WirelessWire News The Technology and Ecosystem of the IoT.

by Category

「ちゃんと物事を知りたい」という普通のメディアニーズ

2014.05.23

Updated by Satoshi Watanabe on May 23, 2014, 10:17 am UTC

いつの頃からかは覚えてませんが、タイトルのような問いかけを耳にすることが増えているように思います。傾向として強まってるのはやはりこの5年でしょうか。気配は10年くらい前からありますが、やはりじわじわと増えている気がします。
■ 世の中のことをもうちょっと知っておかないとまずいのでは、との危機感
00年代後半の頃は、サブプライムとその崩壊、という金融危機のフェーズに絡んでいたからか金融や投資についてちゃんと知っておいた方がいいのだろうか、との声が多かったように記憶しています。とはいえ、これもまだあまり熱量というか、知らないとやばいんじゃないか感みたいなのはそこまでありませんでした。
が、最近の同種の問いは、世の中のトレンドについていけないと乗り遅れるぞ、といった軽いものではなく、ある種の切迫感や危機感を伴っているように見えます。また、テーマも「資産運用とか投資とかやっておいた方がいいのだろうか」「経済のことを知っておいた方がいいのだろうか」という教養的感覚のものから、生き延びていくためのツール、それもノウハウツールやtipsツールのようなものではなくサバイバルのための基礎体力のように捉えている感覚を感じ取れます。
もっと端的な表現にすると、「ニュースでやってることをもっとちゃんと分かりたい。分からないとどうもまずい気がするし、きっと自分は分かってないように思える」といったところでしょうか。
この空気を醸成した大きなトリガーは、やはり311とその後のいろんな世の中で起きた事件や出来事であろうと言えます。原発という巨大なブラックボックスについて、その運用や社会的な位置づけの難しさや分からなさというのは、ショートカットに賛成反対を声高に叫ぶ声を多数生むと同時に、自分の生活の根っこにある何か大事なものを根本的に理解してないし、見過ごして過ごしてしまっているということを突きつけたのではないかと捉えています。
311以降の政治経済動向を見て、あれだけの衝撃だったのに日本は結局大事なところを何も変えられなかったのでは?との仮説についてたまに近場の関係者と議論をします。確かに、社会経済の大きな仕組みについては機会(との言い方も語弊はややありますが)を上手く活かせなかった感は否めませんが、でもこういう小さな萌芽は確かに生んだのでは?とも同時に考えます。
テーマ的に増えてきている方向感は、「この先自分たちはどうなっちゃうんだろう?」というものです。これは政治経済から国際社会からについてのいろんなトピックをまるっと大きく引き受けた総体への疑問と不安で、テーマに分解してみると
・国際社会の中における日本(対米、対中、対アジア、対欧州etcettc)
・これからの社会がどうなっていくかと自分達の過ごし方
・さまざまな変化の気配が肌で感じ取れるようになってきたところで何をどう振る舞うべきか
といったことが入っています。
■ いわゆるニュースでは何かが足りていない
というあたり、個別の断片的なFactとしてはニュースで取り上げていたりは確かにしています。しかし、冒頭でも触れた通り「ニュースを見てもいまひとつ分からない」という声は少なくありません。報道で伝えられていることを何も分かっていないのではなけれども、伝えられていることをどう位置づけ理解すればいいのかがもやもやとする、というのが背景にある共通した声です。
つまり、「ニュースのことがどうも分かっていない」との声と「世の中のことをもうちょっと知らないと良くないのでは」との声は絡まり合ったセット事象になりつつあります。
端的には、池上彰氏の番組が評価され著書が売れるのはこのような背景なのでしょう。でも、類書、解説書がたくさん出ているなか、同種の声はどうも絶えることがありません。
ひとつは端的に、あれもこれも読んでいる暇はないし、無い訳ではないのだけれどどれをどう読んでいいか分からない、というガイド不足です。繰り返しですが、池上彰氏は、そのガイドの立場期待として評価されている様子が合わせて伺えます。
でも、やっぱりちょっと一冊二冊入門解説書に目を通したところで、よほどの出来のいいものにしっかりと時間を投じない限り、分かることは多少増えても、分からないことはたくさん残るという状況が残ります。これは、本の出来が悪いとかではなく、シンプルな「世の中のことをちゃんと知りたい。キャッチアップしていきたい」という素直な声をメディア構造総体が埋められてないように見えています。
■ 産業トレンド分析議論とのギャップ感
一応業界の隅っこにいることもあり、これからのメディア(と広告)はどのようになっていくのだろう?といった議論は、ちらほら目を通したり意見交換や仕事でのヒアリングを行ったりとすることは珍しくありません。経営状況や競争動向etcを考えると、こっちの方に向かうよね、との見通しも自分なりに持っているところはあります。
しかし、そういう産業分析的な方向感が、冒頭タイトルの素直な読み手のニーズというか欲しいものと、どうにも噛み合ってるような感じがしません。この先の展開を想定しても然り。
メディアも国営を除くと(NHKやら官報やらでしょうか)商売なんで、お金の算段を付けねばならないのは当然で、(民間)メディアの失態でありけしからん、的なことを言うつもりはありません。
実は隠れた事業機会である、という話であればきっと頭のいい誰かが気づいて手を付けてるだろうことを考えても、本件は既存メディアがさぼってて云々的な、そう単純な話ではなかろうと想定されます。
という訳で、はっきりしたオチは無いのですが、体感的に強いFactというか何かの社会課題、狭義の産業を超えてるかもしれないメディア課題として掲題のテーマはこのところ気になってるもののひとつです。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。