Here, There and Internet Everywhere

2014.02.21

Updated by yomoyomo on 2月 21, 2014, 09:30 am JST

旧聞に属しますが、先月開催された国際的な家電見本市コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)は、「ポスト・スマートフォン」というべき、キーデバイスとしてのスマホとの連携を前提とした「スマート○○」の取り組みが多く見られました。

もっとも分かりやすいところではスマートフォンを使った家電操作によるスマートホーム、Google Glass に続けとばかりに数多く展示されたグラス製品やスマートウォッチに代表されるウェアラブルデバイス、コネクティッドカー(今年の CES に先立ち、Google は自動車の Android 化を目指す Open Automotive Alliance の結成を発表しました)、モバイルヘルスなどいろいろ挙げられますが、このトレンドを強引にまとめれば、これまでネットワーク化されてなかったモノがすべてつながる時代の到来といえるでしょう。

今回の CES を受けて改めて注目を集めたのが IoT(Internet of Things)という言葉で、それを象徴したのが、SD カード大の超小型コンピュータ Edison を発表し、IoT、ウェアラブルデバイスへの布石を打った Intel のブライアン・クルザニッチ CEO の基調講演でした。

さて、この IoT という言葉ですが、それ自体は結構前から言われていた言葉で、またそれを言うなら「モノがすべてつながる時代」みたいなスローガンにしても同様です。それがようやく真面目にとられるだけの条件が揃ったとも言えますが、この言葉が今まで流行らなかったのは、どうもこの IoT という言葉のすわりの悪さにも原因があるように思ったりします。日本におけるネット家電のパイオニアである Cerevo の岩佐琢磨さんが語るように、IoT よりも「コネクテッドハードウェア」のような言葉のほうが分かりやすい気もしますし、過去には Economist で Thingternet という言葉が提唱されたこともありました。

余談ですが、この「すわりの悪さ」は IoT の訳語である「モノのインターネット」にも言えることで、例えば後藤弘茂氏は「最低の翻訳」と語っています。ただこれだけ IoT、並びにモノのインターネットという用語が使われ出すと、違和感をはらみながらも定訳になるのかなとも思います。

少しややこしいのは、IoT とまったく同じではないが多分に重なるものを指す言葉が他にもあることで、例えばネットワークにつながった機械同士が直接相互通信を行い、最適な制御を行うシステムを指す M2M(Machine-to-Machine)も IoT と同じく以前から言われてきた用語です。

IoT はどちらかというと消費者が直接使用する家電などがセンサーやネットワーク機能を備えたものを指し、M2M は産業機器であったりもう少し工業的なシステムを指す場合に使われるイメージが(ワタシ的には)ありますが、特に後者についてはゼネラル・エレクトリック(GE)が2012年にインダストリアル・インターネット(Industrial Internet)という言葉を提唱しており、海外ではこれもそこそこ広まっている言葉です。

最近の GE というと軍需産業や航空宇宙産業など重工業の会社というイメージがあり、ネット企業とは縁遠い存在に思えますが、GE はこの「インダストリアル・インターネット」という言葉を打ち出すとともに、「製造業はインターネット業界にいなければならない」と宣言し、シリコンバレーにソフトウェア開発センタを設立するなど、ネットワークとソフトウェアに積極的な投資を始めました。

そして昨年末には、GE のジョン・ライス副会長が、「ソフトウエアの会社としても(グローバルで)上位15社に入るのではないか」というところまできているわけですが、GE の「インダストリアル・インターネット」とは、産業機器からセンサーにより収集される(ビッグ)データを運用・保守ソリューションに活かすスマートな機器のネットワークを指します。が、こういった説明をグダグダするよりも、一部の人には「コマツの KOMTRAX みたいなもの」と言ったほうが通りがよいかもしれません。

GE は「1%の力」という表現をよく使いますが、産業機器が予測機能(アナリティクス)を持ち、障害を予防して機器のパフォーマンスを1%でも改善するなり、コストを1%でも節約できれば、年間利益を数百億ドル増やすことができると言います。たった1%の改善でもそれだけ額がデカくなるのは GE が扱うブツの規模ゆえですが、センサーによるデータのリアルタイム解析は、重工業だけでなく、やはり GE が手がける医療分野にも応用できるわけです。

