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北朝鮮の携帯電話事情(4) - 北朝鮮のスマートフォン「Arirang AS1201」の全貌が明らかに

2014.03.10

Updated by Kazuteru Tamura on March 10, 2014, 07:23 am UTC

朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の国営メディアである朝鮮中央通信は初の北朝鮮産スマートフォンとして「Arirang AS1201」の存在を明らかにしている。情報統制が厳しい北朝鮮ではスマートフォンのような情報端末はリスクにもなり得るが、指導者が現地指導をしたとして画像付きで大々的に報じられた。北朝鮮国内のみならず海外向けにも報道されたこともあり、その存在は日本や北朝鮮を含めた世界で広く知れ渡った。これまでは詳細が謎に包まれていたArirang AS1201であるが、北朝鮮へ渡航した際に入手して持ち帰ることができたので、その全貌をここで明らかにする。

▼CHEO Technology本社が入るINTERNATIONAL COMMUNICATIONS CENTREをバックにArirang AS1201。
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北朝鮮では唯一の移動体通信事業者であるCHEO Technologyがサービス名をkoryolinkとしてW-CDMA方式で移動体通信サービスを提供している。CHEO Technologyの本社が入るビルを訪問した際に、本社併設の販売店で入手することができた。価格は日本円換算で約41000円に設定されており、koryolinkのラインナップでは最も高価である。koryolinkのラインナップでは最上位かつフラッグシップという位置付けになっている。

ベースはUniscope Communicationが中国市場に投入したUniscope U1201である。化粧箱にはブランド名とモデル番号がプリントされている。아리랑(Arirang)がブランド名で、AS1201がモデル番号となる。5月11日工場とのプリントも見られ、開発から出荷までの工程において、何らかの作業を北朝鮮の5月11日工場で行っていることを示唆している。カラフルなリアカバーが掲載されているので他色展開にも見えるが、本体のカラーバリエーションは黒色のみである(※2014/12/24追記:後に本体が黒色以外のカラーバリエーションも追加されている)。標準パッケージにはスマートフォン本体、電池パック、リアカバー、ACアダプタ、USBケーブル、イヤホン、取扱説明書、保証書が含まれていた。外部メモリとしてSanDisk製のmicro SDHCカード(8GB)も付属しており、予めスマートフォンの本体に装着されていた。このmicroSDHCカードには北朝鮮の画像、北朝鮮の音楽、PDF形式の取扱説明書が保存されていた。スマートフォン本体の保証期間は15ヶ月となっており、故障した際はkoryolink取扱店に持ち込んで修理対応となる。

▼Arirang AS1201の化粧箱。
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▼化粧箱の裏面には5月11日工場とプリントされている。
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▼Arirang AS1201のパッケージに含まれる同梱品。
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スマートフォンの筺体はベースとなったUniscope U1201と同じであるが、筺体に入るロゴやハードウェア及びソフトウェアの一部が変更されている。Arirang AS1201はディスプレイの上とリアカバーに아리랑と朝鮮語でロゴが入る。OSにはAndroid 4.0.4 (Ice Cream Sandwich)を採用している。MediaTek製のチップセットを搭載し、CPUはデュアルコアで動作周波数が1GHzとなっている。ディスプレイは約4.3インチqHD(540*960)液晶を搭載する。ナビゲーションキーはディスプレイ外に配置されており、左からメニューキー、ホームキー、クリアキーである。カメラはリアに約800万画素CMOSイメージセンサ、フロントに約200万画素CMOSイメージセンサを備える。

▼Arirang AS1201の本体。壁紙は白頭山天池。
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▼Arirang AS1201のリアはマットな質感に仕上げられている。
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電源を入れるとArirangブランドで統一されたブートアニメーションが表示される。Arirangブランドはスマートフォンだけではなく、タブレット型端末や液晶テレビにも採用されており、ロゴやブートアニメーションも統一されている。ユーザインターフェースはAndroidの標準に近いものとなっている。初期状態では白頭山天池の壁紙に設定されている。白頭山天池の他に、壁紙用の画像としては北朝鮮の観光名所や象徴的なモニュメント等がプリインストールされている。

