在放送しているものに限らず、過去のコンテンツも徐々に増やしている。またラジオでは「radiko.jp」やNHKの「らじるらじる」などでは同時再送信していますよね。

放送番組で流したものを、放送レイヤーでリクエスト・オン・デマンドサービスを提供するというのはまだ難しいですが、通信の世界に入れば技術的には比較的容易に出来ます。その結果、放送と通信というものが、掛け声だけではなく、実態として融合してきていると認識しています。放送コンテンツが通信のドメインにおいて使われるケースというのはすごく増えてきているんです。JRCでは配信の部分は既に管理をしています。ただ、配信で使われている曲が放送で使われている時は、今までであればJASRACが徴収をしていました。だけれども、放送と通信が極めてシームレスになってきている今、通信の部分の管理だけを一生懸命やって精度を高めても、実態とどんどん乖離していく恐れがあります。

特に今年は、映像系であれば「Netflixが秋にも来るかもしれない」とか、音楽系でも「Spotifyがリリースされるかもしれない」など、コンテンツのディストリビューション環境が大きく変わる、ひとつの節目の年だと考えられます。だとすれば、音楽著作権管理事業者として、放送に関しても今から管理をスタートしておくべき、と考えたのです。

放送局側からみると、現在番組を放送した場合の楽曲利用...音楽著作権についてはJASRACとの包括的契約に基づき利用し、レポートして終わるということが殆どです。同じ番組コンテンツを「オンデマンドで使います」「サイマル放送します」という場合には、同じコンテンツで同じ音楽が使われていても、それがJRC管理の楽曲であれば、JRCとの許諾契約が必要になり、放送とは別の手順によるレポートが必要になります。ただし、放送利用と配信利用、どちらの場合でもJASRAC管理の楽曲...要は全ての利用形態においてJASRACが管理を行なっているといった場合であっても、放送と配信で別の契約と別のレポーティングが必要になってくる、ということも事実ですが。

放送事業者のように多くの著作物を継続的に利用する利用者にとっては、例えば放送と通信......サイマルの部分、オンデマンドの部分、無料の部分、有料の部分、というような様々な状況において、「ワンストップで広い範囲の利用許諾が出る」という状態は、望ましい状況の一つなんだろうと思います。我々としても、そのようなルールを確立していくという事は、利用者の利便性を向上させ、同時に権利者に対しても透明性を担保していくということにつながることになるので、そういった意味からも今回の放送分野における著作権管理というアクションは、たいへん重要な意味を持っていると認識しています。

それから放送局の方々とお話していると、「支払った以上はそれを適正に権利者・アーティストに分配して欲しい」という声をよくお聞きします。配信の分野においては、そのあたりが比較的うまくまわっているように見えているようで、放送分野においてもログに基づく透明度の高い、そんな仕組みづくりが出来るのではないか、と思われている放送局の方が増えているようにも認識しています。

視聴者の立場になってみれば、今自分が見ているコンテンツが電波で飛んできているのか、ケーブルで来ているのか、意識しないですよね。『え、おまえコレ、DVDだったの? 地上波テレビだと思ってたよ』『いやいや、これはHuluっていってさ...』などというように、見る人には「経路」はあまり関係無いわけですよね。技術的、インフラ的に、もしくはプレイヤーによって著作物の価値が変わるという状況は、視聴者の立場にしてみればピンとこないというのが正直なところでしょうね。

そういった様々な視点から捉えると、今後放送と通信がどうなっていくのか、そこにコンテンツがどのようにのってくるのか、権利的に契約的に何が必要なのか、もしくは何が不要なのか・・・ということを考えていくことが、長い目で見て音楽産業の為になるし、コンテンツを作り出していく人たちの為になる、と考えています」

ジャパン・ライツ・クリアランス代表取締役の荒川社長、お忙しい中、お時間を頂戴しまして有り難うございました! 今後のご活躍もウォッチしていきたいと思います。

合わせて読みたい:
JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く (ITmediaニュース、2008年05月12日)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0805/12/news030.html

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かのうよしこ

青山学院大学史学科、東京藝術大学声楽科、京都造形芸術大学ランドスケープデザインコースを卒業。京都造形芸術大学大学院芸術環境専攻(日本庭園分野)修士課程修了。通信キャリアにてカスタマサービス対応並びにコンテンツ企画等の業務に従事、音楽業界にてウェブメディア立ち上げやバックヤードシステム開発、コンサート制作会社での勤務を経て、現在はフリーのヴォーカリスト、ヴォイストレーナー、エディター、ライター。
http://kanoppi.jp