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楽天のViber買収:「楽天経済圏」への足掛かりとしてのメッセンジャーアプリ

2014.02.21

Updated by Hitoshi Sato on February 21, 2014, 18:44 pm JST

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日本を代表するインターネットショッピングモールを運営する楽天は2014年2月14日、メッセンジャーアプリ「Viber」を提供しているキプロスに本拠地を置くViber Media Ltd.の発行済全株式の取得及び新株発行の引受を行い、総額9億米ドルで取得することを発表した。

Viberはイスラエル人のタルモン・マルコ氏とイゴール・マガジニック氏が設立し、2010年12月からサービスを提供開始した。Android、iOSのスマートフォン以外にもWindows Phoneやブラックベリー、シンビアンなどにも対応している。日本ではメッセンジャーアプリは「LINE」が有名だが、Viberは全世界で約3億人の登録ユーザ(月間アクティブユーザーは1億500万人)が存在し、現在でも1日当たりのユニークユーザーが55万人増えている。世界的に見ても「WhatsApp」や「WeChat」と並ぶ有名なメッセンジャーアプリである。世界各国に利用者が存在し、現在その内訳は以下の通りである。

▼Viber 利用者の地理的分布
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(楽天発表資料を元に作成)

コミュニケーションの入り口をおさえた楽天

2013年末時点で、楽天グループ会員は日本の楽天会員が約9,000万、海外でのEC事業における会員が約6000万、電子書籍事業のKoboが約1,800万、動画サイトVikiの月間利用者数が約2,800万で合計すると約2億に上る。これに今回のViber利用者約3億が追加され、全世界での楽天グループ利用者が5億に達する。楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長は、新たな楽天のグローバル戦略の一環としてViberの買収を位置付け「楽天経済圏の拡大に寄与する」と語った。

Viberは全世界で3億ユーザーが利用しており、その使い勝手は日々のメッセージのやり取りである。つまり、利用している人にとっては毎日目にするコミュニケーションのプラットフォームなのである。現在では欧米のような先進国だけでなく新興国においても従来のショートメッセージ(SMS)によるコミュニケーションから、メッセンジャーアプリへとコミュニケーションのツールが移行しつつある。特にViberは新興国で人気が高いノキアの従来型携帯電話(S40対応のフィーチャーフォン)でもサービスを提供していることから、その裾野は広い。

このチャネルをおさえるということは、世界中の消費者とのコミュニケーションの入り口をおさえたことになる。現在は通話とテキストというメッセージのやり取りが主流であるViberだが、このコミュニケーションプラットフォームを通じて、従来のメッセージサービス以外にもゲームやコンテンツなどの販売を行っていくこともできるだろう。

メッセージのやり取りだけでは儲からないことは楽天も承知しているだろう。楽天としては全世界3億ユーザーのコミュニケーションの入り口をおさえることによって、将来そこを経由して様々なコンテンツ配信やEC事業の拡大に繋げていきたいところだろう。特にメッセンジャーアプリが大人気の新興国市場への足掛かりとしてViberへの期待は大きい。

競争が激しいメッセンジャーアプリ市場とViberのアクティブユーザー数

一方で、どのメッセンジャーアプリも基本的に無料でダウンロードできるため、ユーザーも1人で複数のメッセンジャーアプリを使い分けている。つまりViberである必要はなく、またViberがなくとも他に代わりのメッセンジャーアプリがたくさん存在している。

Viberも3億人のユーザーを抱えていても、彼らのほとんどは無料でしか利用していない。またViberの1か月の月間アクティブユーザーは1億500万人とのことである。つまり登録しているが、1か月のうちに利用しているのは半分以下ということである。Viberを利用するには電話番号の登録で開始できる。しかしプリペイドが主流の新興国ではSIMカードを購入するたびに電話番号が頻繁に変更される。プリペイドのSIMカードを購入して、差し替えるたびに電話番号が変わり、そのたびにViberを登録している人もいるだろう。つまり1人が複数の電話番号で何回かViberを登録していることが、アクティブユーザーの少なさの要因ではないだろうか。

さらに他にも乱立しているメッセンジャーアプリを利用しているため、Viberをダウンロードはしたけど、もう利用していないというユーザーが多いのかもしれない。そのため、Viberを入手したからといって本当に最大3億のユーザを入手したといえるのだろうか。とはいえ、それでも1か月に1億500万のアクティブユーザーは相当に大きい。

世界中で新たなコミュニケーションプラットフォームとして確立されてきたメッセンジャーアプリは非常に競争の激しい市場である。広告が多かったり、使いにくいとユーザーはすぐに違うアプリに移ってしまう。楽天の配下になったViberは今後、どのようなサービスで差別化を行い、世界中のユーザーがどのように受け入れるのか注目である。

【参考動画】
楽天のViber買収を伝えるCNNニュース。

(参照)
楽天のリリース
Viber
Viber Sold For $900M; Has 105M Monthly Active Users - MediaNama

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。