複数の北朝鮮に関連したアプリケーションがプリインストールされており、特にゲーム系や学習系が充実している。ゲーム系ではAngry Birdsの朝鮮語版が5種類もプリインストールされている。Googleサービスには非対応であるため、Googleサービスのアプリケーションはプリインストールされていない。通知画面はトグルを備えており、簡単な設定の切り替えが可能である。電話用のダイヤルアプリや、メッセージのアプリは一般的なAndroidを採用したスマートフォンと同等である。発信画面ではAndroidのマスコットキャラクタも表示される。

▼Arirang AS1201にプリインストールされているアプリケーションの一部。Angry Birdsだけで5種類もプリインストールされている。
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▼Arirang AS1201の発信画面。Androidのマスコットキャラクタが表示される。
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無線通信関連の仕様では、Bluetoothによるデータ転送やW-CDMA方式による音声通話及びHSPA方式によるデータ通信に対応しているが、無線LANやNFCには非対応となっている。無線LANに非対応のスマートフォンは世界的に見て珍しいが、北朝鮮国内では無線LANが使われておらず、無線LANに対応する必要がないのである。ベースモデルから無線LANを削らずにそのまま残しておく選択肢もあるが、機能説明を取扱説明書に記載する必要があるため、無線LANを削ったと考えられる。また、GPSにも非対応となっている。GPSは北朝鮮国内への持ち込み規制の対象にもなっているため、スマートフォンのGPS機能も削られている。

▼無線とネットワークの設定に無線LANの項目は存在しない。
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モバイルネットワークの通信方式はW-CDMA 2100(I)/900(VIII) MHzに対応し、GSM方式には非対応である。データ通信の設定が存在しており、データ通信機能は削られていないことが分かる。koryolinkのSIMカードを挿入すると、自動的に2種類のAPNが設定される。データ通信を行うにはオプションでデータ通信の契約が必要であるが、データ通信の契約には条件が用意されており、基本的に一般ユーザに対してはデータ通信の契約が許可されていないため、多くのユーザがデータ通信の契約をせずに使うことになる。データ通信が不可であっても、音声通話以外にカメラやゲーム及び学習でスマートフォンを楽しむという。

▼koryolinkのSIMカードを挿入すると自動的に設定されるkoryolinkのAPN。
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システムメモリの容量は768MBで、内蔵ストレージの容量は4GBである。初期状態では内蔵ストレージの利用可能容量は約470MBであるが、アプリケーションをインストールする手段が限られているため、内蔵ストレージの容量に苦しむことはないと思われる。カメラで撮影した写真や動画、音楽は外部メモリに保存される。

システム言語は朝鮮語、中国語、英語の3種類が用意されている。韓国語ではなく朝鮮語となっており、中国語表示にすると朝鮮語であることが分かりやすい。英語表示ではChosunではなくKoreanとなるが、これは北朝鮮では朝鮮の英語表記をChosunではなくKoreaを採用しているからである。例えば、朝鮮民主主義人民共和国、朝鮮中央通信、朝鮮コンピュータセンターの英語表記はそれぞれDemocratic People's Republic of Korea、Korean Central News Agency、Korea Computer Centerとなっており、朝鮮を意味する英語表記はKoreaで統一されている。開発や製造は中国の企業が手掛けていることや、北朝鮮と中国は交流も多いことから、朝鮮語や英語に加えて中国語にも対応したと考えられる。

プリインストールされている文字入力システムはMultiIMEで、多言語対応となっている。朝鮮語、英語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、中国語、そして日本語にも対応し、日本語は精度が低いながらもフリック入力や手書き入力も可能である。タイムゾーンの設定には当然ながら北朝鮮の首都である平壌が入っている。多くのスマートフォンはソウルが入って平壌が入らないが、Arirang AS1201はその逆でソウルは入っていない。

