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2020年に向けたMVNOの課題とは -MVNO2.0フォーラム開催

2014.03.07

Updated by Asako Itagaki on March 7, 2014, 19:15 pm JST

3月6日、総務省及び一般社団法人テレコムサービス協会(以下テレサ協)MVNO委員会は「MVNO2.0フォーラム」を開催した。移動体通信契約者数は約1.5億件、そのうちMVNO契約者数は1257万人にのぼるが、うち約半分はMNO間の通信ネットワーク相互利用であり、本来の意味でのMVNOのシェアは約4%にとどまる。このような現況の中、移動体通信料金の低廉化や、特に2020年の東京オリンピック・パラリンピックをターゲットにしたサービスの多様化など、MVNOに求められる役割と課題について議論が行われた。

▼MVNO市場の現状(テレサ協MVNO委員会委員長 内藤俊裕氏のプレゼンテーション資料より)
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開会の挨拶に立った上村陽子総務副大臣は、モバイル市場は売上高10兆円を上回る裾野の広い産業であり、活性化そのものが日本の成長と国民生活向上に重要な役割を担うと考えていること、MVNOには競争促進による料金の多様化・低廉化と新たなビジネス創出、また2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて特に外国人のICT利用環境の向上といった点での貢献を期待しているとして、「2020年代を視野に入れて革新性あふれるモバイルサービス創出に取り組んでいただくことを総務省も積極的に後押ししたい」と述べた。

MVNO市場発展のためには市場と政策のバランスが重要

基調講演に登壇した三菱総合研究所の西角直樹主席研究員は、世界のMVNO事情とSIMフリー端末のインパクトについて考察。契約者に対するMVNO契約者の比率は北米や欧州では10%を超えているが日本はまだ成長の余地が大きいこと、韓国では2010年に関連法令を整備してからMVNOが急成長し、2013年にはシェア4.5%まで急成長したことが紹介された。SIMフリー端末については、ただちに市場に大きなインパクトを与えるものではないが、「端末のネットワーク中立化」「MVNO普及・定着の足掛かり」「キャリアからユーザーへのパワーシフト」といった大きな構造変化の予兆である可能性もあるとした。MVNO市場を発展させるためには、市場(ビジネス)政策(規制)のバランスが重要であり、従来通りの通信サービスと端末を一体型提供するMNOに対して、MVNOは市場の補完やMNOがリーチできない市場、新たなサービスなどのイノベーションを提供することで、エンドユーザーに対しては選択肢の多様化と料金の低廉化を実現し、セーフガードとして規制が作用するのが望ましい形であるとした。

▼基調講演に登壇した三菱総合研究所 西角直樹氏(左)と、ジャーナリストの石川温氏
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同じく基調講演に登壇したジャーナリストの石川温氏は、「ドコモのツートップ戦略をきっかけに、日本のキャリアと端末メーカーの関係が変化した」と指摘。グローバルメーカーを中心にSIMフリーやマルチキャリアでの発売が増えてきているが、日本メーカーも京セラとパナソニックが法人市場向けにSIMフリー端末を発売するなど新しい動きがあることを紹介した。また、MVNOの普及のための課題としては「(MNOの)適切なキャッシュバックの見直し」「MNOに競争環境が必要」「本人確認の緩和」「技的マークの緩和」の4点を挙げた。特にキャッシュバックについては「MNPで数万円もらえるのであれば、わざわざSIMフリーの高い端末を買う人はいない。端末の実力が正しく評価されないという状況はよくないのではないか」また技適にっついては、「海外で普通に使われている端末を(技適を通過していないという理由で)利用できないことで、アプリの開発などにいち早く進出する機会が失われる状況はもったいない」と問題点を具体的に指摘した。

「適切なキャッシュバック」はやめられないチキンレース

後半のパネルディスカッションでは、西角氏と石川氏に加え、IIJの島上純一常務執行役員ネットワーク本部長、テレサ協MVNO委員会委員長でNECビッグローブの内藤俊裕取締役執行役員常務、日本通信の福田尚久代表取締役副社長、NTTドコモの吉澤和弘取締役常務執行役員経営企画部長、KDDIの藤田元理事 渉外・コミュニケーション統括本部 渉外・広報本部長、ソフトバンクモバイルの徳永順二常務執行役員渉外本部長が登壇。大手MVNOとキャリア3社による議論が行われた。

▼MVNO事業者。左から、IIJ島上氏・NECビッグローブ内藤氏・日本通信福田氏
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▼キャリア3社。左から、NTTドコモ吉澤氏、KDDI藤田氏、ソフトバクモバイル徳永氏
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モデレーターの日本経済新聞社 関口和一論説委員は、MVNO普及を目指さなくてはいけない理由として、「新規参入事業者を呼び込み、多様で新しいサービスを作ること」「競争により料金の低廉化を図ること」をあげ、現状まだ日本ではデータ通信専用契約まで含めても7-8%にとどまるMVNO比率を上げるためには商慣習の課題と政策・制度面の課題があると整理した。