ここまでいろいろ略語や造語を取り上げてきましたが、世界最大のネットワーク機器メーカーである Cisco Systems は、IoT や M2M(そして明言していませんが、おそらく「インダストリアル・インターネット」も)を包括する概念として Internet of Everything(IoE) という言葉を提唱しています。

ここまでくると「言ったもん勝ち」にも思えますが、Cisco は早くから IoT 分野に投資してきた企業であることは確かで、例えば4年前に主催した賞金25万ドル(!)のグローバルイノベーションコンテストでも IoT とソーシャルメディアの融合というべきアイデアが受賞しています。

何より Cisco は世界最大のネットワーク機器メーカーであり、PC やスマホ主体のブロードバンドインターネットとは比較にならないほど低速で低品質なネットワーク上で、やはり PC より遥かに低スペックな機器が通信を行うための規格作りに IETF において取り組んでいる実績があり、今年の CES においてもジョン・チェンバーズ CEO が基調講演を行い、人、プロセス、データ、モノをネットワークでつなぐ IoE のヴィジョンを語り、スマートシティのデモを行っています。

それでは最後に IoT、M2M、インダストリアル・インターネット、そして IoE 方面についてお勧めの文献を紹介しておきます。

201402200930-1.jpgまずインダストリアル・インターネットについては、オライリー本家がズバリ『Industrial Internet』という電子書籍を無料でおよそ一年前に公開しています(PDF や ePub もオライリーのサイトから入手可能)。近年オライリーは、ビッグデータなど旬の話題についてはコンパクトな無料の電子書籍を素早く公開して同社が主催するカンファレンスへの導線にしていますが、この分野もそうした旬の話題にみなされたのでしょう。

この本を貫いているのは、ソフトウェアと物理世界の間の障壁がなくなりつつあるところまできて、抽象化されたソフトウェアが物理世界にアクセスできるようになり、インダストリアル・インターネットが可能になったという視座であり(マーク・アンドリーセンのソフトウェアはすべての産業と仕事を大食いしている論そのものではないにしろ、近いものがあります)、「インダストリアル・インターネットを生み出す中でのシリコンバレーの役割」というタイトルの章があるところがオライリーらしいです。

201402200930-2.jpgもう一冊は Cisco の方々による『Internet of Everythingの衝撃』で(ワタシが読んだのは Kindle 版)、この方面を網羅した日本語の本となるとこれだけではないでしょうか。

「2000年に約2億のユーザーがインターネットにつながっていたが、これまでのPC主体からモバイル/クラウドへのシフトにより、2013年にはこの数字は地球の人口を上回る100億近くまで増加し、2020年には500億以上へ爆発的に成長する」という予測には少しのけぞりますが、Cisco は IoE を「水平統合されたIoT/M2Mの基盤の上で「人」「もの」「データ」「プロセス」がつながり、連携して新しい価値を創造する世界」と規定しており、人やモノから収集されるデータの処理のプロセス化、そしてデータのリアルタイム分析により価値(情報)を得ることが重要と考えています。

その情報収集とデータ処理のプロセス化を担うのが、それぞれ「センサー」と「クラウド」になるわけですが、興味深いのは IoE のような多種多様なデータを扱うシステムでは、すべてをクラウドで中央集権的に処理するのでなく、ネットワークエッジにインテリジェンスを置く「フォグコンピューティング」を提唱しているところです(ここでの「フォグ」は「霧」のこと)。

当然ながらというべきか Cisco 製品への誘導はありますが、「センサーからクラウドにビッグデータ集めて一件落着っすわ」的大雑把な話でなく、ネットワークについてそれこそエッジの部分まできちんとした考察がなされているのに好感を持ちましたが、最後に著者紹介を見て、本書の第4章を執筆されたのがかつて私淑していた坂根昌一氏であることに気付いて驚きました。

その坂根氏が公開しているスライドも IoT/M2M/IoE 周りを理解するのに有用な資料ですのではりつけておきます。

IoT関連技術の動向 Sep-2013 from Shoichi Sakane

天邪鬼なワタシとしては、インダストリアル・インターネットなり IoE なりで生み出される価値という光の面だけでなく、モノがインターネットにつながってセキュリティは大丈夫なのか? 集められたデータのプライバシー問題はどうなる? といった問題についても論じたいところですが、もう十分長くなったので、その話題はいずれまたの機会にさせていただきます。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。