▼システム言語は朝鮮語、英語、中国語が入っている。
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▼中国語表示にしてMultiIMEの対応言語を見ると、韓国語ではなく朝鮮語であることが分かりやすい。日文が日本語を指す。
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▼MultiIMEの日本語入力。フリック入力や手書き入力にも対応している。
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▼標準時がGMT+9の地域は、北朝鮮の平壌、日本の東京と大阪、ロシアのイルクーツクが入っており、韓国のソウルは省かれている。
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端末情報ではOSのバージョンがAndroid 4.0.4 (Ice Cream Sandwich)であることが確認できる。2013年12月28日に購入したのであるが、ソフトウェアのビルド日は購入の僅か9日前の2013年12月19日となっている。端末の状態からは接続先や電波状況等を確認することが可能である。koryolinkのPLMN番号は467-05と467-06が用意されており、接続先の判別を容易にするために接続先はPLMN番号で表示される。

▼Arirang AS1201の端末情報。OSのバージョンはAndroid 4.0.4 (Ice Cream Sandwich)である。
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▼端末の状態から接続先を見るとPLMN番号で表示されていることを確認できる。ネットワークの検索でも同様にPLMN番号で表示される。
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▼通知画面やロック解除画面はkoryolinkと表示される。北朝鮮の外で販売されているスマートフォンはKoryolinkやKORYOLINKと表示されることもあるが、Arirang AS1201は全て小文字でkoryolinkと正確に表示される。
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リアカバーはリア全体が取り外せる形である。リアカバーを取り外すと、SIMカードスロットやmicroSDカードスロットが現れる。ベースのUniscope U1201がデュアルSIMに対応するため、Arirang AS1201も2つのSIMカードスロットを搭載する。片方はGSM方式専用であるため、GSM方式に非対応のArirang AS1201では使用不可となっている。SIMカードスロットのサイズはMini SIM (2FF)である。koryolink以外のSIMカードを挿入すると強制的にシャットダウンされる。電池パックは取り外しが可能で、容量は1900mAhである。電池パックにもArirangのロゴが入っている。電池パックを取り外すとラベルが貼られており、北朝鮮の認証に関するラベルも見られる。

▼microSDカードスロットとSIMカードスロット。
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▼Arirang AS1201の電池パック。電池パックにも아리랑とプリントされている。
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▼電池パックを外すとラベルを確認することができる。ラベルにも5月11日工場とプリントされている。
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北朝鮮のフィーチャーフォンではメーカー名が伏せられていないものも多かったが、Arirang AS1201については完全に伏せられている。初めての北朝鮮国産スマートフォンとして報じられたこともあり、表面的にはArirangブランドだけを見せようとする意図があると思われる。北朝鮮の5月11日工場で製造しているとも伝えられているが、製造は中国との見方が強く、出荷までの一部の工程を5月11日工場で行っていると見られる。

ベースのUniscope U1201からはソフトウェアだけではなくチップセット等のハードウェアにおいても仕様が変更されており、北朝鮮向け専用のスマートフォンであることは確かである。無線LANやGPS、そしてスクリーンショットの撮影機能を削り、またシステム言語やタイムゾーンの設定も抜かりなく北朝鮮独自のローカライズが施されている。特に北朝鮮にとっては大きなリスクとなる無線通信関連は端末側の機能を削るだけではなく契約可能なサービスに条件を設け、情報統制の脅威にならぬよう制限を抜かりなく徹底している。この制限の多さからは北朝鮮の統制社会の一部を垣間見ることができる。

【参照動画】koryolink Arirang AS1201 (North Korea's Smartphone) - Review(筆者が実際にArirang AS1201を操作しているところ)

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。