商慣習の課題については、主にキャッシュバックの問題について議論が行われた。MVNO側から、日本通信の福田氏は、「一番の問題は規制がきちんと運用されているのかという点」と指摘。現状のMNPに対する多額のキャッシュバックは、本当にそのお客様から得られる収益を原資にしているのか、独占禁止法や景品表示法などの規制を本当にクリアしているのかという問題提起をした。

また、IIJの島上氏は、キャリアと端末メーカーが一体となって進化してきたフィーチャーフォンと異なり、スマートフォンはキャリアと関係なくさまざまな端末が利用できるようになったことを指摘。「海外のデザインがいい端末を使いたいと思ったときに、キャリアのプランは端末がセットになっており、有限な資源である電波を端末とバンドルして大幅に値引きするというやり方は本当にイーブンなのか、という点では不満がある」と述べた。

これに対してキャリア側からNTTドコモの吉澤氏は、「キャッシュバックは1月・2月で積み増しされている状況で、MVNO阻害要因の一つであることは間違いないが、スマホシフトが想定よりも減速しつつある状況下で、年間で一番の商戦期に少々加熱しすぎているという認識は持っている」と回答。KDDIの藤田氏は、「この局面で、キャリアがしのぎを削りすぎているのはあるかもしれないが、代理店のことを考えるとすぐには商習慣は変えられない。決していいとは思っていない」、ソフトバンクモバイルの徳永氏は、「インセンティブを過剰に払いたい会社はないが、通信サービスの宿命としてスケールメリットがある。今は3Gから4Gの移行期で、各社ともスマートフォンのパイを広げたいので、年度末で過剰なところはある」とそれぞれ述べ、各社とも現状は過熱しすぎていると認識しているものの、競争を考えるとやめられない状況であることをうかがわせた。

「本人確認の穴」をふさぐ制度はあるのか

▼ディスカッションの様子
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制度については、本人確認の緩和が議論の中心となった。ドコモの吉澤氏は、本人確認ができていない携帯電話が犯罪に使われる可能性を指摘した。現在は電話だけではなくLINEなどのOTTのサービスが使われるケースもあり、必ずしも電話番号が犯人の特定につながらないケースがあるという意見に対しては、「そういう意味では電話だけではないが、誰がその電話を持っているかという契約情報は一対一ではなくてはいけないと考えており、駅で気軽に売るというわけにはいかないと考えている」と強調した。

ソフトバンクモバイルの徳永氏は、「契約はコンビニやネットで簡単にできる方がいが、犯罪防止とのバランスをどうするかは3キャリアだけで要望するのではなく、議論の結果出てきたソリューションに我々が対応すればいいと思っている」と、本人確認も含めた契約のありかたについては社会的問題として議論してほしいという立場を表明した。

これに対して石川氏は、海外ではパスポートの提示とホテルの住所でSIMカードが購入できるので、「こうして海外で購入したSIMカードを国内でローミングサービスで接続し、OTTのサービスを犯罪に利用することができるのではないか」と指摘。このような状況下で、日本でだけ厳密な本人確認をすることに意味があるのかという疑問を提示した。

また、NECビッグローブの内藤氏は、現在の本人確認では犯罪者による本人が特定できない形での携帯電話の入手は完璧に防げるわけではないにもかかわらず、固執することで失われるものと得られるものの大きさを国民的に議論すべきだとした。IIJの島上氏は、「090の電話番号には社会的信頼性があるので、ただちに本人確認をやめてもいいことにはならない」としつつ、本人確認のないデータ通信専用SIMやWi-Fi通信といった「穴」があいている状況下でアプリ上で犯罪が発生している現実をどう考えるかが重要であるとした。

政策提言内容をどう実現するかが今後の課題

テレサ協MVNO委員会では、3月5日に、「MVNOの事業環境の整備に関する政策提言」を提出している。

▼提出した政策提言の内容(「MVNOの事業環境の整備に関する政策提言」(概要)より抜粋) ※クリックして拡大
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MVNO委員会委員長の内藤氏は、「この提言をどう実現するのかがこれからの課題になるので、皆さんのご支援ご協力をいただきながら、より良い移動体通信環境を作っていきたい」と挨拶し、フォーラムを締めくくった。

▼事前に投票を受け付けていたキャラクターコンテストは、「しむし」が最高得票を獲得した。
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【関連情報】
MVNOの事業環境の整備に関する政策提言の公表について(テレコムサービス協会)
総務省とテレコムサービス協会がMVNOをテーマにフォーラムを開催

 

※修正履歴
本文中にて、「IIJ島上氏」と書くべきところを、一部「IIJ島村氏」と誤記しておりました。お詫びして訂正いたします。(本文は修正済みです)(2015/6/2 22:00)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。